28 だって、私は......

 俺は部屋に入って真っ先に鍵をかけた。

「とりあえずこれで大丈夫だろう」

 心もとないがテーブルや椅子もあとでドアに立て掛け、バリケードも作ろうかとも考えた。

 俺はベッドに背中から倒れ、ふ~、と一息つく。するとレイが傍に姿を現した。

「大丈夫だよな?」

『分からない。たしかに鍵をかけたから容易には入ってこられないと思うけど、それでも用心した方がいいよ』

「分かってる。俺もそこまで間抜けじゃない」

 頭の傍にあるひらがな表記表でレイは俺に忠告してきた。

『でも、一体犯人の目的は何なのかしら?』

「目的?」

『どうしてこんな殺人を繰り返すのかってこと。猟奇的な犯人ならともかく、普通連続して犯行を起こさない気がするんだけど』

 レイの指摘に俺は疑問を持つ。

「でも、犯人にとって殺したい人間が集まっているんだから連続してもおかしくはないんじゃ?」

『そりゃ推理小説ならありえるわ。犯人が自らターゲットを呼び込んで犯行を計画しているんだから。でも、ここに集まった人達は水澤の開いたイベントに応募して来たのよ。織斑の話には参加者を選んでいるような話はなかった。だって必要がないからね。誰も正解させないんだから誰が来ようと関係ない』

 レイの話に俺は黙って聞く。

『だったら犯人にとっても誰が来るか分からない。自分のターゲットが来るかなんて分かりようがないじゃない』

 レイの言うことは正しかった。自分が操作せずに狙った人間が来るなんてほぼ不可能だ。

「じゃあ犯人は水澤の関係者?」

『その可能性はあると思う』

 可能性と言うが、俺にはそれしかないと思った。

「だったら織斑なら何か知っていそうだけど......」

 あいつは今部屋に閉じ籠っている。聞き出すのは無理だ。それに、あの話振りから他に関係者がいたような気もしたが......。

『たぶん、織斑とは別で水澤に接触したんだと思う』

「それなら聞いても意味ないじゃんか」

『知らないわよ、そこまでは』

 それっぽいこと言っといて結局分からずじまいだ。

『でも、これだけの策を労しているんだからきっとまだ......』

「まだ?」

『誰かを殺すと思う』

「なっ! また誰か死ぬのか?」

『最初から捕まる覚悟があるならあんな部外者がいたような騙しをしないわ。あれは明らかに自分の犯行を隠したいがためにやったことよ。それに、あの手口からとても二人で終わるような気がしない』

 レイの考えに俺は身震いした。そして彼女はこう示した。

『犯人はきっとまた動き出すと思うわ』

「じゃあ、みんなに知らせないと!」

『駄目よ。もう忘れたの? 明日の朝までは部屋から出ないように言われたこと。もし今出てったらあなたが疑われるわよ』

「それじゃあどうすんだよ?」

『他のみんなが部屋を出ないことを祈るしかないわ』

「たったそれだけ......」

 俺は今の状況に絶望した。犯人がまた犯行を起こすことに対する恐怖だけでなく、みんなに危険を知らせることも出来ない自分の無力さに愕然とした。

『それに、悟史も疲れているでしょ? そんな状態で犯人と出くわしたら間違いなく返り討ちに合うわ。今は休んで』

 レイの指摘に俺は自分がかなり疲労困憊になっていることに気付いた。みるみる眠気が襲い、もう既に意識が遠退いている。

「くそっ! こんなときに眠るわけには」

『無理しないで。あんだけのことがあったんだもの、疲れて当然よ』

「でも、もし犯人が来たら」

『そのときは私が起こすわ。あれを使って』

 そう言って指差した先にはガラスの灰皿があった。

「いや、あんなものを俺にぶつける気か!?」

『手加減はするわ』

「だったら俺じゃなくて犯人にぶつけてくれ」

『あっ、その手があったか』

「今気付いた!?」

『だって悟史にぶつける以外に物を飛ばしたことないもん』

「なくても普通気付くよね!?」

 抗議するが眠気により、もうまぶたを開けていられるのも限界だった。

「ああ、もう、無理だ」

『ゆっくり休んで。私が見張ってるから』

「たの、むから、おれに、あ、てな、いで......」

 そこで俺は完全に眠りについた。

『大丈夫だよ、悟史。私が悟史を守る。だって、私は......』

 

 

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