第三十一話 感想戦

「感想戦しませんか?」

僕は大魔法使いにそう、申し出た。

お互いにとって、プラスになると思ったからだ。

効率のよい、技能向上方法といえる。


「感想戦、とな?」

感想戦とは、なにかわからなそうに大魔法使いが聞いてきた。

よく考えると現代でしかわからない言葉だったかもしれない。

この異世界は、わりと普通に言葉が通じるので、ついつい忘れてしまう。


「感想戦は将棋なんかで行われる、プレイ後にお互いがどういう意図を持って行動していたのかをお互いに言い合って、その後のスキルを向上させるためのものです」

と丁寧に説明した。


「ホッホッホ、ショーギはよくわからんが面白そうじゃ。」

そうか、将棋はわからないか、またもや、すっかり忘れていた。

現代の名詞を使わずに、何かを伝えるというのは、

結構難しいことなんだと思いだした。


こちらは完全に伝わらないと思っていたので

言わなかったのだけど、プログラムだと、

コードレビューというのもある。


こちらは現代でも一般の人には伝わらない言葉なので

ちゃんと使わなかった。

たぶん、こちらのみんなを、理系じゃないみんなと同じ扱いで言葉を選んでいたのだろう、無意識で。


コードレビューというのは、コード、つまりプログラムを

他の人に読んでもらうというものだ。

さらに、最近だとペアプログラミングというのをやる。


となりで書いてもらいながら、読みながら、いろいろ指摘する

というやり方だ。

書いたものを読んでもらうどころか、

書くところそのものも見てもらう

というものだ、大変疲れるがメリットも大きい。


現代のプログラミングは、一人で書くものは少ないので

他の人がそのコードを改造できたり、効率が悪い書き方をしていないかをチェックすることが重要なのだ。

わりと流派みたいなものもある。

この辺も魔法と似ているんじゃないかと思う。


ということで、感想戦をやりたいと思っていたので

大魔法使いに付き合ってもらえるとのことでとても嬉しい。


「では、さっそくお願いします。」


「まず、僕が大魔法使いにファイヤーを叩き込みました」

「そうじゃったな、随分鋭い炎じゃったな、あれはどうやっとるんじゃ?」

「威力を抑えてスピードに特化させたものです。」


「ほっほっほ、そういうことか!なるほどじゃわい」

大魔法使いは思い出しつつ、感心していた。


「そのあとあなたは、それを防いだ」

「そうじゃな」


「あれはウォーターじゃな、水を放って、打ち消したのじゃ」

「相手の魔法を認識してから、魔法を打ち消すなんて」

僕は絶句していた。そんなことが可能なのだろうか。正直人間技じゃない。僕は心からそう思う。

修行してもできる類の技じゃない気がする。


大魔法使いの凄さを分かり始めていた。

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