師との対決
「あれから、五日も経ったのか……」
「あの六日前の襲撃、それとケルビエムの戦闘から、全く天使の動きがない……いつもならどこかで必ず天使と私達アダムでカチあわすのに、最近はそれすらもない」
「天使の『断罪』がないから、各地でエロージョンドが大発生してるらしいね。手駒が増えるから、私達アウトサイダーには嬉しいことだけど」
天橋高校の二階から三階へと連なる階段の吹き抜けに京馬と咲月、そして美樹が佇む。
「ともかく、これは絶対何かある。油断は出来ないね」
咲月は京馬の顔を見て言う。
「ああ、俺はもっと慎重に行動した方が良いかもな」
その咲月の目に京馬は頷く。
「ところで、そんな状況下で言い辛いんだけど……」
「うん? 何だ、美樹?」
目を逸らし、もじもじする美樹に京馬は問い掛ける。
「実は……お父さんが会社でディスティニーランドの無料券貰ってね? 友達と一緒にどうだって……丁度、今度の日曜日に期限切れちゃうんだけど、どう?」
「ええっ!? ディスティニーランドって、あのでっかいテーマパークの!? 行く行く! 私、大っ好きなんだっ!」
美樹の誘いに、咲月は目を輝かせて答える。
「京ちゃんは、どう?」
そんな咲月に首を下に振った後、美樹は京馬の顔を見て尋ねる。
「うん、いいよ。他に呼ぶ人は?」
京馬はその誘いに快諾する。
どうせ、どこにいてもアダムの監視があるし、変わらないと判断したからだ。
「四枚あるから、あと一人なんだけど……」
「じゃあ、俺以外に枠はないな!」
突如、階段の上から声が聞こえ、三人は振り返る。
「賢司! あれ、お前、今日部活じゃあなかったのか?」
「ああ、適当な理由をつけて休んじまった。最近、スランプでよ」
京馬の問いに賢司は手を水平に持ち上げ、苦笑して答える。
「日曜になるんだが、部活は大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫だ。丁度、今度の日曜は顧問が休みで自主練の日になっていたからな」
「……じゃあ、残りは賢司くんでぴったり四人だね」
そんな賢司を、美樹は少し怪訝な表情で眺めた後、言葉を放つ。
「うん。じゃあ、何時にどこに集合にしようか?」
美樹に頷き、京馬は集合日時を皆と相談した。
不自然ほど汚れも錆もなく、乳白色で彩られるロビー。
そこには、丈夫なステンレスを骨組みとした、それと対比する柔らかくて弾性のあるクッションの椅子が複数。
その椅子に囲まれるテーブルがさらに複数。
そんなアダムの地下基地の隅のテーブルに京馬達アダムのメンバーが集まる。
「ほう。それで、日曜にディスティニーランドに行く事になったわけだ。しかし、このタイミングで誘うってのがなぁ……やっぱり、どうも怪しい」
目を斜めに逸らし、剛毅が呟く。
「何が、怪しいんですか?」
その剛毅に京馬は首を傾げ、尋ねる。
「美樹……いいや、アウトサイダーの方がな。もともと、この休戦協定だって上層部は何か企みがあって提案してきたと踏んでいるからな」
「へえ、じゃあ何でアダムはその休戦協定を呑んだんですか?」
「それは……まあ、アウトサイダーにその組織の力を見せつけられちまったからな」
剛毅は後頭部を掻き、答える。
「お前が氷室と戦った時があったろ? その時に内の最高戦力である……もう、お前らには隠す必要はねえか?」
剛毅はそう言って、横で紅茶をすする桐人を見る。
桐人はオーケーだと手でサインを作る。
「そう、内の組織でサイモンと同等以上の実力を持つ桐人ことルシファーと対峙し、アウトサイダーのトップである浅羽は互角に渡り合った。さらにエレンは成す術もなく黒いローブを着た人物にやられちまった。この事件の後に、あいつらアウトサイダーは内にこう提案したんだ」
そう言って、剛毅は人差し指を京馬に向ける。
「『我らは天使ガブリエルの化身の守護を目的としている。ミカエル率いる天使の侵攻がある内は共に休戦しようではないか。我らにその提案ができる力があるのは分かっただろう?』ってな」
「つまり、僕とエレンはその交渉の当て馬にされたのさ。……悔しいけどね」
