第05話 放課後#ヴァイス○シュバルツ●


 えー、締め切りってウザいです。


 いやぁ、しょっぱなから愚痴で申し訳ありません。

 愚痴っといてこう言うのもどうかと思うのですが、締め切りは大事です。


 突然ですが、あたしの趣味は執筆です。

 男同士がチョメチョメしちゃう、耽美なWEB小説を書いています。

 そんな腐った乙女のあたしは、ネット上で小説の連載をしているわけです。

 すると、どうしても執筆途中にダラけるわけで……

 はい、ネット小説家の習性になりますね。

 ダラけて筆が止まるとおしまいで、テストやゲームややらで、連載再開は先延ばしに先延ばしを繰り返して……

 アマチュア小説家なら、だれでも経験ありますよね?


 ですが。

 そんな先延ばしを防ぐ、魔法の呪文があるのを御存知でしょうか?


 それは――毎日更新を心がけます。


 この呪文を、読者の目が届く場所で唱えるだけです。

 それだけで、一定のペースで作品を投稿する義務が発生するのです。


 別名:追い詰められたとも言いますけど……いわゆる『禁呪』の一種ですね。

 これを詠唱したネット作家は、プライベートを追い込み、リアル生活を犠牲にして、家族とリビングのパソコンを奪い合い、日々のノルマを達成すべく、明日の更新の執筆に挑むのですが、毎日更新は過酷です。

 連載当初は書きためたストックがあるので、こんなの余裕だスタコラサッサイお茶の子さいさいソーセージというわけで、一卵性双生児のBLって凄く萌えると思ってウィキペディアで双子の項目を調べていたら2時間経過していたことがある腐女子な春日ミクは、書き溜めを投稿する前の修正作業に時間を取られ、続きの執筆は捗らず、やがてストックを使い果たし、その日の更新分をその日になんとか完成させる自転車操業のアスリート、明日を捨てた腐女子ジャック・ハンアーッ!な状態に陥りまして。


 放課後にカタカタ、と。

 キーボードを叩いて、BL小説を執筆するわけなのです。

 なぜか、ゆとり部のパソコンで。

 はい、なんとなくはかどりそうな気がして、自習室なノリで執筆しているのです。

 ゆえに、あたしは部室にいますが誰とも喋りませんし、誰の声も聞きません。

 そうです、ひとり孤独に執筆を――


「オ、オリミーさん、酷いですよっ! わ、わたしが冷蔵庫に入れておいた『ジャンボ焼きプリン』を食べるなんてっ!」

「あら、これは正当な報復でしてよ? わたくしが買っておいた『大人のババロア』を無断で食べたのは、沢木さんが先でなくて?」


 ……自習室の代わりに、部室を選んだのは失敗な気がします。

 けど、あたしは負けません。

 欲しがりません勝つまでは、気にしませんよ書くまでは。

 周りがどんなにうるさくても、周りがどんなに面白そうな会話をしていても。

 あたしは集中力を保って、腐った自作の執筆を続けます。

 ビバ、精神主義。

 この世の物質に限りはあれど、人の精神力は広大無限なのです。

 ところで話は変わりますが、とある商業BL作品で尿道に挿入した極細チューブで擬似精液を補充することによって無限の射精が可能なキャラクターがいたのですが、果たして男性のお体の構造は尿道から擬似精液を補充できるように作られているのでしょうか? 仮にできるとしても補充場所は膀胱だと思いますし、膀胱に溜めた精液を放出したら射精ではなく放尿――といった感じで、出口不明な思考のラビリンスに迷い込んでしまい、結果として休日を丸ごと無駄にしたことがあります。

 現在も回答募集中なので、どなたか経験者がいましたら回答をお願いします。


 そんなわけで、途中から脱線しましたが。

 あたしは、部室で孤独にカタカタ執筆を続けます。

 なぜか? それは作品の続きを待つ読者がいるから――と、カッコつけますけど、ぶっちゃけ自己満なのです。

 素人の創作活動は義務でやると続かないんで、やっぱ楽しくやってなきゃですよ。

 カタカタ、

 アキラの乳首責め描写は、甘美な喘ぎ声をマシマシで……


(カチャカチャカチャ……ッターン!)


