第13話 キンカン×キンカン


「おはよーございま」


 いつもの放課後、部室に行くと。

 言葉がフリーズ、リアルできょとん、思考が停まって、茫然自失。

 ドアを開ければ衝撃で、視覚で味わう乙女の悲劇で、過激で刺激が強すぎて、あたしの理性はクラッシュ崩壊。

 放課後の部室で、あたしが見てしまったのは、


  イエス、ちんちん!


 みんなの害虫、不快な汚物、早く殺して乙女の天敵でお馴染み。

 歪んだ現代社会が産み落とした、変態貴公子のゆとり先輩が、


「ヌォォォ、フラァァ……」


 上半身はノーマルで、ズボンとパンツはノーセンキュー。

 おちんちん丸出しの露出スタイルで、ノンモザイクのペニスをいじっていました。


  キィィィ――――┐

          └――──バタン。


 あたしは静かに。

 ドアを閉めて、その場でクルリと反転――ガチャ。


「待て、どうして逃げる?」

「ウフフ……あたし何も見てませんから……何も見てないっスから……」

「ならば、見て貰いたいモノがある。部室に寄っていけ」

「イヤに決まってますっ!」


 あたしはツインテールを振りかざして、ぱんつもズボンもはいてないゆとり先輩を怒鳴るのです。


「このド変態さんめっ! 汚らわしいモノを見せないで欲しいのですっ! 視覚の毒素であたしの瞳が腐るのですっ! もう腐ってると自己ツッコミを入れますけど、それとは別のお腐れ方式で瞳が濁りますから! ったく、ゆとり先輩はいったい部室でナニをしてたんですかっ!?」

「なにをしていたと思う?」

「乙女が口に出しては言えないコトですっ! キモいんですっ! 不快なんですっ! 性欲を抑えて欲しいのですっ! ゆとり先輩のアタマが、もはや手遅れ打つ手なしなのは存じてますが、次やったらガチでおまわりさんを呼びますよっ!」

「まあ話を聞け。俺が部室で下半身を露出して股間をイジイジしていたのには、とある理由があるんだ」


 ちんこ丸出しのゆとり先輩は、ドヤ顔であたしに言います。

 ブラブラと揺れるおぞましき淫獣に、あたしの理性はティロ・フィナーレ。

 もう、ワケがわからないのです。

 ゆとり先輩が下半身を露出するなら……マミるしかないのです。

 バールのようなものを取り出して、クラスのみんなに内緒だよ?っと、ゆとり先輩のソウルジェムを破壊せんと身構えます。


 ――皮の中は息苦しいもんな。

 ――いいよ、根本から切断してやんよ。


 ドヤ顔でグリーフシードを露出するゆとり先輩に、あたしは問いかけるのです。


「ほぉ、それはどんな理由ですか? 変態行為にどのような正統性があると? 今度は何を探求してたのですか? どんな性癖に目覚めたのですか? ぶっちゃけ興味ないですけど、言い訳ならお聞きしますよ? モチ資料的な意味で」

