第11話

 翌日の放課後。視聴覚室に集まったのは、サキの他、ミキとユキ、美登利の他少数の幽霊部員だった。

 明らかにサキはイライラしていた。昨日の盛り上がったライブの後だというのに、この活気のなさがふがいなかったのだ。

 それぞれの理由で退部していった者もいれば、何も言わずに来ない者もいる。

 美登利に言わせると、瑠璃と幽霊部員は男子ロック部に行っているらしい。駅音への応援を計画しているのだそうだ。それがますますサキをイライラさせていた。

「こんな練習に意味なんてあるのかよ」

 ミキが不満をもらした。

「練習あるのみだよ。練習しかないんだよ。橋本に勝つには」

 あくまで橋本へのライバル心をむき出しにするサキだったが、他の部員たちは完全に冷め切っていた。

「大体、ソロパート弾くメンバーもいないのに、あの曲をやろうってこと自体がおかしいんだよ」

 ミキの不満はまだまだ続く。

「あたしが弾くさ。悪いか」

「悪いね。サキのソロなんてとても聞けたもんじゃないよ。メロディのないただのノイズだよ」

「なんだと?」

 元々険悪だった部室内が、さらにまして雲行きが悪くなってきた。幽霊部員の中には泣きそうな顔をしている者もいる。

「い~じゃん、サキが弾きたいんだから、弾かせてあげようよ~」

 ただひとり空気を読まないユキがのほほんと場を和ませた。だったら、と試しにサキにソロパートを弾かせてみる。

 ノイズ、ノイズ、ノイズ、ゆがみまくったノイズの嵐で、部室内のみんなは思わず耳をふさいだ。

「ダメダメ。そんなのお客さんに聞かせられないよ! あ、もうこんな時間じゃないか」

 ミキは時計を見て家の自営業を手伝うために慌てて帰っていった。本来なら、この時間には練習は終わっているはずなのだが、練習が苛烈になるあまり時間が長く

なっていたのだ。そのためか、部員みんな疲労の色が隠せない。

「ねえ、もう今日は練習終わろうよ」

 美登利がサキにうかがいをたてた。

「帰りたいやつは帰れよ。大体美登利は何もしてないじゃないか。他の連中もそうだ。本当に駅音に出たいやつだけ残れ」

 サキの鋭い言葉に美登利はショックを受けた。そして泣きそうな顔でサキに訴えた。

「わたしたちは楽器できないし歌も歌えないけど、歌詞を書いた仲間として、参加したいと思っているよ。本当は茉莉と同じように橋本君目当てでロック部に入部したけど、サキの頑張ってる姿にずっと憧れていたんだよ。橋本君は確かにプロレベルだけど、それに追いつこうとするサキはカッコイイと思う。わたしは何の取り柄もないから、応援することしかできないけど、橋本君もサキもどっちも頑張って欲しいって思ってるよ」

 美登利は部室を出て行った。他の生徒も同じように出て行った。

 残ったのは、サキとユキだけになった。

「ユキは残ってくれるのか?」

「う~ん、わかんない。でもあまり遅くなるとお母さんが心配するから~」

 その時、校内を見回っていた教師がやってきた。

「こらー、いつまで残ってるんだ。早く帰りなさい」

 ふたりは追い立てられるように帰途についた。サキとユキ、ふたりは一緒に帰ったがどちらも何も語らなかった。

 さらに翌日の放課後。視聴覚室に来たサキは、誰もいない部室内にあぜんとした。

「誰も来ないつもりかよ」

 瑠璃が占拠していた一角のパソコンやシンセサイザーはすっかりキレイに片付けられていたし、幽霊部員たちのお菓子も無くなっていた。まさに全く使われていない視聴覚室そのものだった。あるのはサキのアンプだけだった。

 仕方ないのでひとりで練習するサキだったが、まるっきり集中できなかった。演奏はめちゃくちゃだし、荒れたように机を蹴飛ばしたりもした。

 むしゃくしゃしたサキはギターを床に叩きつけたかったが、さすがにそれだけはできなかった。大切な唯一のギターを破壊なんてできなかった。

 次の日、サキは学校を休んだ。その次の日も。そのまた次の日も。

 ついには自分の部屋にこもりきりになって、ベッドの上でぼんやりと過ごしていた。何をするでもなくただぼんやりと。

 学校を休んで何日目日の夜に、携帯にメールが来た。ミキからだった。ひと言「元気か?」とあった。

 サキは飛び起きた。カレンダーを見ると、翌日の日付に花丸がついている。ギターを引っつかむと、取りつかれたようにかき鳴らしだした。

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