 あたしは、無言でパソコンと向き合います。

 部室では、サワキーとオリミーがフレンドリーな口論を続けていました。


サワキ

「フンです。オリミーさんは子供だから大人の食べ物に手を出したらダメなんですよ。小学生モドキのくせに『大人のババロア』なんてナマイキなんですよ。ガキのくせに(哈哈哈ww)、ちっちゃいくせに(藁藁藁)、身長も(うはw)、胸も(バロスwww)、心まで小さいくせに(ぷっくくww)」


オリミ

「グヌヌ……他人を誹謗中傷するのに身体特徴を活用するとは……そんな陰湿で根暗な性格だから、沢木さんはリアルで友達一人もできなくてネット依存症になりましてよっ!」


サワキ

「( ゚o゚)ハッ!? わっわたしはネット依存症じゃありません! 一日中ネットに接続してますけど、ブログの更新は一日八回ぐらいですし、ツイッターも毎日180回ぐらいしかツイートしてませんし、ニコ動のお気に入り動画数も千本をようやく超えたばかりで、携帯をどこに置いたか忘れた時に「携帯 置いた場所」とググりますけど……」


オリミ

「沢木さん。そろそろ自覚したほうがよくてよ?」


サワキ

「そっそんな……わたし、ネット依存症だったなんて……」


オリミ

「今ならまだ戻れますわ。沢木さんの住む世界は、電脳世界ではなく現実世界でしてよ」


サワキ

「うぅぅ、ネットは1日19時間までにしますって、オリミーさん! 話をすり替えないで、わたしが買ったジャンボ焼きプリン返してくださいよ!」


オリミ

「バレましたかっ!? ですが、おっほっほっほっ~! 沢木さんに喰われた大人のババロアのカタキは取りましたわっ! なかなかのお味でしてよ!」


サワキ

「楽しみにしてたのに酷いです! もう許せません! かくなる上は勝負です!」


オリミ

「わたくしに勝負を挑むとは愚かなりけり。猪突猛進の英雄気取りもアッパレですわ。よろしくて。ならば全力、ならば本気、ならば最大の敬意を持って打倒します。この場にて、沢木さんと白黒付けてさしあげましょう!」


サワキ

「ええ、白黒つけましょう!」


 オリミ「オセロにてっ!」

 サワキ「オセロにてっ!」


サワキ

「先攻は、黒のわたしですっ!」


オリミ

「根暗な沢木さんにはドロドロとした黒色シュバルツがお似合いですわ。わたくしのようにエレガントな令嬢には、穢れなき白色ヴァイスが相応しいですの」


サワキ

「ぷぷぷっwww オリミーさんは下着の色も白ですモンね(笑)」


オリミ

「仕方ないありませんのよ! わたくしのサイズに合う下着は……白ばかりで」


サワキ

「えー、どうしたんですかーwww オリミーさんにお似合いの下着は何色ですか(ぷっクスクス)、どーせ小学生用で(うぇへへw)、色気ゼロで(ぷぷくーww)、包帯みたいな色をした(ぶぇひへへぇw)、オリミーさんが黒い下着を付けたらブルマと間違われますよね(うひひぃww)」


オリミ

「にゃらぁぁースッ! かかってきなさい! 盤面を真っ白にして根暗な沢木さんをブチ殺して差し上げますわっ!」


サワキ

「上等ですっ! 盤面を真っ黒にして、オリミーさんの顔を真っ青にしてあげますよ! 先攻のわたしから――えい」


オリミ

「むむっ、なら――パチッ」


サワキ

「じゃあココで――とりゃッ」


オリミ

「ふむ、でしたら――パチッ」


サワキ

「ぎくっ!? そこに置かれると……ここに――とぉ」


オリミ

「フフッ、わたくしはココですわ――パチッ」


サワキ

「ニヤッ。掛かりましたね」


オリミ

「その不敵な笑みは……まさか、罠オセロっ!?」


サワキ

「トラップオセロ・オープン! 五芒星の呪法! トラップオセロの効果で相手は1ターン行動が取れない! もう一度わたしのターン!」


オリミ

「リバース発動の罠オセロとはっ!? わたくしとしたことが迂闊でしたわっ!?」


サワキ

「トラップオセロの効果で、オリミーさんは1ターン動けませんっ!」


オリミ

「くっ……」


サワキ

「ゆえに、わたしのターンはまだ終わりませんっ! 続いてマジックオセロを使用しますっ! マジックオセロ・魔導王のサジタリウス! 任意の場所にオセロを4個設置します! わたしがオセロを置くのは、盤面の四隅ですっ!」


