第13話

 時は流れて卒業式の日。

 体育館では卒業式の後、橋本バンドの卒業ライブが行われていた。彼らは卒業後メジャーレーベルからデビューが決まっていて、アマチュアとしてのステージはこれが最後ということもあり、全校生徒熱狂の渦が巻き起こっていた。

 が、サキを始め、ミキ、ユキ、瑠璃、ふたばは体育館裏に抜け出し、ふてくされていた。正確にはふてくされているのはサキだけで、あとはむりやりサキに連れてこられているだけである。茉莉と美登利他幽霊部員は当然のごとく客席最前列を陣取って横断幕を掲げている。彼女たち橋本バンドのファンクラブは、メジャーデビュー後正式なファンクラブとして運営されていくのだそうだ。これも大抜擢である。

 体育館裏にいてもライブの音は聞こえてきていた。王道のロックであるが、どこか心にしみる切なさがあって、琴線を揺さぶるものがある。橋本の作曲能力の高さがよくわかる。

「なんで同じ卒業証書をもらっているのに、同じ道を行けないんだ」

 サキは証書を苦々しそうににらんだ。悔しさと、腹立たしさと、ふがいなさがないまぜになっていた。

「サキは卒業後どうするの?」

 ミキがたずねた。

「さあ。別に決めてない」

「え? 就職先決めてないの? ヤバイじゃん」

「まあ、バイトでもするよ。どっちにしてもバンドは続けるから、仕事よりもそっちを優先させるつもり。そういうミキはどうするんだ」

「わたしは家の家業の手伝いをするよ。後継は弟たちがするだろうけど、まだ幼いからね。弟たちが社会人になるまではわたしは家の手伝い」

「ウチはね~、機械部品工場に就職が決まったよ~。重たい部品でも持てますって言ったら合格しちゃったよ~」

 太い二の腕を見せながらユキはニコニコしている。

「そうか、みんな別々の道を行くんだな。瑠璃はどうするんだ?」

「自分は東京の大学に進学が決まったんだが…知らなかったのか?」

「は? ウチの学校のレベルで進学?」

「お前物覚え悪いな。自分は受験勉強するから退部したの忘れたのか」

「そうだっけ?」

「まあ、大学行っても音楽はやめないけどね」

「相変わらず暗い音楽やるつもりか?」

「陰鬱といえ」

 瑠璃はメガネの奥からじろりとにらんだ。

「ふたばちゃんは、今はダンス部なんだよね」

 ミキが話題を変えた。

「そうなんですぅ。毎日楽しくて楽しくて、とても充実してます。あ、別にサキ先輩といた時がつまらなかったわけじゃないです。すみません」

 みんなが今後のことを話し合うと急に会話が途切れた。

 聞こえてくるのは橋本の曲だった。やはり素人場慣れしている楽曲は心を揺さぶられる。メジャーデビューできるということは、それだけありあまる才能を兼ね備

えたものだけが可能であると彼自身が証明していた。しょせん好きで音楽をやっているサキでは太刀打ちできないのが現実だ。

 曲が終了した。盛大な拍手が起こり、ついでアンコールが沸き起こる。素晴らしい楽曲とアンコール。サキは思わずうつむいた。

「あれ? サキ泣いてる?」

 ミキが茶化した。

「泣いてない。泣くもんか」

 サキは顔を見られないように立ち上がると、体育館にかけていった。そして大声で叫んだ

「あたしのステージだってまだ終わっちゃいないんだよ!」

 アンコールの集団に加わるためにサキは走った。

「待ってよサキ!」ミキとユキ、瑠璃とふたばが後を追いかけて、アンコールに加わった。青春の叫びのようなアンコールはいつ止むともしれずに体育館に響き渡っていた。

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サキミキユキ 真風玉葉(まかぜたまは) @nekopoku

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