「ならば説明してやろう。春日が来る前、俺は沢木と部室でくつろいでいたんだ」

「それで?」

「窓を開けたらハチが入ってきた。凶暴なハチだった。侵入と同時に沢木へ襲いかかるような」

「それは危ないですね。部室で下半身を露出するゆとり先輩のアブなさに比べると、だいぶ安全と思いますけど」

「で、俺はハチに襲われる沢木を庇ったんだ。我が身を使ってな」

「それは殊勲なのです。少しだけ見直しましたよ。1.7ピコグラムほど。本当に死ねば良かったのに……で、どうやってサワキーを庇ったんですか?」

「まず、ズボンとパンツを脱いで」

「へっ、変態なのですっ」

「最後まで聞け。ズボンとパンツを脱いで素肌の露出を増やした俺は、ハチ視点だと狙いやすい目標に映るはずだ」

「なるほど、さっぱり理解不能なのです。単に脱ぎたかっただけじゃないかと」

「脱ぎたかったのは事実だが、効果はあったぞ。ハチは沢木から俺へとターゲットを変えた。そして俺は刺された」

「お見事なのです、このド変態さんめ。久しぶりにゆとり先輩を見直しました。カッコいいですよ、サイコーですよ、いま死ねば悲劇の英雄になれますよっというわけで、これはチャンスですよね? 悲劇の英雄になりたいですよね? つまり死にたいですよねっというか、今すぐ死んでください。どーぞどーぞ、いつでもどうぞ、オッケー今すぐこの場でどうぞ、ゴーゴーレッツゴー、あの世へレッツゴー、マッハでヘブンにつまり死ねってことです。応援してますよ。それでゆとり先輩はどこを刺されたのですか?」

「ちんちん」

「さっさと死ぬのです……アナフィラキシー何とかで」

「ほら見てくれ。ここが痒いんだよ」

「わざわざM字開脚してまで、あたしに見せなくていいのです……」

「でも見て欲しいんだよ。ハチに刺された俺のアレを。こんな真っ赤に腫れ上がって」

「あたしは実戦経験のない粗末なランス、しかも革製の鞘に覆われた愚槍なんぞを見たくないのです。腫れ上がっているにも関わらず、そのサイズなのを恥じて下さい。そして死んで下さい。拒否は許しませんけど、どーせ社会的に死ぬのは確定なのです。廊下で下半身を露出してあたしに見せつけている状況は通報すれば一発でおしまいだと思うのです。さて先生はドコに? 可能ならば体育担当の――」

「確かにモロ出しはまずいな。よし、部室に行こう。二人っきりで見てくれ」

「ちょっっっ!? ツインテールを引っ張らないで………!」


 グイッと。

 ペニスを抜刀状態のゆとり先輩が、あたしのツインテールを掴んで引っ張ります。

 そして、あたしは気づいてしまいました。

 先ほど、ゆとり先輩が下半身をいじってたのは……今あたしのツインテールを掴んでいる指で、


「あwせdrftgyふじこっ!!」

「ちんちんをハチに刺されて不安なんだよ。痒いし、腫れてきたし、真っ赤になってきたし」

「いやっ、やめて、そんな汚いモノ、見せないで、ひぃ……って、本気でやめてくださいっ!」

「ちんちんが、ジンジンしてる、見てほしい」

「キタナイ言葉でキレイな韻を踏まないで欲しいのですっ! 無駄に575のリズムなのが不愉快ですッ! とにかく死んで下さいっ! ほんとハチに刺されたぐらいで大騒ぎして恥ずかしい……そもそもハチに襲われたサワキーはどこに消えたんですか?」

「沢木か? ハチに刺されたちんこを見せたら、どっか逃げた」

「健全な女子高生として当然の反応ですね……あー、見せなくていいのです。もう十分見ましたから。貴重な資料をじゃなくて、たぶん大丈夫ですよ。死なないですよ」

「でも、なにか障害が残るかもしれないし」

「ゆとり先輩がどんな障害を心配してるかは存じませんが、どーせ使うことなく一生を終えるから問題ないと思うのです。不安なら、キンカンとかムヒを塗っといて下さい」

「それは名案だな。では塗ってくれ」

「イヤなのですっ! どんな脳みその構造をしていれば、他人に塗らせるって発想にたどり着くんですかっ!」

「じゃあ、俺が股間に虫さされを塗るトコを見ててくれ」

「ゆとり先輩の性癖がマニアック過ぎて、あたしにはコメント不可能なのです……」

「アドバイスの相手がほしいんだよ。皮をどうするかとか」

「あー、お好きにどうぞ……」

「ほら見てくれ。俺のちんちんがハチに刺されて真っ赤に腫れてるだろ?」


 部室に引きこまれたあたしは、ゆとり先輩にアレを見せられています。

 自分でも、なにを言ってるかわかりません。

 ところであたしは、この目で見ているモノをビジュアル的な意味で詳細に描写すべきなのでしょうか?