オリミ

「なんてえげつない戦法ですの……マジックオセロの効果で自軍のオセロを四隅に置くとは……さすが沢木さん、戦い方が鬼畜外道ですわっ!」


サワキ

「勝てばいいんですよぉ~、勝てばぁぁぁ(暗黒笑)。ターンエンドです。もう勝負は決まったようなものですが、ぷひひwww オリミーさんの番ですよーw」


オリミ

「誰が負けですの?」


サワキ

「勿論オリミーさんです。四隅を制するものオセロを制する。この格言を忘れましたか?」


オリミ

「ならばその格言――オセロのごとく覆してみせますの! マジックオセロ・マサキを使用! マジックオセロの能力で、わたくしは1ターンで二個のオセロを置きますわっ!」


サワキ

「無駄ですよ。四隅に置かれたオセロは、何人にも不可侵な――ブフっ!? 四隅に置いたオセロが……絶対無敵の聖域に陣取った、わたしのシュバルツ達が……ひっくり返されたっ!?」


オリミ

「四隅の無敵神話、敗れたりですわ!」


サワキ

「オリミーさんはどんな方法で……ハッ!? これはオセロじゃないっ!? これは囲碁ぉ!? 碁石が置かれてますっ!?」


オリミ

「おっほっほっほ~!! オセロの固定概念に囚われた、沢木さんの油断が招いた失態ですわっ! ここは日本、日本は囲碁の盛んな国、そんな日本でオセロをすれば碁石が紛れ込むのも当然っ! 囲碁のルールでは四隅のオセロもリバースできますの!」


サワキ

「な、なら、わたしも本気を出しますっ! 次に使うのは――飛車ですっ!」


オリミ

「飛車っっ!? それは駄目ですのっ! 将棋の駒をオセロに実戦投入するのは、二○一二年にメルボルンで締結された、修正ロンドン条約で禁じられたっ!?」


サワキ

「もはや手段は選べませんっ! 飛車の攻撃で直線上に存在する全てのオセロを破壊、奪われた四隅の一角を奪還――ウソっ!? オリミーさん、それは地雷っ!? マインスイーパーの地雷じゃないですか! なんで地雷がオセロにまぎれて……あぁぁっ!? 地雷に巻き込まれて、わたしの飛車が消滅っ!?」


オリミ

「鬼畜外道には非道外法を用いる――それが退魔師の教えですの。マインスイーパーの投入により、オセロの盤面六十四マスに六個の地雷が埋設されましたわ」


サワキ

「なんて酷いことを……でも、わたしは負けませんっ! オリミーさんに負けるぐらいなら、これを使います! 究極奥義――筆ペン」


オリミ

「物理染色攻撃っ!? 反則ですわっ!? 筆ペンでオセロの色を塗り替えるなんて……グヌヌ、させませんっ! 沢木さんが究極の奥義ならば、こちらは至高の奥義で返すまでっ! 全てを白に染めよ――修正液っ!」


サワキ

「この悪魔さんめぇぇっ! 卑怯ですよ、オリミーさん! 修正液でオセロを手塗りするなんて……しかも、あ"あ"あ"ぁぁぁっっ!? 重要ポイントばかり重点的に塗り塗りして……もう怒りましたよっ! 今度はわたしの番ですっ!」


あたし

「ねぇ、あたしにも見せて欲しいのです」


 なにこのオセロ面白そう。

 自作のBL小説の執筆は一時中断……イエス、好奇心に負けました。

 だけど、息抜きも大事だと思うのです。

 何気ない日常から、新しいアイデアが生まれたりもするんで。

 小説の執筆には……でも締め切り……


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