第20話 対決の少女たち
――優奈さんの噛まれた首筋から蟲がウネウネと中に入り込もうとしているのがわかる。
優奈さんはそれを全く気にせず傷口を
「おいおい全部で何体いるんだ? うざって~なぁおい鈴こいつからやんぞっ!」
優奈さんはそのまま噛み付いてきた蟲の塊へ大石を振り上げる。
【
優奈さんが塊に肉薄。
こぶしを振り上げたかと思うと、塊は壁に押し付けられ。
次の瞬間、塊の顔面はグチャっと潰れた。
「よしゃぁぁぁ まずは一匹ぃぃぃ!!!」
優奈さんの狂気に満ちた歓声が迷宮内にこだまする。
それを見た他の塊たちは無防備に背後を晒している優奈さんに襲いかかる。
僕は先程と同じく引き剥がそうと。
「待たせたな」その一瞬。
【
1体が三島さんによって羽交い絞めにされ首を潰されていく。
【
僕も三島さんに遅れることわずか、そのうちの1体を優奈さんから引き離す。
残ったもう1体が僕と三島さんの間を素早くすり抜け、壁と石でグチャグチャと最初の塊をすり潰していた優奈さんへ噛み付いた。
「クソッタレがァァァァァ」
力一杯振りほどいたものだから腕の肉が裂け、血に染まった蟲が中からポタポタと流れ出している。
「優奈さんおさがりを、後はお任せになって」永井さんが優奈さんと塊の間に割って入った。
「あぁ任せるぞ、
「!?」
その蟲の塊は優奈さんに何かを言おうとした永井さんへ襲い掛かっていく。
【
ゴスロリのスカートがひらりと舞い上がったかと思うとその小さい体はすでに塊の後ろに回っていた。
「恭平様」
永井さんの声を待つまでもなく、僕はそいつに殴りかかる。
【
体内の蟲達が暴れるせいか、僕の
「ぐっ」
しかしその直後、最後の塊は粉砕される事となる。
【
【
後ろに待機していた優奈さんと、ようやく2体目の塊を潰し終えた三島さんが僕の無様な姿を見るなり追撃してくれたのだ。
「ハァハァ……」
周りを見ると塊を潰された蟲達は先程の群れ同様どこかへ散っていく、後に残った物は少女たちが着ていたボロ布だけだった。
終わってみればあっけないものだ、しかしここにいる全員が理解している。
どうにかしなければ体内の蟲が増殖し、いずれは美佐江さん、いやあの少女達と同じモノになるのだと。
「優奈さん、大丈夫ですの?」永井さんがいまだ興奮し蟲をすり潰している優奈さんをなだめている。
「あぁ姉御、だいじょうぶだぜ」
「あ・ね・ごぉ?」
【
額にピキピキを出した永井さんは珍しく失敗していた。
「俺が代わろう」
【
三島さんは救急セットを取り出し手馴れた仕草で優奈さんの首と腕の止血をする。
「イタタタっ三島の兄貴、やさしくしてくれよぉ」
「……我慢しろ」
もはやこうしている時間でさえ辛くなっていく、体内の蟲達が喉から出てきそうな嗚咽感にさいなまれるのだ。
それはここにいる全員が同じようで、あの水晶を順番に渡しながら行動していく事となった。
「とにかく進もう、ゆっきー頼めるか?」
「おうよ……」
三島さんが号令を出しヤンキー優奈さんがそれに応じた。
――
それでもなんとかラクガキに書かれていた『げんかん』という場所までたどり着く。
そこには梯子下と同じような巨大な空間で、それを囲む岩肌に幅の広い数段の階段が彫り込まれ、その上には舞台のような空間が広がっている。ようするに何もないのだ。
全員が崩れ落ちるかのように座り込んだ。
「あ~ミスったか……すまない俺の判断ミスだ」
「三島の兄貴、そういうのはいいっこなしだぜ、あたいも失敗しちまったしな」
三島さんが限界の近い優奈さんを壁際まで運び休ませ、僕と永井さんは本当に何もないのかを調べることになる。
よく見てみれば岩は加工されたかのように
【
祭壇に登ろうとした時に足元を見ると、床の一部が石版となっていて何かが刻まれているのを見つけた。
「永井さん? これ……」そう声をかけると。
【
「しっ! 何かが近づいてきますわ……」
カツン…… カツン…… と確かに足音が反響している。
全員が身構える、またあの蟲の塊なのだろうか? 一体何体いるんだ! そんな絶望に襲われそうになった時、それは姿を現した。
真っ白いフリルのついた服に黒いマントをまとった女の子。
小さなライトとなにやら辞書のような物を抱え込んでこちらへゆっくりと近づいてくる、眠たそうな目には自信が満ち溢れていた。
「おまえたちはだれなのだ?」開口一番女の子はそう言った。
「えっと、君は夢子ちゃんか?」
「そうなのだ、おまえたちはだれなのだ?」
「君を探しにきたんだよ、お母さんに言われてね」
「しらないやつにはついてはいかないのだ」
