第6話

 下校時、サキとミキとユキ、そして陽子の四人は一緒になって帰った。まだ明るい空のもと四人は徒歩で帰宅する。サキの路上ライブは、学園祭ライブの練習に専念するため終了していた。

 サキミキユキは幼稚園からの幼なじみで家が近所なので、いつも学校帰りは一緒だった。陽子も意外にも家は近かったし、部活後はサキの家でギターの特訓が待っていた。

 サキと陽子のふたりは音楽のことを語り合った。お互いの音楽性、趣味、ギター遍歴、好きなギタリスト等など…。

 聞けば陽子は楽器店の一人娘であるようだ。幼い頃から様々な楽器を父親から学び、また古今東西色々な音楽に触れてきたという、音楽漬けの人生だった。いつの

頃からか、父親の知り合いの音楽仲間からバンドに誘われるようになり、小学生にしてすでにギタリストとして活躍していたという。

「ニナ・ボルグ?」

 サキが好きなギタリストを答えたとき陽子は思わず聞き返した。様々な音楽を聞き、知識も幅広いつもりでいた陽子は、聞き覚えのない名前に驚いたからだ。

「そうさ。スウェーデン出身の女性ギタリストさ。二十歳で地元のバンドでデビューして、色々なバンドを渡り歩いたあと渡米し、自分名義のバンドを作って活躍したんだ」

「あ、あー。そういえば昔そういうギタリストがいたような…。すごくマイナーな人じゃないか? いつごろの年代の人だい?」

「活躍したのが約二十年前。交通事故でもう他界してる。でもさ、彼女が亡くなったのが、あたしが生まれた日なんだ。これって運命を感じてるんだ。もしかしたらあたしはニナの生まれ変わりなんじゃないかって」

「は? 生まれ変わり?」

 その話になった途端、ミキがまた始まったと、顔をしかめた。

「そうさ。あたしをメタルの道へ導いてくれたお父さんから聞いた話だよ。お父さんもニナのファンだったんだ。家にニナのアルバムがそろっていてね、何度も聞いたよ。あたしは若くして亡くなったニナの生まれ変わりとして、この世に生まれ、彼女の意思を継いで生きていくんだ」

 サキは目をキラキラさせて熱く語った。サキが熱くなればなるほど陽子は引いていった。

「思い出したよ。ニナ・ボルグはバンド「LOKI」を作った人だな? ニナ以外のメンバーはコロコロ入れ替わって安定しないバンドだよな確か。聞いた話だとニナがすごくわがままでメンバーをすぐにクビにしたとか…」

 そこまで言って陽子は言葉を止めた。なんとなくサキを見ていたら、これ以上言わない方がいいような気がしたからだ。

「アルバムを制作するたびに、同じレーベルに所属する腕利きミュージシャンを集めて、最高の布陣で曲作りをしたからニナのアルバムは最高に出来がいいんだ」

 サキはまるで自分のことのようにほこらしげだ。

「ところでさサキ。どうして女子ロック部と男子ロック部に分かれてるんだい? 普通に軽音部として活動すればいいのに」

 陽子は話題を変えた。ずっと疑問に思っていたからだ。

「一年生の時はまだロック部として男女混合のクラブだったんだ。一年生は先輩の下手間みたいなことをしていて、まともに楽器を演奏すらさせてもらえなかったよ」

 ふむふむと陽子が聞き入る。

「だけど橋本が。橋本だけは別格で、あいつだけが二年生のバンドに採用されたんだ」

「そんなに橋本ってすごいのか?」

「悔しいけど、腕は確かだし、歌は上手いし、曲もいい曲を書くし…」

「あとイケメンだし~」

 ユキがうれしそうに言った。

「あたしが二年生になったとき、ミキとユキでバンドを作ったんだ。その年の学園祭で出演させてもらいたかったが、橋本のバンドが優先されて出演した」

「それに腹を立てて、サキは当時いた女子部員全員を引き連れて、女子ロック部を立ち上げて、視聴覚室を占拠したんだ」

 ミキが補足した。

「あの時は、学園祭に出演できない腹いせに、ボイコットした形だったけど、顧問も顧問で自由にさせる人だから、女子ロック部の存在を認めちゃったんだよな」

 ミキは続けた。

「結局、今は使われてない視聴覚室を占拠したところで、どこからも苦情が出ないもんだから、今に至るんだ」

「あたしたちの主張が認められたんだ」

「そうじゃないだろ、引くに引けなくなったんだろ」

 またサキとミキが小競り合いを始めた。それをユキがなだめる。が、すぐにたしなめられた。

「ふーん。意外とみんな苦労してるんだな。だから今年の学園祭にかける思いは強いわけか。わかった、わたしも本気で手伝うよ。じゃあ今日もギターの特訓だ!」

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