心を持たないブリキ人形
「今度は、機械仕掛けの町か。何だか、えらく近代的になったな」
京馬達は、周囲に配管工や電線が散在し、ブリキ造りの家々が立ち並ぶ場所を歩いていた。
「流れ的に次はブリキの人形が襲ってくるんだろうな」
機械の可動音が響く中、剛毅は告げる。
「どうして、分かるんですか?」
京馬は、横隣りで歩く剛毅に問う。
「俺達が会ったグリンダ、オズの王様、さっきの案山子の化け物……他にも色々あるが、こりゃ、『オズの魔法使い』をモチーフにした物語だ。だったら、統一して次はブリキ人形の化け物が襲ってくるのがセオリーだろ?」
「『オズの魔法使い』ですか……俺、読んだ事ないんですよね。だから、何が何だかさっぱりで」
苦笑して、京馬は告げる。
「そうか。これもジェネレーションギャップって奴なのか? まあ、ともかくそろそろ敵に出くわすかも知れねえから、いつ襲われてもいいようにしろよ?」
「分かりました! 気を引き締めます!」
京馬は、青白い弓を発現し、周囲を警戒しながら歩を進める。
すると、ガシャコンッ! という音ともに、目の前の巨大な鉄塊が軋み、動き始める。
「敵かっ!」
「そのようだ!」
京馬と剛毅は、構え、その鉄塊と対峙する。
「オマエラハ、ココロヲモッテイルナ? ドウダ、ワタシニソノココロヲクレナイカ?」
鉄塊の上部から声が響く。
「残念だけど、お断りだ! つーか、そんな一方的な交渉が通じると思ってんのか? クズ鉄」
「ワタシハ、ココロガナイ。ダカラ、ソンナコウショウナンテシカタワカラナイ」
剛毅の問いに、鉄塊は困惑の声を響かせる。
途端、土が盛り上がり、その鉄塊から生えた鉄の足が姿を現す。
そして、その体の両脇からは同色の手が勢いよく飛び出る。
「ワカラナイ、ワカラナインダヨオオオオォォォォッ!」
鉄塊は、その両腕を勢い良く、京馬達へ向けて払う。
その一撃を軽やかに飛び上がり、二人は躱す。
「遅すぎる!」
「雑魚が、粉微塵になれ!」
京馬は矢を放ち、剛毅は魔法陣を発現させ、炎熱の拳をその巨体に叩きこむ。
「フ、フギャアアアアアアァァァァァッ!」
轟音と共に、鉄塊は地面に沈む。
「弱い。楽勝だね」
呆気なさすぎる敵との戦いに、また京馬は拍子抜けする。
「いいや、様子がおかしい。まだだ」
しかし、剛毅は警戒し、構えを解除しなかった。
「イタイッ! イタイゾオォォォォッ! ココロヲ、ジッカンデキル! モット、モットダッ!」
途端、地響きが起こる。
そして、周囲のブリキ造りの家々がカシャカシャという音を立て、可変し、その鉄塊に集まってゆく。
凝縮。
その形状は、鋭利に、そして現代的なデザインへと変貌してゆく。
「モット、『ココロ』ヲ、カンジサセテクレエエェェェェェェッ!」
雄叫び、鉄塊からロボットへと変化した大男は、サーベルと変化した右腕を京馬達へ目がけて振るう。
「しつこいんだよっ! ドM野郎っ!」
剛毅が、そのサーベルの横腹を抉るように殴りつける。
「なっ、かてぇっ!?」
剛毅が殴りつけ、破砕しようとしたサーベルは、何事も無く勢い良く振り抜かれた。
「『
瞬時に避けるのは無理と判断した京馬は、自身の感情で創り出した障壁でその一撃を防ぐ。
「ちっ、思った以上に頑丈だな。こいつは、あまり精神力を節約できねえか!」
舌打ちをし、剛毅は新たに赤の魔法陣を展開する。
そして、魔法名を口にしようと瞬間、ロボットの巨躯を何重もの鎖が雁字搦めに縛り上げる。
「ケケケケッ! グッドタイミング!」
声と同時、その巨躯を一つの大剣が真っ二つにする。
「アアアアアアアッ! イタイィィィィィッ! ココロガ、アルヨオオォォォォォォッ!」
歓喜にも似た断末魔を上げ、ロボットは霧散する。
