第7話

 翌日から女子ロック部、音姫7の本格的な練習が始まった。

 ギターの基礎を習ったサキはひたすらギターリフを弾き続けていたし、ミキとユキはそれに合わせてベースとドラムでリズムをキープしていた。

「どうよ、あたしのカッティングリフ。切れ味があって決まってるでしょ?」

 得意のオーバーアクションでギターを弾くサキは自慢げだ。陽子のおかげであることは言うまでもない。

「はいはい、上手上手。自慢するのはいいけど、先走った演奏はしないでよ」

「ウチも追いつくのが精一杯なの~」

 陽子はちゃんと歌メロを作ってきて、さらに茉莉とふたばが曲に合うように修正を加えている。同時進行でギターソロのパート作りにも余念がない。

「陽子って色んな曲のジャンルをやれるんだね。こういうのを天才っていうのかな? 茉莉にも分けてもらいたいよ」

「天才じゃないよ。単にたくさんの曲を聞き込んでるから、曲に対する引き出しが多いんだよ」

「陽子先輩。尊敬します。ふぅ頑張って歌います」

 瑠璃はというと、いつものようにパソコンやらシンセサイザーが積み重なった一角にいるが、ちゃんとソロパートを作っているようである。黙々と作業しているが、聞こえてくるメロディは意外にもキャッチーである。なんだかんだでちゃんとした曲も書けるようである。 

 美登利たち幽霊部員も、窓際の一角でお菓子を頬張りながら、楽しそうに作詞をしている。あーでもない、こーでもないと意見を出し合っている。ただ、歌詞の内容

がどうにも女々しくて、そこだけがサキは気に食わなかった。

 各部員たちが率先して行動する姿にサキは、女子ロック部創設以来の椿事だと確信した。これこそがクラブ活動の本来あるべき姿であると。

 陽子の作ってきた歌メロは、意外とロックなメロディだった。サキはもっとポップなものを予想していたのだが、素直にカッコイイ歌メロに、これなら十分にヘヴィメタルの歌として聞けるものであった。

 ギターに合わせて茉莉とふたばがユニゾンで仮歌の歌詞で歌ってみると、これが意外にもしっくりとくる。オーソドックスなハードロックなナンバーになっていた。古臭いといえばそれまでだが、そこがかえってなじみやすいとも言えた。

 ただ、サキの弾くギターリフだけを抜き取ると、あまりにブルータルでスラッシュメタルのように切れ味が鋭い。エッジの効いたギターには違いないが、少々ヘヴィすぎるきらいがあった。しかし陽子はあえて修正を加えずに、サキの弾きたいように任せていた。ヘヴィなギターとキャッチーな歌メロのギャップこそが、陽子の目指すところだったからだ。

「その内、アイドルの楽曲を作ることになるかもね」

 ことあるごとに茉莉がサキを茶化した。ヘヴィなギターと、聞き心地のいい歌メロの融合は、メタルに詳しくない茉莉たちを始め、部員みんながお気に入りになり

つつあったのだ。

 それまで視聴覚室からは騒音しか聞こえなかったのが、陽子が加わって以来、まともな楽曲へと変貌し校内の生徒たちからの見る目が変わってきた。

 まずは音楽好きな生徒が見学にやってきた。そして彼らのクチコミで女子ロック部が変わった、と校内に広まり、日に日に見学者が増えてきた。これにはますますサキは鼻が高かった。

 陽子のアドバイスにより、サキのギターテクニックも上達しつつあった。まだまだ未熟な部分もあるものの、今取り組んでいる課題曲を弾くだけの技量は身についてきていた。

 茉莉とふたばは、当初ユニゾンで歌う予定だったが、後日茉莉が自主的にハモリのパートを作ってきた。せっかく二人で歌うのだから、とわざわざ譜面まで起こしてきたのだ。そこはさすが元アイドルとしてレッスンを重ねてきただけのことはある。

 陽子と瑠璃のソロパートも完成間近になっていた。とにかく最初で最後の晴れ舞台なのだから、ふたりには思う存分弾きまくって欲しいとサキは思っていた。

 ミキとユキは当初はサキのギターに合わせる程度のことしかできなかったが、これまた陽子のアドバイスでより派手なプレイができるようになっていた。

 音姫7は確実に日に日に成長していた。それに比例して、校内からも応援する声が高まっているのが、メンバーにも感じられていた。そして応援に応えるべく、メンバーのモチベーションも上がっていくという好循環が生まれていた。

 その循環を察したのか、ついには男子ロック部の橋本までもが練習を見に来るまでになっていた。

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