10 照れました
「そういえばあのときのお前、顔がかなり不細工だったぜ。今思えば笑えるなっひょ~~!」
俺の顔めがけて飛んできた物を掠めながら避けると、ガンという音が後ろの壁から聞こえ、ベッドにぽふっと落下した。振り向くと無惨な携帯の姿があった。
「ぎぃぃやぁぁぁぁ!」
欠けてる。割れてる。画面が映らない。
「嘘だろ! おい嘘だろ!」
返事がない。ただのゴミのようだ。
「レイ! お前なんてことしてくれたんだよ。これは洒落にならんぞ!」
レイはそっぽを向いている。
「今言ったばっかじゃん。物を投げ飛ばさないようにって!」
レイは答えない。
「自分で言うのも何だけど、今俺結構良いこと言ったよね? そこは感動していてもいいんじゃないかな? なぜ機嫌を損ねる! なぜ!」
レイも我慢できなくなったのかひらがな表記にものすごい早さで指を差していく。
『だからよ! 今私普通に嬉しくてちょっと感動したんだよ? そこでいきなり顔が不細工って何!?』
「いや、そうだったなって思い出して」
『思い出すなよ! いや、思い出したとしても口にするなよ!』
「え、何で?」
『仮にも私は女なのよ? 女に対して不細工って失礼だとは思わないの!?』
「今言ったろ? 俺とお前はもう赤の他人じゃないって。その相手に何を遠慮する必要がある?」
『あんたは逆に気を使わなすぎよ!』
肩で息をしているレイを見て思わず微笑んでしまう。
『何が可笑しい!?』
「あ、いや悪い。戻ったなって」
レイは首をかしげる。
「ようやくいつものレイらしくなったなって。あんな弱気なレイは俺の知ってるレイじゃないから」
眉間に皺をよせてレイが尋ねる。
『......もしかして、からかった?』
「いやいや、そうじゃない。ただ......」
『ただ?』
「......ああ言えばレイが反応するかなと」
『それをからかうっていうのよ!』
レイが表記の紙を俺の顔にぶつけてきた。紙だからダメージはないが、口と鼻にくっつき一瞬呼吸ができずむせてしまった。
「ゲホッゲホッ!」
レイはかなり怒っているようだ。まあ当然かな。やり過ぎかなとは思ったが、俺も言いたくて言った訳じゃない。
普通に恥ずかしかった。すごい良いこと言ったとは本当に思ったが、レイの反応を見ていて無性に恥ずかしくなってしまったのだ。てっきり笑い飛ばすか、自惚れるなとか言われるんじゃないかと考えていたが、想像していたのと真逆の反応を見せてきたので驚いてしまった。彼女も驚いていたが、たぶん俺の方が上をいく気がする。
たぶん普通にレイは俺の言葉を素直に受け止めてくれていた。何の疑問も持たずに。だから彼女は怒っているのだ。騙されたと。
でも、あの台詞に嘘偽りはない。俺の本心だ。本気でレイの力になりたいと思っている。これからもずっと。ただ面と向かって伝えるのは初めてで恥ずかしさのあまり誤魔化してしまった。
それに迷惑なのは俺の方じゃないかと考えていた。俺がもっと知識があって頭も良ければ今頃レイを殺した犯人を見つけていたかもしれないのだ。こんなに長引いているのは俺にも責任がある。
だけどレイは自分が迷惑をかけている、相手を苦しめているという俺と同じ気持ちになっていることを知り、少し寂しく、そして嬉しかった。
さらにレイはこうも言ってくれていた。普通に嬉しい、と。彼女は俺と一緒にいることに不満はあっても苦には感じていなかった。そのことを知り、俺は改めて彼女の力になることを誓った。
「レイ」
声をかけると少しだけこちらに振り向いてくれた。
「これからもよろしくな」
レイは何も答えず、また向こう側を向いてしまった。顔は見せてくれないがどうやら怒りは納まってくれているようだ。
「よし。んじゃここで長く調査できるように館を探索しに行くか?」
レイは後ろを向いたまま手を出し人差し指と親指で丸を作り、OKのサインを出した。
「よっしゃ、早速行きますか」
そう言ってレイの横を通りすぎる際、彼女の口が動いているのが見えた。声は出ないし俺は読唇術を使えないから何を言ったのかは分からないが、こう言っていてほしいという、ちょっとした願いのような思いがあった。
『ありがとう』
勝手な想像だがそうに違いないと考え、レイのために、調査でイベントに長く留まるため俺達は部屋のドアを開けて探索へ向かった。
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