「恭平様お任せください、夢子様申し遅れました。永井晶子と申します。美佐江様からのご依頼で夢子様を源蔵様よりお守りするよう言われてまいりました」
【
「じじからまもってくれるのか? それはありがたいのだ、それよりおまえたちそれがよめるのだ?」
「それって?」と女の子が指差す地面を見ると先程の石版だった。
「おまえがふんでるやつなのだ」
「あぁこれを今から調べようと……」
僕と背の低い女性と小さな女の子が一緒になって石版を調べる。
「これをつかってもいいのだ、ほんのへやからもってきたのだ」
「お借りいたしますわ」
どうやら石版は短文の日本語と長文の外国語の2つが書かれており、日本語の方には『エゲレスの友人と共に迷宮の主を奇跡的に門の狭間に封印せしめる、友にまた再会できんことを切に願う、ここを訪れし者あらば決して水晶を外す事なかれ、また封印破れし時のため古来に伝わる法もここに記しておく 夏目金之助』
その上には何かがはまっていたと思われる
「これはラテン語ですわね」永井さんがその後に続く文字を夢子ちゃんから辞書を借りて解読し始める。
「このじしょであってたのだ?」
「えぇ、助かりますわ」
【
「どうやら神話生物の招来の方法と退散の方法が書かれているようですわね……」
「退散できるんですか?」
「えぇ……少々お待ちを……」
石版は永井さんに任せ、僕は解読を邪魔する夢子ちゃんと共に祭壇を調べることにした。
「なんなのだ、ゆめこもあきこちゃんといっしょによむのだ」
「駄目駄目、邪魔になっちゃうからね」
石版にしがみつく幼女を引き離し数段の階段を登る。
【
失敗か、夢子ちゃんも探索者なのかな?
「夢子ちゃん、ここに何かないかわかるかい?」
「なれなれしいやつなのだ」
そう言いながらも夢子ちゃんは辺りを警戒し始める。
【
なんだろう、嫌な予感のするログが流れた。
「なにかあるのだ……」
【
ここまでの情報で推理するのは容易だった、ここにあの忌々しい門があるのだ。
「まいったなぁ……今度のはイギリスにでも繋がってるのか?」
そう思い始めると感覚の暴走が止まらない、ジワジワと空間が滲み出し火星の時とは比べ物にならない、そう、もはや穴ではなく凱旋門と呼ばれるような見事な装飾の施された文字通りの巨大な門がそこにはあった。
しかし向こう側には明かりがなく漆黒だったのが救いだった、もし見えたならと考えると身の毛がよだつ。
「これは……」そんな時だった。
【
と言うログが流れる。
「わたくしには無理のようですわね……ひとまず写真にでもとって支部長に頼みましょう」そういうと永井さんは僕にスマホで写真を撮るように促してくる。
「あの……門が……」
「えぇわかっております、三島様、優奈様のお体のほう大丈夫でしょうか?」
「あぁ大丈夫だ。気を失ってるだけさ、何かわかったか?」
体を休めていた2人に夢子ちゃんを確保した事や退散の呪文が書かれた石版を写真に収めた事を伝える。
「そうか。すまない、役に立てず、よしっ帰るか」
全員の顔に希望と喜びが見えたのもつかの間、あのサササザザザという蟲の群れの音が近づいてくる。
「急ごう」三島さんと僕で優奈さんを担ぎ、永井さんが夢子ちゃんと手を繋ぎ移動する。
周りには蟲達の音が
「くそっ、ここも駄目か……」巨大な空間から梯子へ至るトンネルに蟲の大群がまるで粘土のように詰まりたどり着けずにいた。
【
【
【
【
永井さんが「あの門の向こうから恐怖そのものがこちら側へ向かってくるのを感じますわ、早くどうにかしないと私たちは間違いなく源蔵のように成り果てます」と悲観と苦痛が混じりあった何とも色っぽい表情で伝えてくる。
「そうなのだ、こわいこわいものがこっちがわへこようとしているのだ」
「この蟲の大群を掻き分け進んだとしても間に合わないだろう、俺に考えがある。乗ってくれないか?」
――結局全ての道が蟲達によって封鎖されており、僕たちは門のあった場所に戻ってきた。
門は永井さんの『門の発見』によって優奈さんを除く全員が認識している。
優奈さんは僕に担がれており、夢子ちゃんは永井さんが手をしっかりと握っていた。
4人は門の端で待機しながら反対側の端にいる三島さんの合図を待っている。
すでに門からは異様な何とも
「三島さん必ず、こなきゃ迎えに戻りますよ?」
「あぁ、火星まで行くような馬鹿を
耐え難い感覚が五感全てをベロリベロリと
「今だっいけっ!」と三島さんの合図と同時に僕らは門の中へ飛び込んだ。
【
三島さんの死を予感させるログが頭の中にこびりつき、反吐が出るような時空の歪みの中を4人だけが流されていくのがわかった。
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