#034 天空第四艦隊群、衝撃戦
♯星歴682年 10月 17日 午前9時22分
ウルスティア領東部、天空第四艦隊群旗艦グルカントゥース
高度三千セタリーブ、大気中層を天空第四艦隊群の九隻は、緩いカーブを描きながら、敵
「
旗艦グルカントゥース、その中央マストに位置する
「徽章確認、古文書アーカイブへ参照中……」
古文書アーカイブには、太古から現在までの数多くの天空艦がその
「徽章、アーカイブに該当あります。敵は、フェリム第4期
「……本営艦隊だと?」
帝都に侵入した
だが、いま天空第四艦隊群が対峙しているのは、
帝都の中と外で、
少なくとも、セオル
あの彼が、作戦の見立てを誤ることがあるのか?
これが事実ならば、鬼才と賞賛されるセオル
そんなことが、起こりえるのか……?
しかし、メートレイア
「敵、
天空第四艦隊群は目標に急速に接近していた。陽動作戦を継続中だった
「
「
対するグルカントゥース率いる天空第四艦隊群は、急遽掻き集めた変則的編成の九隻だけだった。
「なるほど……」
現にいま正対している敵
「敵、
リストを手に、往年の
旗艦、イルスペーレン級 二等支援艦〈ペーレアルム〉
旗艦直属編成
クルックパス級 通報艦 1隻
ヴァリアント級 巡洋艦 2隻
右翼編成
クレイセン級 防御臨撃艦 2隻
ペルティーム級
左翼編成
アズリア級 要撃艦 2隻
ペルティーム級
「なお、ペルティーム級は標準型及び旧型のみです」
船橋に安堵のため息が誰ともなく漏れた。
ペルティーム級
標準型ペルティーム級が
彼我の戦力差を評価し終えた、往年の
「標準型
バルク・イス・メートレイア
「それくらいじゃ負けていい理由にはならんだろう」
この
「速攻で、ぶち破り、突破する」
往年の
「船内、全ての防御隔壁を閉鎖」
「安定翼面及び補助帆を格納」
船体制御を担当する
船橋中央に仁王立ちし突撃準備を指揮するメートレイア
「カルド
「うむ」
カルド
カルド
番号付き
一方、正しき法に則った統治を国是とする
る。
しかし、老獪な古老が求められる役目はそれだけに留まらない。
魔法技術においては、師匠の水準にある彼ら
グルカントゥースの後部信号ヤードが瞬いた。
メートレイア
「あの……? メートレイア
少女が戸惑い声を漏らした。メートレイア
「もうすぐ、ごっつんの面白い戦い方を教えてやるぞ」
「
「風の
「
「爆雷群の進路を推定、演算中――」
船橋中の巨大
そう、直撃されれば、たった数本でも旗艦グルカントゥースは撃沈される。それほどの大火力を
グルカントゥースが備えた
「
普通ならば絶体絶命の危機に際しても、
「爆雷二十二番から二十八番、左舷より急接近――爆雷が
「爆雷十四番、十九番、二十番、右舷より――同じく
多数の
「艦底部からも
メートレイア
そして――叫んだ。
「方位352の俯角2、風魔法〈レーアの羽音羽根〉を多重掛け、十二枚!」
「はいっ!」
その瞬間、巨大なグルカントゥースの船体は、風の翼を十二枚、まとった。
亜音速にまで旗艦グルカントゥースの船体が加速された。
魔法の多重掛け――ラティーナという天才少女の才能のひとつだった。〈レーアの羽音羽根〉は風魔法としては、ごく汎用的なものに過ぎない。しかし、同時に同一魔法を多重掛けで用いることで、その能力と可能性は飛躍する。量が質に転化するのだ。
他方、
全ての
「
グルカントゥースの船体がいるはずの空の一点には、小さな
発熱と冷熱と風と土と光と闇と――相反する様々な魔法の
至近距離で弾けた
少女に騎士服の裾をぎゅっと握られたまま、メートレイア
少女ラティーナは、乱れた栗色の髪を振った。
「さあ、我々のターンだ」
強烈な
「敵艦隊、
メートレイア
「信号旗、無電で各艦へ指示、突撃開始」
後方待機していた八隻が急加速した。
対抗手段を失った敵
「ガルト
「はっ! こちらはお任せください。
往年の
「任せた、こっちは存分にやらせてもらう」
まだ騎士服の裾を、ちっちゃな
「ラティーナ、ごっつんを教えてやろう。
天空第四艦隊群旗艦グルカントゥースの艦首に、巨大な
天空第四艦隊群は、
