第二章:嘲る死神は想いを憎悪する

Plorogue

 かつて世界は神秘と魔法に満ち溢れていた。

 人はそこで自然と神秘と調和し、存在していた。

 しかし、熾天使長ミカエルはそれを許せなかった。

 何故なら、人は『本来の人』と神に抗う『原初の悪魔』が交わって生まれた存在だったからだ。

 『この世界の創造主たる』神に絶対的な忠誠と愛と、敬意を持ったミカエルはそんな悪魔の子である人間が神に匹敵するほどの存在になり得る世界に嫌悪と恐怖を持っていた。

 そこで考えた。

 ならば、世界を変えてしまえばいい。

 ミカエルは同じ高次元超級エネルギー空間世界──アビスに住む『世界の管理者達』を堕天させることにより、その思惑を達成させた。

 今の世界は、人は、ミカエルの手の中にある。


               ――隠秘支配組織アダムの発足 第一章『壊れた世界の創造』 



 『アダム日本支部』。

 その地下基地の一室には、様々な『不可思議に対する知識』を記述された多くの書籍、魔道書が格納されている。

 古めかしく、神秘的な様相でありながら、近代のLEDランプが燈色に灯っている書庫。

 木造の椅子に腰掛け、一人の白髪の老人が足を組み、一つの書に目を通している。

 だが、その視線は書の文字を追ってはいない。

 指先で、紙をなぞるその姿は、まるで文字を『探して』いる様であった。


「ふう、全く。『アビスの住民はアビスの住民らしく』おとなしくしてもらいたいものだ。折角の『物語』だったのに。あっけない」


 そう呟き、サイモン・カーターは『読んでいた』書物を閉じる。

 くく、と呟き、サイモンは口を深く吊り上げる。

 その指先をぐるぐると動かし、『何か』を描く様にテーブルを這ってゆく。

 しばらく動かした指先は、ベキッ、という音でテーブルに『指の痕』をくっきりと残し、制止。

 

「さて、今回はどうなるのか……期待しているよ。坂口、京馬くん」


 途端、直ぐに立ち上がり、サイモンは『アビスの力』が生み出した『疑似太陽』へと歩む。

 書庫からテラスへと進んだサイモンの黒いスーツは、光る日差しによって照らされる。

 しかし、その黒は輝かしい太陽から放たれた光でさえも呑みこむ。



 この世界の神秘は、魔法は、人々からは在り得ない現象であり、存在である。

 そんなものを信じるのは人としては異端であり、不可思議である。

 それが世の思想。

 天橋高校一年生、坂口京馬はそんな世の思想に浸透する、健全で、普通で、自然な高校生だった。


 『神の夢』を見る前は──


 京馬は夢で触れた羽によって、異能の力に目覚めることになった。

 そして、彼が拒絶した世界の神秘や魔法に触れることになる。

 しかし、その力を得た直後、彼は大事な人を失う。

 その出来事は、彼の力を呼び起こし、そして彼に決意させる。


 『この世界』を守り、変えていくと──

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