第04話 BBB ~ぶらぶら・ブラジャー・ブラウジング~
「湯取卓が、春日ミクに説明してやろう。俺はデパートの女児用下着売り場を凝視している。初めてブラを買いに来た女子小学生の表情をウォッチングすべく参上したのだ。ブラジャーという大人の女性の象徴を買いに来た女子小学生の、淡い恥じらいとほのかな期待に満ちた表情を、徐々に大人の女性へと変わっていく自分の体に対する興味で色めく表情を、女子小学生の美しき一瞬の表情を見たくてな。つまり学術的な興味であって、決してやましい目的で来たわけでなく」
「ゆとり先輩。素直にストレートにバカ正直にコメントすると、気持ち悪いのです」
いまは放課後、駅前デパートの下着売り場にいます。
あたしは学校帰りの買い物中、たまたまデパートに来ていたのですが。
そこで、挙動不審なゆとり先輩を見つけまして――
犯罪の匂いを察知したのです。
ゆとり先輩は物陰から半身を乗り出して、
周囲をキョロキョロ、吐息をハァハァ。
これはよからぬことを企んでるなと声をかけたら、やっぱり変質者でした。
あたしは、ゆとり先輩に告げるのです。
「警備さん、呼びますね」
「まあ落ち着け。まずは俺の話を聞いてくれ」
「お話は伺いします。だから触れないで欲しいのです。あたしの腕を掴まないで下さい。汚れますから。
「春日よ、暇なら、俺と一緒に女子小学生を観察しよう」
「そんな堂々と犯罪のお誘いを受けたのは初めてです。あまりにナチュラルだったので、少しだけお誘いに乗りそうになりました。0.8ピコグラムぐらいですけど。ほんと死ねばいいのに……さて、警備さんはドコに?」
「春日も女子小学生が好きだろ? かわいいだろ? やっぱり見たいだろ?」
「あたしに同意を求めないで下さい。必死なのがキモいのです。あと同じ場所で同じ酸素を吸うのもやめて下さい。つまり呼吸を止めろ、ようするに死ねってことです。あと自分がロリコンで変態で異常者なのを公言するのは構いませんけど、ただの子供好きまで仲間に引き込むのはやめて下さい。ゆとり先輩みたいな子供を性的対象として観察する変質者がいるせいで、世間の子供好きさんが肩身の狭い思いをしてるんですよ? 分かりましたか? 反省しましたか? 謝罪の方法は分かりますよね? つまり死ねってことです。今すぐマッハで迅速アップテンポ、他人の迷惑にならない自殺方法をググって、日付が変わる前に実行して下さい。地球のために」
「春日よ、アレを見ろ」
「あたしに何を見ろと? ゆとり先輩が視線で女性をレイプする所をですか? また脳内で罪もない女性の肖像権を侵害するんですか? 自分を女性に性転換させて妊娠するのを妄想しないで下さい。アブノーマルでトリッキーなシチュエーションで性的な興奮を得るのは不愉快なのです」
「俺は出産まで妄想するぞ。ひとまずアレを見ろ」
ゆとり先輩が「アレ」と指さす方を見ると。
「あっ☆ ゆとり君とミクちゃーん♪」
……
…………アレな人がいました。
……
「よぉ。モドキんも買い物か?」
「てへへー♪ ママに買い物を頼まれちゃってぇ~☆」
今日のモドキんさんは、ご機嫌モードでショッピング中だったようです。
るんるん笑顔でスキップ混じりに、えへへと笑顔でスマイルモード。
ちらっと、モドキんさんの腕にあるエコバックの中身を見てみます。
銘柄とか無視で片っ端から買い物カゴに詰め込んだと思われる、死体の匂いを消すのに便利そうな消臭剤と、死体を保管するのに欠かせない保冷剤が、たくさんいっぱい山盛りで……
「……モドキんさんにお伺いしたいのですが、一般家庭が五年で使いきれるかどうかという量の消臭剤と保冷剤を、いったい何に使うのでしょうか? あれ? ゆとり先輩、どこ行くのですか?」
「えへへぇ~☆ ミクちゃん、なんでだと思う~♪」
「それは当然、死体を
「知 っ て る の ? 」
――ビタっと。
あたしの喉元に指を添えながら、モドキんさんが言いました。
普段のモドキんスマイルではなく、真顔で。