 もちろんそんな描写に需要がないのは存じていますし、詳細に描写しても不愉快な思いをさせるだけで、ヘタしたらアウト判定を喰らって消滅なのも存じています。


 だけど、誰でもいいから不幸に巻き込みたい……

 そんな意味で、ゆとり先輩のアレを描写したいわけなのですよ。

 各方面のブーイングを物ともせず、BL小説の執筆で鍛えた百戦錬磨の語弊をフル動員し、文学表現を腐った方向に活用して、恥ずかしさで赤面するよりアホすぎて頭痛がしてくるカオスな状況を描写したいのですが、眼前に広がる地獄のような光景を言葉にして伝えるにはあたしの持つ文章表現能力はあまりに未熟であり筆舌にしがたい現実の前では力が及びません。

 大変遺憾なのですが、詳細な描写は見送ることにします。

 せっかくのチャンス、とっても歯がゆいです。


「ほら、ここの真っ赤になってるとこだ」

「あたしはゆとり先輩のアレが、元々どんな色をしていたか……あっ、言わなくていいのです。説明は不要なのです。まったく興味ないんで」

「そういえば、虫刺されってドコにあるんだ?」

「たしか戸棚の上に救急箱が……ありました。この中に虫刺されが……キンカンが入ってますね。はい。これを使って下さい」

「助かる。しかしドキドキするな。俺のちんこにキンカンを塗るなんて……きっと新婚初夜の花嫁は、初めてのベッドをこのような気持ちで迎えるに違いない」

「花嫁侮辱するにも程があると思いますよ? さっさと塗って下さい。あと使い終わったら、そのキンカンは捨てて下さいね。ゆとり先輩が使ったあとは、誰も使えないんで」

「なあ春日、俺のちんこに塗ったキンカンを他の人が使ったら、それは「間接キス」みたいなプレイの一種で「間接ちんこ」になるのかな?」

「ンな不幸なプレイが起きないように、ゆとり先輩が使用したキンカンは、あたしが責任をもって処分することをいま決心しました……ほら、ちゃっちゃと塗って下さい」


 呆れた表情で言いながら、あたしは心の中でニヤリほくそ笑みます。


 ――バカです、この変態さん。


 粘膜部に刺激の強いキンカンを塗ったら、どんな酷い状況になるか?

 そんなことは少し考えれば分かるのですが、やはり人間の想像力には限界があるわけでして……

 いま執筆中の作品で。

 敵のマフィアに捕まった主人公が、股間にお酒を垂らされて悶えるシーンなんて書くつもりないですよ?


「――ふらぁぁぁっっっ!?」


 悲鳴が上がりました。

 まさか本当にやるとは……ゆとり先輩、無茶しやがりまして。

 心の中で敬礼っ。

 ふむふむ、これは貴重な資料です。

 さぁ、粘膜部に刺激物を塗られた殿方が、どのように悶えるか……アレ?


「グガァァァァっ!! 俺のちんこが真っ赤に燃えるゥ! そこらめぇっ痛いと苦しみ叫ぶ! ぐぉぉぉぉ、おっ俺のちんこがヨガファイア……ッ!!」


 ……

 …………尋常じゃない刺激みたいです。

 ……


「貴様ァァ! 俺のちんこに何を塗らせやがったァァァァ! ふぐぁ……俺のちんこが真っ赤な誓あ"あ"あ"あ"い"い"い"っ!」


 絶叫、悲鳴、涙目、キモい。

 エキセントリックな悲鳴に、あたしはおどろきを隠せません。

 ゆとり先輩は、下半身全裸で「ブリッジ」を始めました。

 ファナテックな悲鳴に、あたしはドン引きです。

 ゆとり先輩は、下半身全裸で「ヨガッ!」とか叫んでいます。


 ――さすがにおかしい?