苦虫を潰したような顔で桐人が呟く。
「そしてその協定によって、より京馬君との距離を近付けて、今回のアダムと天使勢の対決のタイミングを見計ろうとした」
顎に手を当て、エレンが思慮する。
「ああ。そして、奴らは間違いなく今回の対決の時に大きな行動に出るだろう。それが、どんなものでどうやるのかは分からないけどね」
「桐人、その件についてはウリエルも教えてくれなかったのか?」
剛毅の問いに桐人は首を横に振る。
「駄目だね。休戦協定以降、あいつは進んで俺と戦おうとしなくなった。というか、俺に関わろうとしなくなった。どうやら、今回の作戦はアウトサイダーとあいつの利害が完璧に一致する何かがあるのだろう」
嘆息する桐人。その桐人を見つめ、京馬は思慮する。
「美樹に俺が聞いてみるか……?」
ぼそりと京馬が呟く。
「出来れば、そうしてもらいたい。だが、恐らく洗いざらいは話してはくれないだろうけどね」
「でも、何かしらのヒントになりそうなことは言ってくれそうな気がします。美樹は美樹なりの目的で、アウトサイダーに所属していると言っていました。だから、その目的が阻害されない程度の情報だったら、教えてくれそうな気がします」
「美樹ちゃんの目的……か」
京馬の言葉に、隣で物憂げな表情を浮かばせた咲月が呟く。
「まあ、こちらでも色々と調査してみるさ。最近、天使の襲撃もなくて、手持無沙汰な海外から来たインカネーター達が退屈そうなんでね」
「そうだな。アルバートさんにお願いして、調査班を編成してみるか? あの人なら、一声でほとんどのインカネーターが動いてくれるだろうし」
「そうね。じゃあ、私からアルバートのおじさんに連絡してみるわ。昔、お世話になった好もあるし」
そう言って、エレンは携帯をジーンズのポケットから取り出す。
「ところで、京馬君。最近、何か自分自身の内で変化はなかったかい? 例えば、自分の性格や考え方が変化したかとか」
「はい? そうですね……これは以前に工場で氷室と戦った後に話したと思うんですが、より自分の中の『正義感』にみたいなものが強くなった気がします」
「それだけかい?」
「はい」
その京馬の返事を聞き、桐人は一寸の思慮の後、続ける。
「じゃあ最近、変な夢を見るようになったとかは?」
「それは……」
京馬は少し口籠る。
実は、以前に京馬はガブリエルに夢の中で忠告されたからだ。
「ああ、ここで私と会話出来ることは他言無用ね? それは、私との『約束』。まあ、破るのも守るのも自由だけどもね?」
そう、無邪気に笑って、ガブリエルは言った。
はい、と首を傾げながらも承諾した京馬だったが、その意図は全くわからなかった。
しかし、ケルビエムとの一戦の後、ミカエルにその事を言ってしまった。
よりにもよって、京馬の最大の仇敵に、だ。
しかし、その事実を言ってもガブリエルは特に言及することはなかった。
別に言ってしまってもいいのだろうか?
そんな考えに京馬は到達する。
「はい……実は、今まで秘密にしていたのですが、俺は夢でガブリエルの本神と会話できるようになりました」
「っ! それは……本当かい!?」
途端、桐人は目を丸く、驚愕の表情に変わり、京馬に問う。
それは、エレンと剛毅も同様だった。二人も驚愕の表情となり、京馬を見つめる。
「え、ええ……俺はそこでガブリエルと何度も会話しています。『
京馬はその桐人達の変化にたじろぎながらも答える。
「『神の夢』を見続けるものがまた一人……か」
そう言って、桐人は立ち上がる。
「京馬君。君は、君が思っている以上に成長している。そこで今からやってもらいたいことがある」
「やってもらいたいこと?」
京馬は険の表情を露わにした桐人に戸惑いながらも答える。
「俺と、一線交えてもらいたい」
桐人は、いつもの穏和な表情を消し、京馬を見据える。
灰色の無機質な内装の広い長方形の部屋。
そこは、以前に京馬がエレンや咲月と対峙したトレーニングルーム。
「これで良いですか、ね? いやぁ、まさか桐人さんがこのトレーニングルームを使うとは」