病んだヒロインを思わせるハイライトの消えた瞳が、とても怖いです。
モドキんさんの片手は、スカートの中身をいつでも取り出せるようスタンバイ。
ちなみにモドキんさんのスカートの中身ですが、綺麗なおみ足、ガーターベルトのホルスター、手術用のメス、怪しい液体入りの注射器、折り畳まれた十三式金属咀嚼鋏「アイゼン・ドラッヘ」ことチョキリン君で……
だれか助け……あたし、コロさreる……
モドキんさんは、瞳をカッと見開いた真顔で、あたしに言いました。
「 ミ ク ちゃ ん 、 私 の お ウ チ の こ と 知 っ て る の ?」
「な、なにも知らないのです……」
「 ほ ん と う に ? 」
「あ、あたしは、ほっ本当に何もしらしら……」
「 な ら ――えへっ☆ もうぉー♪ 私ってばぁ、ビックリしちゃったぁー☆」
「びびっびく、くりくりり……っ」
「じゃあ私は帰るねぇ~♪ おウチでママが待ってるからぁ~☆ ウフフっ、モドもどモドキんっ♪ モドキんキンっ☆」
ナゾの鼻歌を口ずさみながら。
モドキんさんは、どこか遠くへ行っちゃい……
あの人は、本当にリアルワールドの住民なのでしょうか?
軽くモドされそうになりましたけど、絶対ヤバいですよねっ!?
恐怖をやり過ごしたあたしは、どっかへ逃げたゆとり先輩を探します。
――キョロキョロ。
――発見。すぐ近くにいました。
というか、デンジャーでスカリーなあの人が消えたのを察知したのか、向こうからトコトコ近づいて来たのです。
「よう春日、まだ生きてるか?」
「ええ……選択肢を一つミスっていたら理不尽な死亡エンドでしたけど、なんとか切り抜けました……ゆとり先輩、あの人は」
「言うな」
「はいっ?」
「言いたいことは分かる。だが、この世には触れないほうが良いコトも、気づかなければ幸せなモノもあるのだ」
「……わかりました」
「よろしい。ならば一緒に女子小学生を観察しよう」
「さすがゆとり先輩なのです。ナチュラルな口調でクレイジーなお誘いをするのが上手ですね。ほんと死ねば良いのに……おや?」
「どうした?」
「喜んで欲しいのです。ゆとり先輩が求めたものが、あちらから女児用下着売り場に近づいてきたのです」
「ふむふむ、どれどれ、なるほど。確かに間違ってないな」
あたしが指さして、ゆとり先輩が失望した視線の先には。
小学生用のブラ売り場でキョロキョロ品定めする、小さな女の子がいました。
背丈は小学4年生ぐらいで、見慣れたフリル付きの改造制服を着ています。
ゴスロリな日傘を持ち歩いて、日本人離れした銀髪碧眼を持つ。
「オリミーですね」
「織原だな」
あたしとゆとり先輩は、顔を見合わせて同じ事を考えます。
――あのチビ、
――小学生用の下着を自分用に買うつもりだ、
と。
「良かったですね。あれが小学生用の下着を恥じらいながら選ぶ女の子ですよ」
「冗談はよせ。俺が求めているのは、大人になる自分への淡い期待と羞恥が入り混じった女子小学生の表情だ。小学生用のブラを買わざるをえない自分への劣等感で赤面したロリの偽物で代用できるものじゃない」
「ゆとり先輩は本物ですね。サイコパスの数値は知りませんが、ロリーパスの数値はヤバそうです。精神鑑定を始めたら機械が白い煙を吹きあげて執行官のドミネーターがドカンと派手にぶっ壊れるぐらいの記録が出そうですというわけで、シビュラシステムさん、コイツです。あたし見たのです。そういえばゆとり先輩って、ロリが好きで巨乳が好きでコスプレも好きでオマケに……つまり女性なら何でもいいんでしょうけど、さすがにデブと熟女は頂けないって言ってましたよね。まさに欲望に忠実なのです。美味しいものなら何でもご馳走とは正直モノさんめ。ほんと死ねば……あっ、オリミーが気づきましたよ? まっかに赤面してますね。こっちに走って来ましたよ。日傘を振りかぶりました。ゆとり先輩に向けて――」
「チェストですわァァァッッ!」
――ヴンッッ!
