第5話

 翌日。放課後サキは陽子を引き連れて視聴覚室に現れた。見慣れないお客さんではあったが、瑠璃とふたばは不気味な曲をやり、窓際の幽霊部員は携帯片手にお菓子をつまみ談笑し、部室はいつも通りのまったりとした空気だった。ミキとユキも手持ち無沙汰そうにおしゃべりしている。

「諸君!」

 黒板の前に立ったサキは、教卓を叩きながら大声を張り上げた。ようやく部室内のみんながサキを振り返った。

「新しい仲間を紹介する。別所陽子だ。彼女は凄腕ギタリストで、どんなジャンルでも弾きこなすことができる。なおかつ作曲もできるという、素晴らしい逸材だ。昨日駅前で路上ライブをしていたら偶然彼女と出会い、意気投合し、あたしたちの仲間になってくれた」

 意気投合し、の部分を聞いた陽子は、思わず首を横に振った。

「学園祭ライブに一緒に出場してくれるということで、あたしたちは大きな武器を手に入れた。これで男子ロック部を迎え撃ちたいと思っている」

 鼻息荒いサキにミキが挙手した。

「でも、その学園祭ライブは時間枠が削られたんだろ?」

「そう。あたしのバンドと瑠璃のバンドのふたつが出演予定だったが、枠が削られたことで、ふたつの内どちらかが出演を諦めなくてはいけない状況になった」

「自分は別に出演できなくてもいいよ」

 部室の隅の方から陰気な声が漂ってきたが、無視された。

「そこであたしと陽子で考えた。ふたつのバンドが出演できないなら、ふたつ一緒にして出演すればいいのではないかと。要するに、サキミキユキと耽美醜をひとつに合体させて、さらに陽子を加えるんだ。バンドの構成は、ユキがドラム。ミキがベース。あたしがリズムギター。陽子がリードギター。瑠璃がシンセサイザー。そしてボーカルはふたば…」

 そこで言葉を切ったサキは窓際の一団に目をやった。茉莉と美登利がいる。昨日のことがあったというのに、しゃあしゃと来ている。しかしサキは不敵な笑みを浮かべた。

「ボーカルにふたばと茉莉を加えて、七人で新バンドを結成しようと思う!」

「えぇ~!?」

 大げさな声を上げて茉莉が立ち上がった。

「茉莉は学園祭ステージの実行委員なのよ?」

「知らん」

「橋本君のお手伝いをするの」

「自分たちにやらせろ」

「なんで茉莉なの?」

「お前中学の時、地元でアイドルやってたろ。歌がうまいし、ダンスもプロ並みと、いつも言ってるだろ。それを披露するんだ。あと校内の男子の間では人気あるじゃないか。その期待に応えてやってもいいじゃないか」

「なっ! それとこれは別問題じゃないの! 確かに茉莉は歌はうまいし、ダンスも負けないし、可愛いし、スタイルいいし、人気者だし…」

 ふと部室内が冷めた空気になっていることに、茉莉は気づいた。

「ちょっと、ここツッコむところ!」

「茶番だな」

 瑠璃の陰気な声が聞こえた。

 再びミキが挙手した。

「七人で出演するのは分かったけど、どんな曲をやるの? 学園祭まで時間がないから作ってる暇はないんじゃない?」

「昨日、陽子と相談して具体的な方向性は決まった。七人全員の見せ場があるように楽曲を作ることにする。時間を削られたのなら、もらった時間全部を使い切るく

らいの長い曲でやりきってみたいと思う。長いギターソロとシンセサイザーソロが入り、なおかつボーカルパートもしっかりある楽曲にするんだ」

「1970年代のブリティッシュ・ハードロック路線だな」

 陽子が補足した。

「あたしが今まで作ったギターリフを元にして、ボーカルラインを陽子が作る。同時に陽子は自分が弾くギターソロも作る。瑠璃はシンセサイザーソロを作れ。不気味なメロディは禁止。なるべくキャッチーなメロディにすること。ミキとユキのリズム隊は曲に合わせたシンプルなものになる。ちょっと地味だけど、長い曲になりそうだからここは体力勝負だ」

「なんだよ、さっき全員に見せ場があるって言ってたじゃないか」

 ミキは不満そうに文句をつけた。

「いいじゃん~、簡単そうだし~」

 ユキはのんきそうに笑ったが、「そういう問題じゃない!」とミキにたしなめられた。

「ふたばは歌もだが、ダンスも披露すること。ボーカルラインが出来たら、いつもやってる即興で合わせる創作ダンスを作ること。それを元に茉莉と一緒に練習」

「は、はいサキ先輩!」ふたばは声を震わせながら感謝の意を表した。「光栄です。ふぅはうれしいです。全力で作ります。歌もがんばります!」

「最後にあたしはギターリフを練習する。以上!」

 サキからの発表に部室内はざわついた。みんな腑に落ちないでいる。確かにこの方法はひとつの案かもしれないが、いくら部長とは言え全部新参者と一緒に考えたことを強引に部員に押し付けることに疑問を感じたのだ。だが、学園祭まで時間はないし、他に対案もないのでこのまま押し切られてしまいそうなのだが、サキばかりいい思いをするようで腑に落ちないのだ。

 そこに美登利が挙手した。

「ねえ、わたしたちにも何かできないかな? 今聞いた話だと、曲の歌詞は誰が作るの? もし良かったら、わたしや他の部員たちで詞を書きたいな…」

「あ、そういえば。歌詞のこと忘れてたな。じゃあ、美登利、作ってくれるか?」

 サキは失念していた事柄にあっさりと承諾した。と同時に幽霊部員たちも一緒に手伝ってもらえることに、ますます部員が一体になれると考えた。美登利としては

他の部員たちには役割があって、自分たちにないことへの焦りが解消される安心感を得られて嬉しい気持ちだった。

 かくして、女子ロック部は好むと好まざるとに関わらず、身勝手な部長の提案をのむはめになったのである。

「ところでバンド名は?」

 ミキが質問した。

「七人合わせて、音姫おとひめ7」

 胸を張って答えるサキだったが、部室内は静まり返った。

「なにそれ安直~」

 茉莉が文句を言ったが、黙殺された。

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