 これはヤバイと、イヤな予感がしまして。

 床に転がるキンカンの瓶を拾って、ラベルを確認してみますと、


--------------------------------------------------------------------------

商品名『キンカソ』

 非常に刺激の強いタイプですので、粘膜部から離れた場所でのみ用いて下さい。

 何か異常を感じた場合は、最寄りの医療機関で診断を受けて下さい。


                         ※これは除光液です。

--------------------------------------------------------------------------


「ゆとり先輩……これキンカンじゃなくてキンカソなのですっ!」

「俺のちんこがソニックブーム……キンカソとは、グッ」

「マニュキュアの除光液みたいです……」

「なんてモンをちんちんに塗らせやがったぁぁぁッ! ぬぎぁ……なんで救急箱に化粧用品が紛れ込んで、ぐぉ……ぉ」

「実はこれ救急箱じゃないっぽいのです……救急箱っぽいデザインの化粧ケースみたいで……ほら、女子高生が好きそうなジョークグッズの一種ですよ。口紅とかマニュキュアが家庭の常備薬のパロディーパッケージに入ってひと通り揃ってますけど、化粧品としてのポテンシャルが怪しすぎて、見た目は面白いんですけど、誰も使ってないという……」

「捨てろっ! ンな紛らわしいもの!」

「言われなくても捨てるのですっ! ゆとり先輩の粘膜に触れたマニキュアの除光液なんて。だれも使えませんからっ!」

「ヌォォォ……俺のちんこがエレクリカルパレード! カハァ……なんという刺激……なんという激痛……俺のちんこが悲鳴を上げる……俺のちんこが涙を流す……春日よ……もう限界だ」

「あっ、死ねばラクになりますよ?」

「にっこり笑って言うんじゃないっ! こうなったのも貴様のせいだっ! 責任を……フヌゥゥゥ! 俺のちんこが灼けるようだ……春日よ……頼みがある……」

「なっ、なにを頼むのですか?」


 タラリ――と。

 あたしの頬をひとすじの汗が流れました……嫌な予感がします。

 とてつもなくイヤな雰囲気がジリジリと、どうしようもなくイヤな気配が足音を立てて。


 ざわ…ざわ……ゴゴゴ……


 人間の第六感だけが察知できる。

 不可視で無臭で死ぬほどヤバイ、放射線のような瘴気を感じるのです……。


 はい、逃げたいのです。


「春日よ……」


 消え入りそうな声で、ゆとり先輩は言いました。


「俺のちんこを……吐息でフゥーフゥー冷ましてくれ……」

「無理です」

「ムリでもやってくれ……俺のちんこがピリ辛モードなんだぁ……」

「おっしゃっている意味がわかりま……いや、たとえが秀逸なので、女の子のあたしでもなんとなくゆとり先輩のおちんちんが陥っているクライシスな状況が分かりましたけど……」

「俺のピリ辛ちんこを……はふはふっ、ふぅふぅー、して欲しいんだぁ……」

「ヤです」

「そこをなんとか……俺のちんこを、こんなにした責任をとれぇ……」

「無理です、イヤです、下半身全裸でM字開脚しないで下さい…………えぇ、分かりましたよ……あたしにも責任があるんで、いっ息を吹きかけるだけなら……」

「はっ…はやく、ふぅーふぅーしてくれぇ! 俺のちんこはカラムーチョだ!」

「ゆとり先輩は、どんだけ他人の商標を汚せば気が済むのですか? いっいきますよ……うっ動いたらブチ殺しま」

「――もっと顔を近づけろ」

「嫌ですっっ! やっぱりヤなのですっっ! なんであたしが……んなアホなことを……」


   ガチャ。


「ごきげんよう。あら、ゆとりさんと春日さん。二人で何を――サヨナラですわ」


  キィィィ――――┐

          └――──バタンっ


「オリミー、ストップなのですっ! これには事情がありましてっ!」

「フフフ……わたくし何も見てませんの……卑猥な行為なんて見てませんの……」

「だぁぁぁぁぁあ! 遠い目をしないで欲しいのですっ! これは違うので」


「続けろ――俺はまだ満足していない」


「ゆとり先輩は黙るのですっ! とっとにかく、ペラペラ、ペラペラ、ペーラペラ」


 誤解されたままだと人生が終わりそうなので、必死でオリミーに事情を説明します。

 ゆとり先輩はハチにちんこを刺された変態――と。


「それは大変ですわっ!? ハチの毒で人は死ぬこともありましてよっ!? ゆとりさん、ちょっと患部を見せてくださる……ひどいですの。真っ赤に腫れあがるだけではなく刺激物を塗りたくられたかのような……おや? 虫さされが転がっていますわ。応急処置になりますが、これを患部に塗って――」