全力疾走に腰のひねりを加えた、日傘の打ち払いは。
地味に運動神経が優秀な、ゆとり先輩にあっさり避けられて、
「ハァハァ……どうして避けますの?」
「日傘で脳天かち割るつもりで殴られたら、誰でも避けるだろ?」
「そうですか。ならば、グランド・フィナーレの閃撃にてお相手しますわ。弾種はHC-NP重化学焼夷弾頭、その綺麗なお顔をふっ飛ばして」
「火災報知機が作動するからやめておけ。警備も黙ってないぞ」
「お子様に申し上げるのです。店内での銃火器の使用はご遠慮なのです」
「お二人とも、さっきのわたくしを……その、見ましたか?」
「見たぞ」
「見たのです」
「ならば、お二人には死んでもらうしか……」
「落ち着いて欲しいのです。オリミーが小学生用の下着を愛用しているのはバレバレなのです。ゆえに今さらだと思うのです」
「お前は小学生ボディーを受け入れろ」
「ぐぬぬっ……反論できないのが、屈辱の極みですわっ」
端正なフェイスを耳たぶまで真っ赤に染めて恥じらうオリミーが、コブシをググっと握りながら言いました。はい、カワイイのです。
恥じらうオリミーのアタマをなでなでして、ぎゅっと抱きしめてあげたいのです。
遊園地のブッサイクなきぐるみ然り、ガールズショップのバカでかいぬぐるみ然り、女の子はキュートな物を見ると抱きしめたくなる本能を持っているのですが、男同士でボーイズなラブの関係になっている際は、YESウォッチング・NOタッチ、遠くから見守るに限ります。
なぜか? 男同士の美しき世界に、女は不要だからです。
何が起きてもノータッチ。
期待外れりゃ脳内妄想。設定次第で何でもオッケー。
二人は合体、キス♂してアーッ♂して。
ウホっ♂て、腐って、801なドリーム。
想像世界で虹色変化。
受けでも攻めでも変幻自在で、犯罪シチュでも実現可能。
強姦オッケー、妊娠はダメ。
だって、両方♂だもの。
無理すりゃ孕みもありだけど、それはいわゆるマイナージャンル。
小さなものから大きなものまで、何でも擬人化カップリングするBL世界でも、妊娠男子は需要がないのかレアな存在なのです。
男性の萌えジャンルで「孕ませ」とか「ポテ腹」に一定の需要があるのとは違い、リアルで妊娠したら望む望まないは別で、どえらい目に合うことを本能で知っている女性には、妊娠ジャンルは受け入れがたいトコがあると思うのですよ。
女性にとっての妊娠は、男性向け漫画における【金玉潰し】とよく似ています。
でも、男同士で子供ができる展開はありだと思います。
――妊娠はダメ!
――だけど子供は欲しい!
