Vol.3 マイ・ウェイ

 学校から帰宅後、カバンを自分の部屋に置くと、夕飯の準備で忙しい母親のいるキッチンにそろそろと向かった。


「おかえり、どうだった?」

包丁を握った手元に目線をおいたまま、母親はオレに問いかける。


「なにが?」

オレはオレでテレビに目を向けたまま返答をする。


「学校に決まってるでしょ。入学式に有名な人ととか来たんじゃないの?」


「別に。式らしい式は無かった。高校じゃないんだから。」


 そもそも、あの学校には学生全員が集まれるような場所が無い。他の専門学校等ではちょっとしたホールを借りて行うようだが、8アニは違う。そんなヒマは無いんだ。


「で、誰か話せる様な子はいた?」


「…まぁ、…ちょっと思ったんだけど…」


 オレが話を方向転換させようとした瞬間、母親は何かを察して手を止める。

コトンっと包丁を置く音がした。




「なによ」



 また何か変な事を言い始めると思っているのだろう。怪訝そうな顔でこちらを見ている。



 やはりオレの母親、勘がいい。





 母親に軽く相談してみたが、声優タレント学科への編入は見事に却下されてしまった。…せっかく本当にやりたい事がみつかったというのに。基礎から学べば、きっとカタチになっていただろうに…。大好きなアニメなら続けられると思ったのに…。



 自分の部屋に戻りベッドに倒れこんだ。



 …まさか初日から嫌な思いをするとは思わなかった。



 明日もアイツと顔を合わさなければいけないと思うと気持ちが急激に落ち込む。2、3週間がまんして、編入の件をもう一度頼んでみる事にしよう。





 …いつの間にか部屋の中は暗くなっており、照明をつけ机の上の時計を見ると

こんな事を30分以上も考えていた事がわかった。



 ええい!こんな事を無駄に長時間考えても無駄だ!今日は寝よう!明日気持ちを切り替えるんだ!




 翌日オレは体調が優れず、学校を休むことにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る