「ダメですっ、オリミー!」

「をほぉっ!? 塗っちゃらベぇぇなのォォ! それ塗っちゃふげりゅべぇぇっっっ!」

「なっっ!? たかが虫刺されで大げさなっ!?」

「ぐぉぉ……俺のちんこがバーニングぅ! 織原ぁぁ……貴様ためらいなく塗りやがったなぁ……がはぁ」

「わたくしはハチに刺された患部にキンカンを……まさか男性のアレって目のように染みまして?」

「当たり前ですし、それキンカンじゃないですし、もうわざとかと」

「わたくし、知りませんでしたわ……両方とも」


 本気で驚いているオリミーは、なんというか処女確定です。

 男性のアレが刺激物に弱いことぐらい知っていそうなものですが、生理を知らない男子、朝勃ちを知らない女子、異性の性知識に乏しい学生なんぞ、教室を見渡すだけで具体例が多々あるわけで。

 たとえば、男性同士が正常位で行為に及ぶのは体の構造上非現実的であるにも関わらず「後背位は動物の交尾みたい→ ビジュアル的に美しくない = 正常位で合体♂させたい」という腐女子の需要を満たすべく、BL作品において「やおい穴」というファンタジーな器官が等価交換の原則ガン無視で広く人体錬成されているのは有名ですが、ネット上のBL小説で

「○○は初めて男同士の性行為に及ぶ△△のイチモツを口に含み、表面を覆う皮を破いた」

 なる描写が登場した時は、思わず首を傾げました。


 ――皮を破く?

 ――なんのこっちゃ?


 と思ったのですが、どうやらその作者さんは知識として「男性のアレは皮に覆われている」ことまでは知っていたのですが、その剥いたり剥かれたり手術でちょん切られたりする皮を、一種の「男性版 処女膜」と勘違いしたらしくて……初体験で男性器の皮を破くという奇妙な描写が登場したそうです。


 話がずれましたが、おちんちんに除光液キンカソを二度塗りされたゆとり先輩は、


「俺のちんこが、レヴァーティーン!」


 下半身全裸でブリッジをしながら、悲鳴をあげています。


「レヴァーティン! レヴァー・ティンティン!」

「なんと悲痛な……わたくし、ゆとりさんのアレに酷いことをしてしまいましたわ……」

「ティンティン、レヴァティン! ガギギッ……おっ織原よ……こ、この責任は取って貰うぞぉ……」

「わたくしに償えることなら、なんでもお引き受けしますわっ!」

「俺のちんこを……吐息でフゥーフゥー冷まし」

「無理ですの」

「そこをどうにか……」

「いや、無理に決まってますの。ゆとりさんのアレに吐息を吹きかけるなど……うぅぅ、かしこまりましたわ。そんな小動物みたいに潤んだ瞳で、わたくしを見ないでくださる……やりますわ。吐息でふぅーふぅーぐらい……未来を担う天才退魔師の織原エミリーにお任せですのっ」

