第8話

「いよいよ明日が本番だな」

 練習の帰り道。サキミキユキと陽子は、翌日に控えた学園祭ライブに向けて意気込んでいた。

「まあ、最初はあまりの下手さ加減に正直どうなるかと思ったけど、直前になって聞けるようになってきたね」

 陽子はズバリと言った。だがその裏には音姫7が上達したことの証があった。

「これで橋本に対抗できるな。明日が楽しみだ」

 サキは本当に事あるごとに橋本を引き合いに出す。サキ以外の部員は、橋本への憧れを寄せるものの、ライバル心はみじんもない。

「橋本ってそんなにすごいのか?」

 陽子は何気なく質問したが、三人はポカンとした顔をした。校内で橋本のことを知らない生徒がいることが信じられなかったからだ。

「今年の全国高校生バンド大会で優勝したんだよ。いくつかのメジャーレーベルからもオファーがあって、来年の卒業を待って、晴れてメジャーデビューするんだ」

 ミキが説明した。

「二年生の時も大会に出場したんだけど、その時は惜しくも優勝できなかったんだよね~。審査員特別賞だったかな~?」

 ユキも補足した。

「そうなんだ。全然知らなかった。いや、ロック部にすごいのがいるらしい、というのは噂で聞いてたけど、わたしはその時には学外のバンドに在籍していたから、校内のバンドには興味はなかったからね。橋本ってのはそんなに以前から活躍してたのか」

「一年生の頃から、先輩に一目置かれていたよ。サキは下手間ばかりやらされてたけど、橋本君はよく前座で使われてたり、先輩の曲作りに参加していたりしてたよ

。二年生の時の学園祭はもう橋本君の独壇場だったねユキ」

「そうなの~かっこよかったな~。あのライブで橋本君のファンクラブができたんだよね。茉莉が会長で美登利が副会長で」

 ミキとユキは楽しそうに思い出話に花を咲かせた。ふたりの盛り上がりに加わるように陽子も身を乗り出して話を聞き入り、関心ありそうに相づちを打っていた。

「あたしは面白くなかったな。橋本ばかり目立って、あたしたちのサキミキユキは出演すらさせてもらえなかったんだから」

 イライラしながらサキは吐き捨てた。

「そりゃしょうがないよ。学園祭のメインは三年生なんだから。二年生が出演するというのはよっぽどよ」ミキがたしなめたがすぐにサキがかみついた。「それなら今年の二年生もよっぽどなのかよ」

「うーん、橋本君が直接推薦するぐらいだから、すごいんじゃないかな?」

「ふん、面白くないな」

 サキはふてくされたように腕組みしたが、すかさずミキがつめよった。

「でも、サキ以外の女子たちも面白くないと思うな。だって、去年の学園祭で橋本君で盛り上がってファンクラブまで作ったのに、サキが強引に女子ロック部を立ち上げて男子と女子を引き裂いたんだから。当時茉莉たちは相当サキを恨んでいたよ」

「でも、茉莉は一年の男子とメールでやりとりして、男子ロック部の様子の報告を受けてるし、なんだかんだで男子ロック部の手先みたいなことしてるじゃないか」

「それくらいは認めてあげてよ。今は音姫7に集中してくれてるんだから、感謝してあげるべきよ」

「そうだよ~。平和が一番~」

 ユキがまとめに入ったが、すぐにふたりににらまれた。相変わらずのパターンに陽子は苦笑した。

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