全てを知る強者達

 辺りで、戦火が巻き起こる。

 様々な者の叫びと衝撃音がところどころから響いてくる。

 しかし、その戦場の中、何食わぬ顔で佇む男女がいた。


「さて、最後の招待客も来られた。君の大好きなパーティーの始まりだね。浅羽?」


 黄金の鎧と頭部を完全に覆う兜を装備したアルバートは告げる。

 陽が消え、夜の帳がアルバートを包む。

 だが、その黄金の鎧は闇をかき消すように神々しく光る。

 まるで、闇までも奪い去るかのように。


「貴様は招かざる客だがな」


 その黄金を睨みつけ、浅羽は面白くなさそうに口を開く。


「まあ、そう言うな。共に協力して目的を達成しようではないか」


 はっはっはっは! と、アルバートは豪快に笑う。


「ちっ」


 舌打ちをし、浅羽はスーツのポケットから煙草を取り出す。

 そのやり取りを可笑しそうな笑みで、黒衣のローブの女が見つめる。


「ふふ。さて、じゃあそろそろ私は『あの子』のところへ向かおうとするかね」

「ああ、ちょっと待って頂けないか。キザイア嬢」


 頭部の兜を両手で掴み、アルバートはその兜を脱ぐ。

 そしてローブを翻し、去ろうとするキザイアの足を止めた。


「何だい?」


 顔をしかめ、キザイアは振り返り、不機嫌に答える。


「あー、私としたことが……ちょっと聞きそびれたことがあってね」


 頭を掻き、アルバートは苦笑する。


「君は、何故あんな小娘にご執心なんだい?」


 眉間をぴくりと動かし、キザイアは一寸置いてから口を開く。


「それを聞いてどうしたい?」


 キザイアはアルバートを睨みつける。


「過剰な欲は、身を滅ぼすことになるよ」


「はっはっは! 済まない、私は随分と『強欲』なものでねぇ」


「たかが、『人間』如きが」


 ぼそりと、キザイアは呟き、顔を正面に戻す。


「私は、君の正体をとうに知っているよ。だが、あえて言おう」


 アルバートの一声に、キザイアの動きが止まる。


「何時までも、『世界』を思うままに出来ると思うなよ、化け物が」


 その声色には怒気が込められていた。

 アルバートが告げた途端、周囲をどす黒い重圧感が包む。


「──何時までも、『この世界』を歩けると思うなよ。低次元の生物が」


 そう言うと、キザイアを黒煙が包み、そしてその姿は消失する。




「よくあいつの正体を知って、あんな啖呵が切れるな」


 そのやり取りを見つめていた浅羽は、無表情に、しかし意外そうに問う。


「はっはっはっはっは! いやぁ、柄にもなく、意味の無い挑発をしてしまったね」


「挑発? 馬鹿を言え。あれは、貴様の感情をそのまま吐いただけだろう?」


「……そうかも知れないねぇ」


 アルバートは何時もの馬鹿笑いを止め、ため息を吐く。


「私にも、俗に言う『正義』というものが一片ほど残っているのかも知れないねぇ」


 振り向き、アルバートは浅羽に微笑する。


「『正義』? ははははははっ! お前ほどの人間がその言葉を、そのように使うとはな!」


 浅羽は、声高く笑う。


「何を言う。私はエゴイズムの押しつけが大好きでね。割と気に入っているんだよ。『正義』という言葉がね」


 皮肉の笑みを浮かべ、アルバートは告げる。


「しかし、君は彼女と相反する存在の一部分を宿しているのに関わらず、どうしてそんなに平静を保てる?」


 続き、アルバートは浅羽に問う。

 浅羽は、アルバートの問いに口を吊り上げ、告げる。


「俺を見くびるなよ、道化が」


 その浅羽の不敵な笑みに、アルバートは興味深げに、顎に手を当てる。


「ふーむ、やっぱり、君は欲しいねぇ……」


 感嘆にも似た声色に、浅羽は満足気に答える。


「俺も『傲慢』の大罪を持つ大悪魔に認められた存在だ。あの化け物の中の化け物どもにも後れを取るようならば、自分の世界の永遠の帝王など目指せるはずもない」


「恐ろしい男だよ、君は」


 ふう、とため息を吐き、アルバートは告げる。

 途端、アルバートの背後に空間の歪みが生じる。

 揺らめいた空間は漆黒を描き、そこからスーツに身を包んだ美女が姿を現す。


「アルバート様、『御前の七天使』が一人、レミエルが近づいてきています。そろそろかと」


 片足を地に着け、美女はしゃがみ込み、アルバートに報告をする。


「そうか。では、行こうか。キャシー」


 アルバートは笑み、告げると同時に兜を被る。

 そして空間の揺らぎへと歩を進める。


「まるで、おつかいにも行くようなノリだな。自身と同等ランクの化け物と対峙するのに」


 浅羽の背後の声に、アルバートは大笑いをして、告げる。


「はっはっはっは! そうだねぇ! でもね、アダムという組織を舐めてもらっては困る。アダムは、君が思っている以上に相当に手強いよ」


 振り返り、アルバートは不敵に浅羽へと微笑む。


「何て言ったって、この私でさえも出し抜くのにこんな長い期間を要したのだから。今頃、レミエルは手足でももぎ取られて、断末魔の叫び声でも上げているのかも知れないねぇ?」


 そう、一言告げると、アルバートは空間の揺らぎへと消えていった。




「だからこそ、超えてみたいんだ。クロノスの横暴、ティアマットの策謀、テスカポリトカの征服……数々の世界の危機を救った『人』の最高峰が集う組織──アダムは、俺が『帝国』を築くための踏み台に適しているんだよ」


 浅羽は、煙草を吹かし、呟く。

 その浅羽の周囲に、飛来して複数の純白の羽を持つ天使が降り立つ。


「全く、貴様ら天使は分かっていない。貴様らの、自身が人よりも優れているという『傲慢』は、『傲慢』ではなく愚かで稚拙な勘違いだ」


 浅羽は煙草を投げ捨て、両銃を発現させる。


「我ら、人は成長する事が出来る。それは、貴様らの様な『限界』がないということだ。良くも、悪くもな」


 そう告げる浅羽に、炎や氷、そして様々な形状の武器を持った天使が襲いかかる。


「人の歴史から消えるがいい。無能ども」


 迫りくる天使に、浅羽は小馬鹿にした鼻笑いを向けた。

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