第4話
よく知られているように、
「お待ちしておりました、渡辺の若さん」
「ご隠居の具合は?」
「今は落ち着いておられます。どうぞ、こちらへ」
出迎えた家人に招き入れられ、綱と茨は庵に足を踏み入れる。これまでにも何度か訪れたことがあるので、いつもの部屋を通り過ぎて奥へと案内されたことに気がついた。
「大旦那さま、渡辺の若さんがお越しです」
入室を許可する声があり、
「見苦しい姿で申し訳ない、綱よ。いきなり呼び立ててすまなんだの」
「何の、お気になさらず。それよりも倒れたと聞きましたが」
厳重に
「なに大したことはない。こうしておるのも家の者が大人しゅう寝ていろ寝ていろとやかましいでな、致し方なくよ。心配いらぬというに、おかげでおちおち本も読んではおられん」
膝に掛けていた
「万が一ということもあります」
「あほうめ、儂とて人の子よ。死ぬ時は死ぬ。第一、儂くらい年寄りならば、いつポックリ逝ってもおかしゅうないわ」
容貌だけなら住吉の神の化身かとも思える古老なのだが、温和そうな見た目に反して剛毅な性格なのは、幼少の頃からの付き合いで綱もよく知っている。
「それよりもお主を呼んだのは他でもない。少しばかり頼みたいことがあっての」
「何なりと」
「娘を一人、京へ送り届けてやってほしいのだ」
「それは構いませぬが……」
急いで呼びたてるほどのことなのかという疑問が表情に出ていたのか、じろりと綱を見やった津守翁は理由を話し始めた。
「その娘の祖父とは縁があってな。官には着かなんだが、かの御仁は大層な博識での。若い頃には様々な国を廻っておったが、いまは落ち着いて
「蘆屋の法師どののことですか」
「知っておるのか?」
「ご高名だけは」
ならば話は早いとばかりに津守翁が声をひそめる。
「その法師どのがな、亡くなった」
ヒヤリとした。
死は
その彼にして託宣じみた津守翁の言葉には、心胆寒からしめるものを感じさせたのだ。
「法師どのはな、京の公達から頼まれて異邦の書の研究をしておったらしい。宋や
「それはまた……然れど、いったい何の関係が?」
「その書が見つからぬ」
眉を寄せた老人の表情はいつになく険しい。
「盗まれたと?」
「おそらく。じゃが、それだけではない。法師どのはとにかく尋常ではない姿で発見されたのだ。十中八九、その書が関係しておる」
「まさか」
「異教の
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