立体的なホログラムで造られた半透明なキーボードを指で叩きながら、茶褐色に染められた短髪の青年が呟く。
「銀二。今回は、少々度が過ぎるかも知れない。『魔法鉱物』の用意をしているか?」
「ええ、あの『
桐人の問いに、銀二は親指を立て、答える。
「……あの人は?」
そんな銀二を京馬は指差して、エレンに尋ねる。
「ああ、彼は四ノ宮銀二。アダム日本支部の整備班リーダーを務める、悪魔『グザファン』を宿したインカネーターよ。……変人だけど良い子だから、仲良くしてね」
「ちょ、酷いじゃないですか、エレンさん。僕のどこが変人だっていうんですか!?」
「銀二、この世界で一番好きなのは?」
「今更、何を言ってるんですか!? そんなの断然、僕の整備している機械達に決まっているじゃないですか!? この僕が昼夜問わずに世話をしている子達……! この子達に勝るものはこの世界に存在しないっ!」
エレンの問いに銀二は拳強く握って頭上に掲げ、声高く主張して答える。
「ね? 変わってるでしょう?」
そんな銀二を見やり、そして京馬に顔を向けてエレンは言う。
「そ、そうですね……」
京馬は苦笑し、答える。
「はは、相変わらずですね、銀二さん」
そして、隣にいる咲月も苦笑いをしていた。
「みんな、ひどいなぁ……何故、この気持ちを理解してくれないのだろう?」
銀二は嘆息し、キーボードを打ち続ける。
「京馬君。一つ忠告しておくよ?」
「はい、なんでしょうか!?」
桐人の言葉に、京馬は表情を険にする。
「僕は初っ端から、『この姿』の本気を出す。だから、最初から全力で来るんだ。……じゃないと、下手したら死ぬかもしれない」
「死ぬ……!?」
その一言に、京馬は息を呑む。
「ああ。だから、出し惜しみをしないでおくれよ?」
そう言って、桐人はシルフィードラインを発現する。
「何故、俺と戦おうと思ったんですか?」
険の表情で剣槍を構える桐人に、京馬は問う。
それは、ロビーからここに来るまでに疑問に思ったことだった。
「言っただろう? 君は君が思っている以上に強くなっている。……『俺』はその実力を見極めたい」
「それだけですか?」
「ああ、それだけだ。俺を仇だと思って全力で殺しにかかってこい」
「……!」
そう言った、桐人の威圧に京馬は思わず後ずさる。
そして、京馬は悟る。
この人は本気だ、と。
「桐人さん。準備が出来ました。いつでも、戦えますよ」
そんな中、銀二は微笑んで告げる。
「では、始めようか。京馬君」
桐人が剣槍の切っ先の標準を、京馬の腹部中心へ向ける。
「『
同時に、桐人の足元に緑の魔法陣が発現し、下から上へと桐人を呑み込むように、立ち上がる。
「くそっ! 桐人さん相手にどこまで通じるかわかんないけど……やってやる!」
京馬は青白い閃光を放った弓とその弦に同色の五つの矢を発現させる。
「『想いの力』、四大天使が一人、ガブリエルの『概念構築能力』! どれほどのものか、興味があったんだっ!」
桐人は悦の笑みを浮かべ、京馬の下に駆け出す。
と、皆が思った瞬間だった──
「消えたっ!?」
突然、眼前の桐人は消失する。
刹那──京馬に異常なほどの『危機』の感情が芽生える。
それは、考える間もなく、反射的に、そして本能的な動きであった。
「『
京馬は五つの矢を使い、その力を全て防御に注ぎ込む。
同時、
ガガガガガガガガガガガッ!
「ぐ、何て手数だ……!」
突如として、前方の防護結界に目では視認できないような、超高速の突きが突き刺さる。
それは、アビスの力で超常的に強化された京馬の目でも捕えられないほどだ。
「ほう。さすが、『風魔の貴公子』の肩書きを得られただけあるな。手数の多さじゃ、内でも一、二を争うんじゃないか?」
そんな桐人の神速の突きの連撃に剛毅は思わず感嘆の声を上げる。
「でも、自分ならあの程度どうとでもなるって思ってるんでしょ?」
そんな剛毅を咲月は下から見上げ、にししっと笑う。
「思っちゃ悪いかよ! 実際、俺の炎の魔法なら、あの程度簡単に捌ける」
けっ! と、剛毅は不機嫌な表情で、戦闘を観戦する。
「も、もう限界だ……!」
バキャアァァァァン!
