#014 天空艦隊統合指揮所、アゼリア直轄領の状況について
♯星歴682年 10月16日 17時10分
アゼリア市中区
石造りの
「
初めて足を踏み入れた天空艦隊統合指揮所は、まるで結婚式の披露宴会場みたいに広くて
変なたとえとは思うけど、この場所、お料理が並べば結婚式の披露宴に本当にそっくり似ている気がした。
艦隊指揮所なんてごっつい名前の場所なのに、凄く
テーブルは騎士団ごとや天空艦隊群ごとに割り当てられているだけど、それぞれの騎士団や天空艦隊群を表す花が飾られていた。
私たち、天空艦隊や騎士団は、とある理由から、可愛らしいお花を
この事情は、複雑な事情があるから、また後で話すね。
テーブルに花瓶を置き生花を盛っている騎士団もあれば、花の
統合指揮所の真ん中まで歩いたところで、鈴の音のような通知音が頭の上から降ってきた。
見あげると、天吊りにされた
驚いた。私の位置、
すぐに、
一斉に私を中心とする円陣を作り跪く。ユカもそれに倣った。人数は僅かだけど、この人たちが私付きの
どきどきした。
頬が一瞬で紅潮したのがわかる。
でも、浮かれている場合じゃない。
どうしよう…… 私、いきなりのことで、まだ、何も解らないよ……
戸惑っていると、後ろから呼ばれた。振り返ると、
「
確か、そう名乗ったはず。この人がペーシオン
今よりももっとチビだった私は、長身の騎士を本当に見あげて一瞬、ぼーとなっていたはず。だってペーシオン
「
思い返すと、すごく間抜けな感じだけど、十二歳の私にはこれが精いっぱいだった。ペーシオン
臨時で私付きに配置された騎士たちも伴い、
やっと座って資料を広げられる場所をもらったから、立ちあがって、私の許に来てくれた騎士たちにご挨拶をした。
帝都内に
「あの、
学校の制服姿のままだった。
体面を保つ程度の役にしか立たないレイピアも、同じく置いてきた。学校の制服姿じゃあ、剣を吊るす気にはなれなかった。私、剣術はできないから、いくら細身で軽くても無駄な物は持ち歩きたくないよ。
それに、剣は指揮命令権の象徴でもあるの。私は初等科の学生にすぎない。誰かを服従させ命令するなんて、あり得ないと思った。命じるのじゃなく、教えてもらいながら協力してもらうんだと思っていた。
「こんな略式で失礼します。よろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げた。騎士たちから、くすくすと笑いが漏れた。可愛いっていわれた。あの頃は、まだ、初等科にいたから可愛いっていわれると素直に嬉しかった。
あとは順番に自己紹介をした。私付き
そして、最後にあの長身の騎士がちゃんとした礼法で名乗った。
「
この見上げるような長身の騎士は、私の補佐役として来てくれた。詰め込み勉強の最中で、経験も知識も足りない私を、実際の作戦では支えてくれた。この方がいなかったら、私、たぶん、困っていたはず。
若くして、アガスティア
ただし、
残りの五人は、ペーシオン
……本当は、
◇ ◇
ご挨拶がひととおり済んだところで、待っていたように、戦況説明が始まった。この天空帝国の指揮系統の中枢には、
セオル
踏んでしまいそうに長い黒革のコートを引き摺りながら、巨大な黒板の前に立った。
珍しいタイプと思う。
セオル
「僭越ですが、僕から現在のアゼリア
言葉遣いもどこか学生気分が抜けていないと思った。
セオル
手元にも印刷された
○星歴682年 10月14日
20時30分頃 アゼリア
21時30分
21時54分 天空艦隊統合指揮所は警戒態勢を発令。
○10月15日
0時15分
2時20分
6時50分 レアルティア
7時10分 夜明けとともに
8時00分
○10月16日
2時30分 天空第四艦隊群より旗艦グルカントゥース他、
4時20分 第七艦隊群よりの分派艦隊は、イル砂漠地方をウルスティア領へ向けて移動開始。
16時20分
17時10分
時系列順に並ぶ対応記録に目を通して、唖然とした。道理で任命式に誰も来ない訳だよ。
「こんなにたくさんの
思わず漏らした。隣でユカが驚きのあまり口元を覆っていた。
天空艦隊の対応はさすがに
さらに、これが大規模なおとりだった可能性も、
「近年にない大規模艦隊による帝都侵攻作戦に一見すると見えるのですが……」
「動きが鈍すぎだな……」
アガスティア
レアトゥール関門は、帝都西側にある山地に開いた切り通しを護る要塞のことだった。帝都に西側から敵が攻めてくる場合、その侵攻ルート上にある重要な関所だった。万が一、敵、
帝都にとってレアトゥール関門は最後の砦ともいえる。
巨大黒板の前に立つセオル
「侵攻速度、艦隊編成、及び現地にて確認された敵
周りに座る天空騎士たちが一様にうなずいた。近年になく規模が大きいから、敵は
