<遅刻理由6> おぱんつ偽装主義


 そんなこんなで。

 あたしはカバンを持って、そろそろ学校へ出発なのです。

 お姉ちゃん、朝から頑張りすぎなのです。


「では、学校に行ってくるのです。お昼ごはんは冷蔵庫にグラタンがあるので、火の元だけは注意して欲しいのです」

「んじゃーね」


 手をプラプラさせて、トボトボ自室に歩いていく由衣。

 このニート、たぶん二度寝するつもりです。

 フルスロットルで追撃して、背後からぶん殴ってやりたいのです。

 でも、着替えと歯磨きをさせただけでも、成果としましょう。

 あたしは色々と妥協して、出発前の脳内忘れ物チェックをします。


 ――教科書、ノート、ふで箱、携帯。

 ――リップにナプキン、財布に定期。


「さて、パンツ偽装してまた寝よう……」

「ちょっと待った」


 パンツ偽装って、ちょっと待つのです。

 不穏な言葉をキャッチして、由衣の袖をガシっと掴みます。


「――パンツ偽装とは?」

「匂いや汚れがなかったから、あのパンツ売れそうにないし……だから偽装する」

「やっぱり売るのですね……由衣の中古パンツ」

「うん、予約済みだし」

「由衣がどんな商売システムを築いてるのか気になりますが、今は偽装ってどうやるのかが一番気になるのです……」

「キッチン来て。実演と説明する……あぁめんどくさい、けどプロだから」

「パンツ売りのプロは、やめて欲しいのです……」


 由衣はキッチンに行くと、まな板の上にパンツを広げます。

 例の5日は連続で履いてるはずなのに、

 なぜか汚れゼロ、

 なぜか匂いゼロ、

 女の子でも汚れゼロの、

 謎すぎるパンツを、

 びろーんと、まな板の上に

 ――て、

 コイツ、食べ物を扱う場所になんてものを……ッ!

 まぁ、由衣の脱ぎたてパンツは、生魚より綺麗っぽいんですけど。

 由衣が言います。


「ここで、一工夫するんだぁ」

「なんです、それは?」

「生臭い魚醤、あとはレモン汁と粉チーズ」

「それでパンツを偽装すると?」

「うん。股間部分を引き伸ばして履き古したリアリティーを出す……うむぅ」


 由衣が細い腕に力を込めて、パンツのお股を引き伸ばします。


「ふぅ。疲れた」

「確かにそれっぽくなりましたね……」

「次は股間あたりに、水で薄めた生臭い魚醤、レモン汁、粉チーズを混ぜたものを塗る……ペタペタ……完成した」

「なんというか、ダメ人間の作る、ダメ人間のための、ダメな商品ですよね……匂いはファンタジーですけど、見た目だけならリアルっぽくなりました」

「リアルをありのままに送り届けるのもいいけど、やっぱりこういう商品はお客に夢を見せてあげないと。微妙な汚れと、それっぽい匂いが、顧客満足度を高める創意工夫なんだぁ。こういう気配りが、落札価格の高騰につながるんだね」

「あたしは、由衣のパンツ偽装にかける情熱を、別のことに傾けて欲しいのです……」


 今日は、由衣の意外な一面を発見しました。

 何かを頑張る由衣を、何かに熱意を傾ける由衣を。

 ダメ人間の見せた、かすかな努力の痕跡を。


 ちなみに、まだ家を出る前でして……

 投稿時間は一日の始まりだというに、なんかすごく疲れました……


「……はぁー」


 由衣の偽装パンツを嗅ぎながら。

 あたしは、今日で何度目かも分からないため息。

 くんくん、

 最初の2秒はリアルな匂いがします。

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