と、結界は破砕し、京馬は仰け反る。
「そんな呆けててもいいのかい? 言っただろう? 俺は、君を本気で殺しにかかるよ?」
「──!」
その桐人の声に、京馬は倒れそうになる体を起こし、叫ぶ。
「だったら、俺もあんたを完膚なきまで叩きつぶすっ! その『決意』をっ!」
途端、京馬の全身を青白い閃光が包む。
「あんたに、ぶつけてやるっ!」
「やってみろっ!」
突然の桐人の猛攻に、京馬は同時に『怒り』を内包した矢を放つ。
「ぬう……はっ!」
その京馬の『決意』と『怒り』の感情で強化された五つの矢を、桐人は一撃で霧散させる。
「く、この攻撃ですら、余裕で打ち負かす事が出来るのかっ!?」
京馬はそう言って、白い魔法陣を自身の足元に展開させる。
「『
足元から全身に駆け巡る白い奔流は、京馬の精神力、治癒力、攻撃力、防御力、あらゆる力を高める。
「これなら、どうだ俺の『決意』と『怒り』、さらに、俺の『希望』を乗せた一撃っ!」
京馬は、五本の矢を収束させ、一本の矢を放つ。
「いけえええええぇぇぇぇっ!」
さらに、京馬の叫びとともに、『想い』が増幅された矢が桐人へと向かう。
「さあ、その一撃に俺の魔法が打ち勝つ事が出来るかっ!?」
桐人は、口を吊り上げ、両手に緑の魔法陣を展開させる。
「『
桐人は、シルフィードラインと手をクロスさせ、その中心から漆黒の竜巻を発現させる。
ズオッ! ババババババババババッ!
その竜巻は、京馬の放った極太の矢と拮抗し、地面のコンクリートを抉りだす。
「くっ……押されている!」
京馬は唇を噛み、両手に力を込める。
「駄目だ。俺の圧勝だね」
そう言った、桐人は翳した手をさらに前方へ。
「ぐ、ぐあああああああぁぁぁぁぁっ!」
途端、竜巻の勢いが増し、京馬の放った矢を呑み込んで、京馬を吹き飛ばす。
「そんなものか? 真の姿にもなっていない俺と対決して、ここまでボロボロになるなんて、正直期待外れだよ」
呆れ声を洩らし、桐人は言う。
「くそっ! 残るは……『
「悪いが……ここで死ぬようじゃあ、『目的』のために君は俺と共に歩むことはできない! さあ、京馬君の全力を見せてくれっ!」
唇を噛み、焦燥する京馬に対し、桐人は鋭い殺気を向ける。
その桐人の手にあるシルフィードラインの閃光は、一層と輝きを見せる。
「桐人……! あいつ、本気で京馬を殺す気かっ!?」
「え……?」
剛毅の驚愕を現した表情に、咲月は思わず剛毅へと顔を向ける。
「『
声を発した桐人の周囲に、圧倒気的な覇気を内包した波動が噴出する。
「やめろっ! 京馬がいくら強くなったとはいえ、あいつはその一撃を耐えることはおろか、消し炭になっちまうぞ!」
「いえ、これはこれから先、京馬君が超えなければならないことのために必要な事。私達は、見守ることしかできない」
訴える剛毅を、エレンは制止する。
その表情は平静を保っているつもりだろうが、もどかしさを押し殺した悲痛の表情であった。
「そんな……! 京馬君……!」
そのエレンの言葉に、同様に咲月は悲痛の表情となる。
「くそ……! こんな圧倒的な力……! ガブリエル、力を貸してくれ!」
桐人のそのまま喰い殺してしまうような圧倒的な波動の渦に、京馬は怯みながらも自分に力を与えた守護天使に願う。
途端、京馬の意識は別次元へと移行してゆく。
「ここは……!」
気が付くと、京馬はまた自身の捕縛結界である晴天の荒野にいた。
「だから、他言無用って言ったのに……まあ、確かにこれもいずれ超えなければならないこと。京馬君、思い出して。あなたは何を願って、この力を振るっているの?」
背後からの突然の声に京馬は振り返る。
「それは……誰もが『希望』を持てる世界に俺が創り変えるためだ! そして、美樹を悪魔の呪縛から解放するため!」
京馬は神秘的な美しさを持つ自身の化身の本神──ガブリエルに自身の『目的』を訴える。
「そう。だからこそ君はいずれ、あの『君の世界』の創造神の半神とも言える『彼』の力を超えなければならない」
「でもわかるんだ……! 正直、『壊れた世界の反逆者』を発動しても、あの人には到底およびもしない!」
京馬は顔を下に向き、歯ぎしりする。
「思い出して。君と私の力の根源は何?」
「それは、『想い』の力だ。……だけど、それがどうしたって言うんだ?」
顔を上げ、京馬は答える。
