第2話 生徒会総務部

大沢に連行されるなか、私は部活動について簡単な説明を聴かされていた。


その内容は大まかに分けて二つ。


 基本的に部活動自体は週5だが、仕事の依頼がなければ暇で、無い場合は自由にして良いという。


 実際それだけ聞くと何もしていないように聞こえるが、仕事にはそれなりに結果を出してきたとのこと。生徒会はともかく総務部に関しては聞いたことないのに、いったいどこで活動しているのやら。


二つ目は部員が一人しかいないということ。


 これは、話を聞いていたからさほど驚きはしないが、考えてみればこの上なくおかしい。


一人で運営する部活などありえるのだろうか。もしかしたら、今まで何人かは入っては来たのだが、その一人の生徒と折り合いが付かず辞めていってるのだろうか。後は、部活が想像以上に過酷とか。想像できる回答は複数あるが、どれもあまり気持ちの良い理由ではなさそうだ。


 「っと……ここだ」


 ついた場所は三階北校舎の中央、教室名のない完全な空き部屋だった。

 こんな人気の無い場所で活動していたのなら、聞いたことも見たこともないのも納得だ。


 「では、早速中に入りましょう」


 ドアをスライドさせると、しばらく使っていないのか“ギッギッ”と錆び付いたひどい音がこだまする。大沢が中へと入ると、私も後に続き後ろ手に扉を閉める。


 中に入ってみると錆び付いた扉とは違い定期的に掃除をしているのか案外綺麗な教室に驚かされた。教室中央には、お客様用だろう机と椅子が数個並べられていた。


 そして、その数個並べられた机の奥。対面になるように置かれた机に一人の男子生徒が厚いハードカバーを読み耽っていた。


 生徒会総務部の唯一の部員。


 これが、コイツと私の初めての出会いだった。





 机にはパソコン、手にはハードカバーを手にし読書に耽っている男。

 いかにも学校には似つかわしくない出で立ちだが、この男には不思議と違和感を覚えない。


 怖いぐらいに整った顔立ちに、細い小さめのメガネが良く似合っていて知的な印象を与える。タイプではないにしろカッコイイ部類には入るだろう。


ただ、これだけの印象を与えられ一つの疑問が浮かぶ。


 私も、今年二年になり人通りの生徒の顔は見たことがあるとは思うが、この男は記憶に無い、というより見たことがないのだろう。


 「何者なんだろ…」


 至極単純な疑問がつい口から漏れて無意識のうちに口に手をあてると、その仕草を誤解したのか、驚いた表情で話しかけられた。


 「もしかして知り合いでしたか?」


 口に当てていた手を慌てて前にかざして、違いますと顔の前で振ると、大沢がそれを理解する前に否定の声が聞こえてきた。


 「違いますよ。少なくとも僕は喋ったことも、見たことすらもありません。こっちが聞きたいぐらいですよ」


 涼やかな声音が教室に響き、細く鋭い目がギロリと敵を見定めるかのようにこちらを向く。何で私、睨まれてるの?


 「相変わらず目付きが悪いですね。如月さんも気分を悪くしないで下さいね。話せば彼がどんな人かわかりますよ。少なくとも悪い人じゃありません」


 大沢は安心して下さいとでも言うようにニコリと笑いかけてくる。悪い人じゃないって言っても全然説得力ありませんけど。


 大沢は今だこちらを気にしている男の方に歩み寄ると、彼の肩に手をかけた。


 「もうわかってると思いますが、彼が生徒会総務部唯一のメンバーにして、部長の土屋涼くんです。これからよろしくお願いしますよ」


 軽く会釈をする大沢。何故あなたが会釈をするのか。


 「あ、はい…じゃあ、私も自己紹介した方がいいですよね」


 涼に睨まれて若干気分を悪くしつつも、順序は逆になってしまったとはいえ礼儀上、私も自己紹介から入ろうと声をかける。


 と、そこで彼は何かに気づいたのか目を見開いた。


 「人を入れるとは言ってましたけど、まさか彼女のことですか…?」

 「そうです。なにか不都合な点でもありましたか?」

 「いや、女だとは聞いていなかったので…いや…もういいです。オイ、そこのお前」

 「お前…ちょっとなに、誰のこと? えっ…私!?」


 一瞬、誰のことかわからず、つい自分を指差して確認する。

 涼は口をぽかっと開け、呆れた顔をした。


 「キミはなんだか幸薄そうな顔をしているが、鼓膜まで薄っペらいのか?そこにはお前しかいないだろうが、ちゃんと聞いておけよ」

 「………」


 これは現実ですか?


 信じられない、なんだコイツ。


 なんで初対面でいきなりここまで言われなきゃならないの? 口悪すぎでしょ。ていうか幸薄いとか!幸薄いけどさ!!