「真田さん!」
「遅かったじゃねえか、和樹!」
二人の眼前には、いつもの白い厚手のコートを羽織った真田が立っていた。
「ケケケケケッ! こんなおもちゃに苦戦するようじゃ、何時までも桐人さんに追い付けないぜ、『炎帝の魔術師』」
「別に苦戦してねーよ。どうやったら精神力を抑えて、効率よくあの木偶の坊を始末しようか考えていたとこだ。俺の考えだと、この『物語』はまだまだ続くからな」
真田の挑発に、剛毅は嘆息して答える。
「『二人のピンチに突如として現れたのは、莫大な懸賞金がかけられている西の魔女を付け狙う京馬君をよくいじめていた悪餓鬼そっくりの賞金稼ぎでした』」
ドリームキャットのナレーションが響く。
「……と、まあこんなキャラ設定で俺はこの『物語』の配役になった。ケケケケッ! よろくな、京馬、剛毅!」
狂気の笑みを向け、真田は言う。
「夢子―、暇だー」
「ちょっと黙ってろ、筋肉馬鹿」
薄暗い部屋を、淡い青色の光が照らす。
その発生源である水晶を見つめ続ける夢子。
その腰掛ける椅子の下をごろごろと転がる大男は、子供のように駄々をこねる。
「何だよー! 天使と人間の大決戦つーから、すげえつえー奴がたくさんいて、俺もそのつえー奴と戦いまくれると思ったのによー!」
「だから、うっさいっつってんでしょ、新島! 気が散るから、部屋から出てけ!」
げしっ、と夢子は椅子下で横たわる新島を足蹴にする。
「あー、良い事思いついた!」
その夢子の足蹴を意に介さず、新島は起き上がり、手の平に拳をぽんと置く。
「なあなあ、俺も、お前の『物語』に入れてくれよ」
「はぁ?」
新島の提案に、夢子は怪訝な表情で答える。
「俺を『配役』にしてくれよ! そんでさー、あいつらと戦わせてくれ!」
「何言ってんの。あんたは、うちの班の最終兵器よ? まだ劣勢じゃないこの状況じゃ、あんたを『入れる』ことは出来ない。 いざという時のために力を温存しておきなさい」
ため息交じりに答える夢子の言葉に、新島は納得いかない顔をする。
「……何だよ、お前だけ楽しんじまってさ。俺も、楽しみてえんだよ!」
むすっとした態度で新島は頬を膨らませる。
「ったく、子供じゃないんだから──ん、待てよ。それ、良いかも知んない」
はっとして、夢子は自身の言葉を撤回する。
「え?」
「そうだ、私の捕縛結界の可能性、それを試してみるのに丁度良い機会だね」
手を顎に当て、夢子は思慮する。
「前言撤回だわ。新島、あんたを『ライオン』役に抜擢するよ」
夢子の言葉に、新島は先ほどの不機嫌から、歓喜の表情となる。
「え、マジで?」
「マジよ、大マジよ。 さ、すぐ取りこむから、思う存分戦ってきなさい」
「うひょお! 夢子サンキュー! でも、何でいきなり突然?」
新島の問いに、夢子はにやりと口を吊り上げる。
「私の『
「そうか。ん? そうか?」
特に何も考えず、新島は夢子の言葉に頷く。
「じゃあね。ああ、京馬君は殺しちゃダメよ?」
「おお、ひと暴れしてくるぜ!」
新島が答えると同時、その体は光る粒子となり、水晶へ吸い込まれていった。
「ふふ、我ながら良い事を思いついたわ。でも、結局は新島に人の事は言えないか」
苦笑して、夢子は再度、水晶を見やる。
「ここら一体はミシュリーヌの警護があるから安心ね。まあ、天使が来ても私の世界に取り込めば済む話だけど」
そう呟いた、夢子はふいに思い出す。
「そういえば、美樹はどこへ行ったんだろ? 特に告げずに消えちゃったけど」
しかし、まあ良いか、の一言で夢子はその思考を閉ざすのだった。
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