「わかってるじゃない。そう、君は自身の『想い』だけで強くなることが出来る。それって、『生物』として、とっても羨ましいことなのよ?」
「それは……わかっている。『想って』も普通の人は強くなる事なんて出来やしない」
「だけど、君は強くなる事ができる。君は強い『想い』で強くなる事が出来る。強く、強く、強く願うことで何倍も、ね」
そして、ガブリエルは穏やかに笑みを作る。
「だから、強く願って。彼を倒す。彼を超えることを。諦めないで。君には、私に認められるほどの、強い『想い』の力を秘めている。限界を超えて、さらにその先へ」
「現界を超えて……? っ、そうか! ああ、やってやる! 俺は、超えてやる! 桐人さんも、自分にも!」
ガブリエルの言葉に、京馬は決心の目となる。
「ふふ、期待してるね。君は私に『人』の道を示す、代表なんだから」
そう言って、ガブリエルは白い閃光を放つ粒子となって霧散する。
「ありがとう、ガブリエル! 俺は、桐人さんを倒す! そして、俺の『世界』を創ってやるっ!」
途端、世界は元の無機質な機械に囲まれた広いトレーニングルームへと戻る。
「『
そして、京馬の全身から青白い閃光が解き放たれ、一層の輝きを見せる長大な剣が発現される。
「さあ、行くぞっ! 『
桐人の周囲の地面がめくれ、隕石が落下したような巨大な円形のクレーターが生じる。
その剣槍からトレーニングルーム全体を包むような長大な緑の閃光を放つ。
「みんな、私の傍から離れないで!」
エレンは桐人から放たれた圧倒的なエネルギーを秘めた一撃から皆を守るために、マッシヴ・エレクトロニックから放たれた電場を周囲に展開する。
「それだけじゃ足んねえよ! 『
同時、剛毅も炎魔法で防護結界を展開する。
「京馬君、負けないでっ!」
そして咲月は手を握りしめ、懇願する。
京馬は、強く願う。
自身の願いを。
そして、その願いのために、超える事を。
それは、桐人。
そして、限界を感じた自分。
「ああ、負けられない! 俺は、自身の『願い』のために、超えて見せる! 桐人さんも! そして、自分にも!」
はああああああああああ!
京馬は叫び、両手で剣を握り込む。
その桐人の一撃に自身の剣を振るう。
そして、
「『
一言、自身の限界を超える術を口にする。
途端、剣は柄に、切っ先にと巨大な大剣となり、それは空間を埋め尽くすほどの大きさとなる。
「『
およそ常識では京馬の体では支えられない巨大な剣は、しかしその細腕によってしっかりと振るわれる。
ズオオオオオォォォォォッ!
逆巻く渦潮のような轟音を響かせ、その大剣からとてつもないエネルギーを内包した青白い波動が放たれる。
緑と青の波動が衝突し、辺りの空間を輝きで埋め尽くす。
「ふふ、そうだっ! ようやく『第一歩』だ! 見事だよ、京馬君!」
剣槍の柄を掴んだ腕が力み、筋肉繊維の筋がくっきりと露わにされる。そして、その腕はガチガチと震えている。
しかし、そんな体の状態とは相反し、桐人は悦の表情であった。
「さあ、俺を打ち負かしてみろっ! いずれ戦うべき、本当の『仇』のためにっ!」
そう言った桐人の放った緑の波動は徐々に青の波動へと呑み込まれてゆく。
「すごい……すごいよ、京馬君っ! あの桐人さんを圧倒してる……!」
目に手を翳し、咲月は感嘆の声を上げる。
「これが、四大天使が一人、ガブリエルのホントのポテンシャルってやつなのか!? 威力の伸びが半端じゃねえっ!」
そして、歓喜にも似た声色で剛毅は叫ぶ。
「まずは、『第一歩』ってところね。全く、冷や冷やしたわ。これで『今回の』必要な力は揃いそうね」
一方、二人とは対照的に冷静な表情でエレンは呟く。
「でも、こんなものじゃない。あの『神より生まれ出でる実』を一つ滅ぼしたガブリエルの力よ? ねえ、ケツアルウァトル?」
そう、自身の化身に問いかけ、エレンは微笑する。
「はわわわわわわっ! 想定外だっ! まさか、桐人さんを圧倒するエネルギーが生じるなんて! ええいっ! ミスリル十個追加!」
その傍ら、銀二は錯乱したように足下の魔法陣にあるミスリルをバキュームのような吸引口に突っ込む。
「いけええええぇぇぇぇえぇっ!」
京馬の掛け声と共に青の波動は一気に緑の波動を呑み込み、部屋全体が極限の白に包まれる。
勝負が決した瞬間だった。
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