「もっと口を近づけろ……そっそうだ……小学生マウスで、小学生ブレスを、俺のハバネロちんこに、ふぅーふぅーと……うっ、織原の鼻息が先端に」

「しくしく……わたくし、もうお嫁に行けませんの……始めま」


   ガチャ。


「ささ、さっきは助けてくれて―――オリミーさん。サイテーですっ」


  キィィィ――――┐

          └――──バタンっ


「お待ちなさいっ!? 沢木さん、これはただの医療行為でして……ッ!?」

「どっどうぞ続けて下さい……わっわたし何も見てませんから……家に帰って「喪女だけど○ックスしてるのを見た」というスレを建てなきゃいけないんで……ぶつぶつ」

「だから違いますのォォォォ! これはペラペラ、ペラペラ、ペーラペラ」

「サワキーは勘違いしているのです。ゆとり先輩のアレは、ペラペラ、ペーラペラ」

「なっ、なるほどです。ふっ普通じゃないですけど、ゆっゆとり先輩ならありえます」

「ふぅー。なんとか誤解が解けましたわ」

「クソスレを建てられなくて良かったのです。こうなったのも全てゆとり先輩が悪いのです。死ねっ」

「でっでも、ゆとり先輩は、わたしをハチから守ってくれた……そうだっ! わたしのカバンに」

「ひぎゅ……さっ沢木よ、貴様は何をしようと……よせ、やめろぉ……」

「わたしよく虫に刺されるんで、本物のキンカンを持ち歩いてたんですよっ!」

「だっ駄目だ! ただでさえ敏感になってるのに、そんなモノを塗ったら……うぉぉぉぉぉぉ! CooL! CooL! CooL! CoooooooL! 染みるゥゥゥ! 冷えるぅぅぅ! すぅーすぅーする! 俺のちんこがメントールっ!」

「きゃぁぁ!? ゆっゆとり先輩が……い、いきなり下半身全裸でブレイクダンスを……」

「サワキーにお伺いするのです。サワキーは男性のアレが刺激物に弱いということをご存知でしょうか?」

「えっ? 男の人のアレって、染みるんですか?」

「当たり前なのです」

「わたくしの仲間がいましたわ……」

「衝撃の事実……わたし、またひとつ大人になっちゃいました」

「俺のちんこが超速バーストリンカー! そっそこの女どもォォォォ! 和やかに会話してないでヒリヒリおちんぽの責任をとれっ!」

「はっはい! わたしのカバンに……ありました! わたし巨乳だから肩が凝るんで――って、なんで殴るんですか、オリミーさん!」

「死ねばいいですわっ! 胸が重くて肩が凝る女は巨乳に喰われて死ぬべきですのっ!」

「ムカッ! まあスルー推奨ですよ、貧乳ぷげら嫉妬乙www っというわけで、炎症を抑える筋肉痛の薬を持ってるんですよ。これをゆとり先輩のアレに塗り塗り……って、ゆとり先輩が、かっ下半身全裸で開脚前転をっ!?」

「ぴぎィィィィ! ぼくのおちんちん燃えちゃうノォォ!」

「サワキーのバカですっ! 筋肉痛の薬を塗ったりしたら……染みるんですね。筋肉痛の薬って」

「わたくしまた賢くなりましたわ……役に立つかは不明ですが」

「わ、わたしも知りませんでした……筋肉痛の薬って、アレに塗ると染みるんですね」

「てめぇら和むんじゃねぇェェ! 洗い落としてぇぇぇぇぇ! 俺のちんこがラピュタの雷に灼かれてるのぉぉぉぉぉ! そっそうだ! 口に含んで舐めとってくれ! 俺のアレを舌でペロペロして、刺激物を……っ!」


「――は?」

「――冗談はよして下さる?」

「――きっ気持ち悪いです……」


「すまん調子にのった……だが、もうヤバイんだ……ほんと、どうにかしてくれ」



    -Now Loading- 10分後。



「はへらっへぇ……ぽんぽるぴんぴるぅ……おっぺけぇぺぇ……」


「南無なのです。ついに言葉さえも忘れましたか」

「ゆとりさん、白目を剥いて口から泡を吹いてましてよ?」

「だっ大丈夫ですか? ゆっゆとり先輩の顔、左半分だけがピクピク痙攣してますよ……」


 あたし達は、床に転がる物体を見下ろします。

 足元には、洗剤のボトル、デッキブラシ、歯磨き粉、ホルマリン溶液、様々なものと、口から泡を吹いて、白目でヘラヘラと虚ろな笑いを浮かべる、廃人モードなゆとり先輩が転がっていました。


 ……

 …………どうしてこうなった?

