削がれる仮面
「ここが、『アウトサイダー』横浜支部だ。まあ、何て事のない只の工場だけどね」
「確かに。只の工場に、うちの地下基地のような『アビスの力』が施されているだけみたいね」
工場の屋上、やや涼しくなった夜風が吹き荒ぶ。
髪を掻き揚げ、エレンは柵に身体を倒す。
そして夜空を見上げる彼女を桐人は一寸見た後、ネオンライトやLEDランプで照らされる街を見つめる。
「しかし……いや、予想通りといったところか。また、天使達の襲撃が凄まじかったな」
「でも、今回は何時にも増して、多く感じたわ。恐らく、京馬くんが大分『馴染んできている』からでしょうね」
険の表情となり、エレンが告げる。
「ああ。だが、『それも』予定通りだ。比例して、京馬くんも強くなっていることだろう。計画通りなら、ね」
桐人は微笑する。
「そのために和樹を護衛につけたのだから」
そう言った桐人の表情は悠然としていた。そう、全てが予定調和であるかのように。
「荒療治にもほどがあるけどね。言っておくけど、私はまだ美樹ちゃんの件は許してないから」
険しい目つきのエレンの表情を、しかし桐人はその表情を見透かしてか、顔を逸らし、話す。
「これも、俺の──いや、俺とお前の『目的』のためだ。全てが上手く言ったら、どうとでもなるだろう?」
桐人が言った手前、その正面に巻きあがる炎が巻き起こる。
「……! 『
エレンは突如生じた炎の螺旋に戦慄し、体中に電撃を迸らせる。
炎の螺旋が収束すると、二人の正面に黒いスーツを纏ったヤクザのような風貌の男と黒ずくめのローブを着た人物が姿を現す。
ローブを着ている人物は、頭を長いフードで隠し、その全貌が全く把握できない。
「見ない顔だね。さらに上位のインカネーターの『技能』、無挙動での瞬間移動が行える『
問う、桐人は落ち着いた口調で話すが、『その眼は鋭く』、スーツの男とローブを来ている人物を見つめていた。
「お前が『噂の桐人』か。そして、傍らの美女が『神雷を超越した女帝』……脅威的な力を感知したから来てみたものの、予想外の大物コンビと出会ってしまったな」
ヤクザの男は薄ら笑いを浮かべながら、手を振り払う。
「申し遅れた。私の名は浅羽帝。組織『アウトサイダー』のリーダー……まあ要するに最高責任者をやっている」
全ての人類を卑下し、見下している。そんな傲慢で、威厳があるとも取れる目の歪みを向け、ヤクザの男──浅羽帝は告げる。
「そして隣にいるのは……」
「私ノ紹介ハスルナ……! ソレガ、『契約』ダロウッ!?」
自身の紹介を行おうとする浅羽を制し、黒ずくめのローブを着た人間は言う。
その声は機械で加工されたエコーボイス。
「はは、悪い、悪い。どうも、君の存在を『自慢』したくてね」
苦笑し、浅羽は告げる。
「それで、僕達をどうするつもりだい?」
嘆息して、桐人は言う。
「元々は、君達の組織に所属している京馬くんを監視にきたんだがね。さあ、どうしたものか」
顎に手をやり、浅羽は考え込む。
「そうだな。私はお前にも興味があるからなぁ……『
言った手前、浅羽は両腕を掲げる。
発現するは、紅で染まり切った『二対の拳銃』。
その銃口を桐人達へと向け、口元を深く吊り上げる。
「へえ、奇遇だね。『俺』も、絶対的な力を持つアダムに歯向かう輩がどのような力を持っているか、気になっていたんだよ」
深い笑みを浮かべ、桐人は言う。
その表情は、通常の知的に満ちた面は持たず──例えるなら、野性的な面を覗かせる。
「ちょっと待って」
が、臨戦態勢に入った二人をエレンが制止する。
「桐人。わかるでしょうけど、こいつは強敵だわ。アダムのランクで言えば恐らく私と同等、『Sクラス』よ。つまり、『本気を出さなきゃ勝てない』相手。ここは先に私が勝負するわ」
エレンは自身の右腕に駆動式モーターが内臓された機械を発現させる。
その形状は、ごちゃごちゃとした金属の凹凸に相まって、稲妻のような閃光を放つ流麗なラインが走る。
先端には何かを射出する発射口。
「いきなり、『マッシヴ・エレクトロニック』か。本気だな」
やれやれ、と、桐人は観念したように両手を水平に上げる。
「イイヤ、オ前ノ相手は私ダ」
途端、黒づくめのローブを纏った人間は、浅羽の前に進み出て、左手をエレンに向けて掲げる。
すると、黒い空間がその人間とエレンを包み込む。
「これはっ! 『限定結界』!? うちではサイモンしか使えないのに……!」
エレンが戦慄の声を上げるとともに、黒づくめのロープを纏った人間毎、黒い空間に取り込まれる。
「『アビスの住民』デアル『ゼウス』ヤ『トール』ノ神雷ヲモ凌グト言ワレル、ソノ兵器ノ威力。試サセテモラオウカッ!」
そして、空間は二人を呑み込み、凝縮し、霧散。
「ははは、あいつは俺より強いぞ。下手したらお前らの最強の一角であるサイモンクラスに匹敵する実力の持ち主だ! 早く俺を倒さないと……お前の想い人は、『死ぬぞ』?」
ニィ、と口を引き攣り浅羽は笑みを作る。
「……! 貴様っ……!」
唇を噛み、桐人は浅羽を睨みつける。
「その予定調和であるかのような笑み……! 最初から、エレンとあいつを戦わせようとしていたなっ!?」
桐人の問いを無視し、浅羽は二対の拳銃の照準を桐人の右腕に絞り、撃つ。
その動きは一瞬であった。
インカネーターは『アビスの力』によってあらゆる物理法則が緩和、さらに反応、身体能力などが常人の遥か上を凌ぐ状態となっている。
『通常の』弾丸の速度などスローモーションのように見えるほどだ。
桐人はその強靭な精神力でアビスの力を研ぎ澄まし、普通のインカネーターよりも、さらに強力な状態となっていた。
が、その一撃を避けることはできなかった。
それほどまでに、浅羽の実力は強力であり、桐人に拮抗……いや、それを凌いでいた。
「ほう、やはりな。桐人、いや、ソロモン王。……いいや、『明けの明星』。お前はそんな方法で『暴走』を抑え、維持していたのか。驚きだ」
感嘆した声で浅羽は呟く。
その浅羽の目の先は、撃ち抜かれた桐人の右腕。
しかし、その腕には外傷はなく、代わりに桐人の白い肌とは対照的な浅黒い褐色。
そして、その腕には漆黒の鎖──真田の固有能力、『
「ふふ、はははははははっ!」
途端、桐人は日頃の自身とは全く異なった、高笑いを見せる。
「『俺を見た』なっ!? 他の『人』に見せたのは本当に久しぶりだっ! もう、貴様に生き残る選択肢はねえぜ……? 死になっ!」
桐人は指輪に口づけて、叫んだ。
白と黒のコントラストを放つ光が周囲を覆う。
「その『悪態』……? 成程、ベリアルから聞いた『ソロモン王』の方か。悪いが、私は生き残るぞ。いずれ、『この世界の最強』となり、世界を支配するのは、この私だ」
浅羽は二対の拳銃を一本の赤銅色の剣に変換させ、構える。
「さあ、パーティの開催だ……!」
「ウダウダうるせえよ、『玩具』風情がっ!」
声を荒げ、桐人は叫ぶ。
周囲を禍々しく、異彩を放つ閃光が支配する。
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