高速で天空を疾駆し、情け容赦なく敵艦船の舷側に
しかも、この
「艦首、突撃
一番、〈メルディズクの煉獄矢〉
二番、〈メルゼルクの熱共振炉〉
三番、〈ドラスの過重分銅〉
四番、〈レーアの真空斬撃〉
各
旗艦グルカントゥースを
敵
「距離1000セタリーブを切りました。衝撃戦可能範囲に敵艦を捉えました」
続いて船橋に、甲高い空中衝突警報が鳴り響いた。本来は、空中衝突事故を未然に防ぐために、異常接近した
敵妖魔軍船団が恐慌状態に陥ったことは、見てわかるほどだった。空中衝突事故は、天空船にとって最も恐れられることのひとつだった。その大事故をわざと引き起こそうという衝角攻撃は、通常の天空船乗りの感覚からは、正気の沙汰ではない。しかし、天空第四艦隊群は加速を緩めない。彼らは、その火祭りの常軌を逸した活況と、生贄とを欲しているのだから。
「距離50セタリーブっ! 衝突しますっ!」
破壊音。
衝撃にグルカントゥースの船橋も揺れた。
だが、メートレイア
パジャマ姿の小さな少女の栗色の髪を撫でる。
「推進主軸をギアダウン、高トルクモード、メインローター全開っ!」
「はいっ!」
ラティーナの可愛らしい声が
グルカントゥースの推進主軸の減速歯車が一番に低いギア比に合わせられた。天空を高速で飛翔する高回転ギアから、巨大な衝撃専用の低速高出力歯車に動力が切り替わる。
「ぶち抜けっ!」
めきめきっと敵
「艦首
瞬間、風の太刀が
「次、方位120、マイナス12、520――巡洋艦をやる。加速だ」
声とともに、くるりとラティーナの頭をそちらへ向けた。幼い少女は、まだ、自身では
旗艦グルカントゥースは一度、地表近くまで急降下し、大型
「メインローター、リバースっ!」
メートレイア
船尾で推進力を発生させる巨大な風車の如きメインローターが、逆回転した。推進主機を反転させて得られた巨大な制動力が、地面に激突しそうな勢いだった船体を急静止させた。
夢中で
「縦軸方向180度旋回、総員、船体の急激な姿勢変換に注意しろ」
グルカントゥースの各部で補助ローターが全速回転した。
パジャマ姿のままだったラティーナが、またも〈レーアの羽音羽根〉を唱えた。
船首を下に降下していた船体をその場で力任せに上向きに姿勢変換した。
「直上の敵巡洋艦、回避開始しました。方位270……」
真下からの串刺し攻撃の意図に気づいた敵艦が、慌てて逃げ出した。
「もう遅い、艦首
船体の動力だけでは足らず、魔法までも投入した
「次、敵艦隊旗艦を仕留める」
三度、メートレイア
「イルスペーレン級、方位265、同一高度、距離250セタリーブで左旋回中……」
「逃げられると思うな、方位250、敵艦よりも小さな半径で回れっ!」
「はいっ!」
ラティーナの黄色い声が答えた。百合の花を描いた
「敵艦、方位360、同一高度、距離50セタリーブ」
「追いついたっ!」
小さな少女ラティーナは自身のした
メートレイア
「ぶっ潰してやるぜ。艦首
グルカントゥースの
耳障りな重い衝撃音が弾けた。
敵艦の機関部を捕らえた瞬間に、
空気が暴力的な鋼鉄の重りに変わる。敵艦が歪な姿に圧し折られてめちゃくくちゃに潰れた。
「敵旗艦を撃破っ!」
船橋内がどっと沸き立った。
メートレイア
「あなた、そこまでしておいてくださいな」
しかし、紅潮の火祭りは、
「
「交代の時間か…… もう、一隻、やれると思ったんだが……」
頑張ったラティーナの栗色の髪を撫でながら、未練がましくぶつぶつ……
こちらもあきれ顔になった
「うちの各艦もそれぞれ衝撃戦を敢行、十隻を撃破しています。そろそろ仕舞の頃合いかと思われますが……」
そこへ
「レアルティア、左旋回を開始…… 舷側砲列を使用する模様です」
「レアルティアより通信、『舷側砲斉射をします。邪魔だから退避願います』とのことですが……」
通信
続いて
「あなた、あとはこちらで片づけます。お仕事が済みましたら子供たちのお迎えに行ってください」
メートレイア
「戦闘終了…… 後片付けを
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