 ……


 あたしは呟くように言うのです。


「ゆとり先輩のアレ、なんか真っ赤を通り越して紫色になって来ましたね……」

「ゆとりさんのアレに洗剤をつけて、デッキブラシでこすったのは失敗でしたわ」

「もっモドキんさんが悪いんですよぉ。モドキんさんが冷蔵庫にホルマリン溶液を保存してたりするからぁ……」

「洗剤とホルマリンって混ざると化学反応を起こして凄いことになるんですね……ゆとり先輩、大丈夫ですか? というか、まだ言葉が通じますか?」

「あらっへ、ほんぴゃくわぁー」

「ダメみたいなのです。オリミー、モドキんさんに連絡を」

「かしこまりましたわ」

「とっ、トドメをさしてあげたほうが……ほら、生きたまま……その、モドキんさんに加工されて、苦しむよりか……」


 あたし達が「ゆとり部の始末屋」に連絡を取ろうとしていると。

 部室のドアが――ガチャ、

 と、開いて。


「――――説明してもらえるかしら?」


 あわてず、騒がず、落ち着いて。

 非現実な現実を受け入れて、非現実な現実を知ろうとする。

 そんな選択を眉一つ動かさずに実行に移せるのが、クールでビューティーなカスミン先輩の凄いところだと思います。

 普通ならドア閉めてますよね……

 床に転がってアヘ顔を浮かべる下半身全裸の変態を女の子3人で囲みながら「トドメをさして」「生きたまま渡すほうが」「どうせ死ぬんですし」と、物騒な相談をしている光景を見たら。


 あたしたちは、カスミン先輩に事件のあらましを説明するのです。


「あたしは見たのですっ! ゆとり先輩が快感を得ようと……(アイコンタクトで打ち合わせ通りと伝える)」

「そっ、そうですのっ! ゆとりさんはご自身でアレに刺激物を……(アイコンタクトで打ち合わせ通りですわっと伝える)」

「わっわたし達が来た時には、ゆゆっゆとり先輩は塗り終えたあとで……(アイコンタクトで、わっ分かりました!)」


「――ウソ。あなた達が悪ノリしたのね」


「ギクッ!?」

「バレてらっしゃる!?」

「ごっごめごめ……んなさっ!?」

 カスミン先輩は、あたしたちを静かに見つめて。

「ゆとり君が原因でしょうけど、あまりイジメないようにね。あと――」

「はらっぺ……」


 ゆとり先輩が、既に会話不能なのを見抜いたのか。

 カスミン先輩は、ゆとり先輩のドス黒い紫色のアレをジロジロと覗きこんで。

 表情ひとつ変えず、いつもの無表情フェイスで言いました。


「救急車を呼びましょう」


 あたし達が先延ばしにしていた決断でした。


     ピーポー、ピーポー


「どうして、こうなるまで放っておいたっ!」

 紫色に変色したアレを見た、救急隊員さんの第一声でした。

 重症と判断されたゆとり先輩は、ストレッチャーに乗せられて。


 ――ドナドナ~♪

 ――運ばれていきます~♪

 ――下半身丸出しのまま~♪

 ――どっかの病院に~♪

 ――看護婦さんの笑いものになる為に~♪

 ――哀れなのです。


 マゾヒストな一時の快感を得るべく自らの股間をハチに刺させただけでは飽きたらず除光液を始めとした刺激物を性器に塗りたくり痛みと快感が臨界点を迎えて意識を失い救急車を呼ばれたレジェンド級の変態さんが(※個人情報保護のため一部にフィクションを織り交ぜております)


 余談ですが。

 幸いにも、ゆとり先輩は、その日のうちに退院できたそうです。


 診断書にどんな病名が書かれたのか非常に気になりますが、無事で残念なのです。


 めでたし、めでたし……ちっ。

 死ねば良かったのに。

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