#033 太古の門、天空航路の道標は
もう、ため息しかでなかった。それさえも星明かりと月明かりの中で真っ白な息になる。寒いよお……
ここ、どこ? それに、時間さえもあやふやで……
帝都よりもずっと北方、ユーフリア地方の広大な針葉樹林帯のどこか? のはずだけど、はっきり言ってユーフリア地方は広すぎるから……どうしよう。
日没直後でこの寒さなら、夜半はきっと風邪をひいちゃう。どこか、
それに、ユカとも合流しないと…… ユカもきっと、この沙漠のどこかで心細い思いをしているに違いないもの。
そこまで考え込んで、ふいに思い出した。そういえば、
ウエストホーチを弄った。ユカが用意してくれたから、
あった!
ウエストポーチから、ハンドコンパスを取り出した。折り畳み式で軽量化された片手サイズの簡易なものだけど、結構、これ役に立つの。
呪文をささやいて起動。使い方は簡単。
このハンドコンパス、こんなに小さいのに航法支援魔法が使えた。自動的に半径五百メルトリーブ以内を探して、あっちこっちに
「……あれっ?」
そのはずなのに、ハンドコンパスの横に浮かんだ
「えっと……航法支援陣がひとつも見えないって……そんな?」
恥ずかしいけど、それで気づいた。このハンドコンパスは、本来なら、
だけど、私、ちびだった。窪地の真ん中にいたら、私の背丈で見渡せる範囲は狭いって、やっと気づいた。
それならばと、後ろに控える
「ガストーリュ、お願い」
重機械の動作音が降ってきた。ガストーリュの右手に乗せてもらった。そのままガストーリュが立ち上がった。
ガストーリュの左肩の上に立って、ハンドコンパスを空に掲げた。
「あれ……?」
またも、航法支援
途方に暮れ始めたとき、ガストーリュに呼び掛けられた。振り向くと、ガストーリュの左首筋に何か光る場所がある。触れると、
「もしかして、これ、使えるの?」
#星歴682年 11月 17日 午後9時25分
ユーフリア北部地方ファレム特別区内 第5時空転移門ファレスティカ門跡。
「来たっ!」
やっと、現在位置判明。
ユーフリア北部地方 第5時空転移門ファレスティカ門中央部……?
見慣れない地名に続いて世界測地系の三次元座標が並ぶ。同時に時間信号も取れたから、懐中時計もリュウズを廻して合わせた。
そして、驚いた。これ、
かつて、
元々が
えっ……?
それは、六百年前の天空海戦時代を現す古い地図データだった。何もない岩砂漠とは全く違う大昔の地図を見て、さすがに気付いた。現在は、何もない岩砂漠だけど、大昔、ここには巨大な時空転移門があったらしいの。
不可能なはずの
データ表示は続いて――このファレスティカ門が
古代艦隊史の時間に習っていた。
六百年前、この世界に侵入した
かつて南半球にあった朱環を突破してこの世界へ侵攻した
その後、ファレスティカ門を全船で通り抜けて、他の時空世界へ侵攻。盛大に暴れ回ってくれたらしい。
それは、私たち
それに他の異世界にもご迷惑をかけしてしまった。情けないことに、
黒髪を横に振った。
今は、歴史の授業じゃない。
いま、戦っている相手は、あの不可視魔法を使い、めちゃくちゃに硬い
そう、一緒に跳んだはずの
したがい、はぐれた
付け加えていうと、
ファレスティカ門跡地を囲む円周の上に、小さな町や村がぽつぽつ…… 目が留まったのは、もっとも北にあるかつての門前町、アルティナ市跡だった。
かつてはファレスティカ門を行き交う交易商人で賑わった都市だけど、現在は、廃墟に近い有様のはず。アルティナ市は、こんな北部の森林地帯の真ん中にあったから、時空転移門を失ったとたんに、ただの交通不便地になってしまったの。
何となくだけど、感覚的な物だから上手く言葉にできないけど、ここに、ユカも、あの
廃墟になった街だけど、無人って訳じゃないらしい。以前、お父様にぽそっと聞いただけだけど、いまも馬車で世界を旅している交易商人たち向けに、ちいさなサライ旅館が残っているらしいの。
日が落ちて、夜風が強くなり始めていた。これ以上、寒空の中にいるのは、ご勘弁。考える時間はおしまいにしようと決めた。
旅館が営業中だとしたら、きっと、何か温かいカボチャのスープとかポットパイとかあるよね。ミネストローネでも、ロールキャベツでも、せいろ蒸しでもいいかな。
思い浮かべたら、お腹が空いてきた。
よいしょっと、ガストーリュの肩から掌へ飛び降りた。地面に降ろしてもらうつもりが、そのまま太い白亜の指に包まれた。お腹を空かせた私を北風から守ってくれたの。
「あの、私、まだ、歩けるよ……」と、言いかけたところで……
くしょんっ!
くしゃみが出ちゃった。鼻をすすったら、ガストーリュは私を右手の中に包んで歩き始めた。
ちょっと、甘やかしすぎだよ……
心の中で白亜の
「ガストーリュ、行きましょうか」
大きな機械の掌の中から、いつも私を守ってくれる
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