だけど……
この時、私はうまく言葉にできない違和感を感じた。
急に色々なことが起きて、たくさんの方々と出会って、
お父様の天空第四艦隊群が見失うほどに高性能な不可視魔法を、
だけど、
……それは、間違いじゃなかったのだけど、この後、びっくりすることになるの。
そして――
さらに、
「陽動である可能性を
最後の言葉は、アガスティア
えっと、また説明だけど…… 私のお父様もそうだけど、天空艦隊群を率いる指揮官たちは、絶対指揮権と呼ばれる凄く強力な指揮命令権を与えられている。自身の
天空艦船の戦いは展開が早くて、現地指揮官の判断で行動しないと
でも、
だから、天空艦隊は指揮系統を二重化しているの。現場の乱戦を切り盛りしているのが、うちのお父様みたいな絶対指揮権保持者ならば、反対に
ここでは
そして、セオル
そのセオル
「
最後のひとこと、お詫びの言葉は破顔していた。私は気にしないから大丈夫と応えた。セオル
そして、セオル
「順当に考えるならば、
さらに言えば、突破口を作られてしまい、帝都南側、
「状況を支えられるか、否かは――
ため息を漏らした。
帝都北側を護る
「現在、第四艦隊群を呼び戻しています。また、第七艦隊群からも戦力の一部を抽出し帝都へ向かわせていますが……あと、20時間ほど要すると見込まれます」
そこまで話すと、セオル
「正式に
いきなりの言葉に、私はしっぽを踏まれた猫のように飛び上がった。
「待ってっ!」
思わず声をあげていた。広い統合指揮所に私の黄色い声が反響した。セオル
「待ってください……それ、困ります」
簡単な仕掛けに引っかかった……と、気付いた。でも、声をあげちゃったから、もう、遅い。
最初に、任命式のことでセオル
そして、これ。びっくり箱を仕掛けられた。
この人、絶対指揮権を持っているお爺さま方を相手に渡り合ってきただけのことはあるよ。可愛い顔しているのに、話術が腹黒い気がする。
「セオル
予定された台詞を棒読みさせられた感覚だった。
「分掌ですね。ありがとうございます。実は、僕もそれを後で提案しようと思っていました」
びっくり箱の話術に引っかかったのに、嫌な感じはしなかった。たぶん、この人は自分の意見を聞いてくれる人にいつも感謝を口にしているの。命令しているのではなく、提案を取り入れて頂いているんだって、そんな話し方をしていた。でも、何か引っかかる気がする。
そして、セオル
でも、すぐにはイラストの意図がわからなくて小首をかしげた。
「
えっ?
驚き顔の私から、セオル
「オーフェリア
ガストーリュを使うの?
セオル
ガストーリュ。私が一目惚れした
この後も細かい伝達事項や、それに対する意見交換が活発に行われた。セオル
でも、私はもう議論の内容なんて耳に入らなかった。やっと直って歩けるようになったばかりのガストーリュをまた、壊してしまうかも知れない。
そう考えると、苦しくって胸が詰まりそうだった。
状況説明会が終わり、それぞれのテーブルで、各騎士団毎に割り当てられた役割をどう実行するのか? を細かく詰めていく段階になった。
くよくよ悩んでいても仕方がない。意を決して、心でガストーリューに呼びかけた。
でもね、本当は……いちいち尋ねなくってもガストーリュの答えは最初から解っていた。私が行く場所に行く。私の盾になる。それだけだった。
ガストーリュ、ごめんなさい。
私は、あなたに護られてばっかりです。
決心したんだから、気持ちを切り替えよう。
「……
通信担当の騎士にお願いして、ウルシル
きっと今夜も徹夜仕事のつもりで
待っている間は、決心したばっかりなのに、ため息が零れた。
……怒られるよね、絶対……
待つこと十五分、ラファル
「えっ? ガストーリュを実戦に投入? えっ! 今すぐって?」
ラファル
私は、じっとラファル
「――解りました。時間優先で動き回れるよう設定を組みます。ただし、慣らし運転も負荷試験もしていない
一瞬、胸が痛かったけど、我慢してうなずいた。
「あと三時間でお願いします」
無理を言っていることは承知で頭を下げた。それから、絶対に怒られるって思ったけど、作戦上必要なことだから付け加えた。
「天空揚陸艦〈パレイベル〉が
当然だけど、
「いきなり蒸気投射管で放り投げるつもりですか!」
やっぱり怒られた。無理はなかった。蒸気投射管というは、かなり乱暴な展開手段だった。つまり大砲と似ている。作戦目標に素早く
私が本気なのが伝わると、諦めた顔になる。
「……解りました。壊れたら、また、一緒に直しましょう」
「ごめんなさい」
あんなに熱心にガストーリュの復元作業に当たってくれた、ラファル
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