<遅刻理由5> 苦い汗の染みこんだ甘くないハイチュウ


「ほら、歯磨きするのです」

「うぅぅ、めんどぃ……」


 どうにか全裸にひん剥いた由衣ですが、何日もオフロに入ってないのに体はまったく汚れてないし、匂いもゼロなミステリー。

 由衣もボソッと「これじゃあパンツ売れない……」「十日は必要かも?」と、パンツの匂いをクンクンしながら呟いてましたし、なんかもうコレでいいやって気分です。

 あたしも、色々ダメっぽいのです。


「歯磨きしないと虫歯になって、歯医者さんに通うはめになりますよ?」

「……それはまずい」

「ですよね。だから面倒でも、歯磨きはちゃんとするのです」

「仕方ない……うぅぅ、めんどいよぉー」


 そう言いつつも、妹はブラシに歯磨き粉を……奇跡。

 なんと、由依に自分から歯磨きをさせることに成功しました。


「勝ちました……」


 あたしが、小さな感動に打ち震えていると、


「ぶりゅびゅばぁぁぁぁ……べげっへほ! べげっほ!」


 由衣が、口から白くてベトベトした液体を吐きます。


「なんちゅー声をだして……あっ。歯磨き粉と洗顔ソープを間違えてますね」

「べげほっ、げべっ……不覚ぅ」

「いつも歯磨きしないから、歯磨き粉と洗顔ソープを間違えるのです」


 お説教しながら、あたしは考えてしまいます。

 洗顔ソープと歯磨き粉は、パッケージの見た目がそっくりです。

 形はまったく同じで、触った感じも同じですし、由衣に限らずボケーとしていたら間違えるのも無理ないと思います……けど、ンなことはどうでもいいのです。

 お口をゆすいでピクピク悶絶する由衣に、あたしは問いかけます。


「どんな味でした? 洗顔ソープって甘いのですか? それとも辛めですか? それ美顔アロエソープですよね? アロエの味がするのですか?」

「いや、アロエ味って知らない……あと、少しは体の心配もして欲しいかも?」

「あっ、忘れてました。それで洗顔ソープの味は?」

「……苦い汗の染みこんだ甘くないハイチュウみたいな感じ」


 そっ……想像がつきません。


「そんな味で合ってるハズ……とにかく異次元の味だった」


 異次元の味――どんな味なのでしょう?

 気になる。気になる。すごーく気になる。


「あたしも舐めてみます……ヲオッ!? 苦い汗の染み込んだ甘くないハイチュウっ!?」


 ある日、ある時、由衣と一緒に。

 姉妹で仲良く、洗顔ソープの味比べが流行りましたとさ。

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