  「別に悪意はないんだが…まぁ、腹がたったと言うなら謝るが、実際そうだからね。幸薄井さん?」

 「悪意ないってどこが!? 悪意しかないじゃん! あと、変なあだ名つけんな!!」

 「ピーピーうるさい奴だ。あだ名が嫌なら名乗ればいいだろう」

 「そういう問題じゃない! つーか自己紹介邪魔したのアンタだし! ちょっと先生!コイツ悪いやつですよ!…って、なに笑ってるんですか!!」


 涼の隣で腹を抱えて笑う顧問。笑ってないでなんか言って下さいよ。


 「いやーハハ、初対面にしてはなかなか打ち解けられてるんじゃないですか?」

 「どこがッ!?」


 相手も同じ意見なのか、口にこそ出さないものの明らかに顔で反論している。

 大沢は笑って乱れた服装を正すと、いつもの無害そうな作り笑いを浮かべる。


 「これから長くやっていくんですから、初顔合わせで喧嘩しておくのも悪くないと思いますよ」

 「なに言ってるんですか! 大体、私はまだ仮入部って約束じゃないですか」

 「それでもですよ。せっかくこれで二人になったんです。どんな形にしろ、コミュニケーションは大切だと思いませんか?」

 「……もういい、好きに思ってて下さい」


 腕組みして、そっぽを向く。まだ、反論したりないが言ったところで言いくるめられてしまうのが目に見えているため、態度にだけ反抗の意思を表しておいた。


 「じゃあ、改めて自己紹介でもするとしましょうか。涼くんは余計なこと言わないように、話がややこしくなるから。では、如月さんから」

 「えー……」


 最初だったらいざ知らず、今はもうこんな失礼極まりない奴に自己紹介などしたくはない。だが、これ以上、波風立てるのは自分の首を閉めることにも繋がる。


 ここは穏便に済ませることにしよう。


 「……如月です」


 次いで涼が答えた。


 「僕は、土屋涼だ」

 「………」

 「………」

 「終わり!? なんなの君達!? いくらなんでも、穏便すぎるでしょ!!?」


 必要以上に喋りたくないんです。

 こんな省エネ自己紹介になっちゃいましたけど、始めはちゃんとやるつもりだったんですよ? ホントだよ?


 「そのつもりでも、実行に移さなかったら結果、一緒でしょうに…まったく君たちは…ホントはもう少し会話が広がると思ったんですけどねえ……お互いこんな感じでは埒があきませんね…」


 大沢は難しい顔をしてなにか考えているようだ。


 ていうかそんな目論見があったんですか? 私が言うのもなんですけど節穴過ぎやしないですかね…あの会話の流れで広がる訳が無いでしょ。


 「んーー……じゃあこのまま終わるのも忍びないので最後に握手でもして、少し早いですけど、それで解散としましょうか?」

 「えっ? あ、握手ですか!?」

 「ん、なんですか?」


 何か問題でも、と見返してくるが、私にとってはそれなりに問題だ。


 「いやっ……だって…」


 相手が最低男といえど、生まれてこの方、喪女を貫き通してきた私に、初対面で握手は中々ハードルが高い。いや、好きで貫き通してきたわけじゃないけどさ。


 それに…まぁ、何?


 性格はどうあれ、顔は多少はカッコイイので緊張しないと言ったら嘘になる訳で……まあ向こうは手馴れてそうで緊張などしていないだろうが。


 そう思って相手の方を見やる。


すると、意外や意外。私と一緒で気恥ずかしいのか、モゾモゾと手を出しづらそうにしている。


 あれ、ウソ? もしかして馴れてない?


 そんな姿を見ると不思議とちょっと可愛いかもとか思えてくる自分がいる。


 ……しょ…しょうがないなぁ/// 今回はこっちから手を出してあげようか。


 「これからよろしくね。土屋k…」「悪いけど、君、手を洗ってきてくれないか?汚い物には触りたくない」

 「殺す!」

 「言い忘れたけど、ちゃんとせっけんを使ってくれよ? 洗い流すだけじゃ菌は殺せないからね」

 「ホントぶっ殺す!!」


 本気でくってかかる私を、大沢が必死で止めに入る。


 「やめなさいって! 凄い勢いだけど一応あなたは女の子ですからね!? あと、涼くんも余計なこと言わないでって言ったでしょうが!」


 忠告を無視したことに怒る大沢。私的には汚いに対して怒って欲しかったです。


 「とにかく! 明日からよろしく頼みますよ! 期待してます」

 「手ぐらい洗ってるわ! バーカ!!」

 「子供ですかあなたは!? ほら行きますよ!!」


 尚も食ってかかる私を、ここに来たとき同様、大沢に引っ張られながら私は部屋を後にするのだった。

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