そういうわけで、オリミーはキュートなのです。
カワイイものから腐ったものまでぺろりと食べちゃう
「まぁまぁー、なのです。胸の大小など些細なことですよ。 ぷっ」
「最後の笑いで台無しですわっ! うぅぅ……成長不良な体が憎いですの……先日もランジェリーショップで試着したら、店にある一番小さなブラでもスカスカでして……もう、わたくしには小学生サイズしか残されてなくてよ……店員さんにもっと小さいサイズはないか問い合わせたら「これから大きくなりますよ」と優しく励まされて……逆に傷つきましたわ」
「それはお気の毒なのです。しかし子供用の下着といえど、最近はかわいいデザインも多いみたいですし。まあ小学生がアダルトな下着をつけても、大人の女性から見たら爆笑モノで……ぷっ」
「だからっ! 励ますフリして、わたくしのコンプレックスを笑わないで下さるっ!」
「乳首にバンドエイドでも貼っておけ」
「ブギャラァァァスっ! ゆとりさんの発言、わたくしへの宣戦布告と受け取りましたわ! すみやか迅速に冥府の果てまで送還して差し上げますのっ!」
オリミーが日傘を振り回す中、あたしは「他人のふりをしよう」と決意しました。
さて、トコトコ歩いて、この場を立ち去りましょう。
……おや?
「ひぃぃっ!? ごっごめんなさ……ぁっぁわわ……」
どもった悲鳴が聞こえてきました。
その悲鳴の主は、聞き取りづらいコミュ障な口調でしゃべり、反射神経で謝罪する脳髄まで染み込んだ自信のなさ、会話に詰まればオロオロして、そのうち泣き出して自分の世界にトリップする、ゆとり部を代表するぼっち、ゆとり部を代表する地味巨乳。
その名も、サワキー。
店員さんに話しかけられてパニクる、サワキーがいました。
「下着コーナーに来たのは、沢木だな」
「くっ……チョコマカと動きまわり――沢木さんが?」
「はい。あそこで悲鳴を上げてるのは、サワキーですね」
「店員に話しかけられてパニクってるのだろう。ブラを選んでる時に」
「沢木さんには、キツいでしょうね……」
「ネットにおけるサワキーは饒舌ですけど、リアルな世界のサワキーは他人との会話が過呼吸を起こすぐらい苦手なのです」
「うむ。二人とも、沢木を助けに行くぞ」
「仕方ありませんの。わたくしも同行よろしくてよ」
「行きましょう。自分の意志でゆとり先輩と行動を共にしていると思うと、衝動的に頸動脈を掻き切りたくなりますけど、サワキーを助けるためには我慢なのです。あーキモ」
「沢木のやつ、ヒいてる店員の前でツイッターに書き込み始めたぞ?」
「あら、ゆとりさんは御存知なくて? パニクった沢木さんはツイッターに書き込みすると精神が安定しましてよ」
あたし達は、いつもの会話をしながら。
おばちゃん店員にツイッターの説明をする、パニクるサワキーに駆け寄ります。
「あああのぉ……こここれはツイッターという……」
「リアル会話が苦手なのは分かりますが、店員さんとツイッター越しに会話しようと企むのは末期だと思うのです」
「はわゎ……はわ……」
「落ち着くのです。あたしなのです。過呼吸を落ち着かせるのです」
「うぅぅ……わっわたし、あっぁ新しい下着を買おうとしただけなのにぃ……」
「泣く必要はありませんわ。沢木さんは悪くなくてよ」
「沢木よ。泣きたいのなら俺の胸で泣いても構わん。おっぱいを押し付ける感じで」
「ゆとり先輩は黙るので――ええ、彼女はあたしの友人でして――いいえ、接客に問題はなくて、彼女はアレでして……はい、声掛け禁止でお願いします。サワキー、店員さんは向こうに行きましたよ」
「えっぐ、なのに……いいっいきなり声をかけてきて……」
「店員さんは、なにも悪くなくてよ」
「沢木が、ひとりでパニック障害を起こしただけだ」
「接客業って大変なのです」
「ひっぐ……ま、またブラがキツくなったがらぁ……だがら、あだらしいの……」
好き勝手なコメントを述べる、あたしたちの前で。
巨乳でぼっちなサワキーは、えんえんと泣きじゃくるのです。
あたしもゆとり先輩もメンドくなってきましたが、オリミーは違うようです。
小さな体をプルプルと震わせながら、
「バカみたいにデカい乳した沢木さんのブラがキツく……ピクピクッ……沢木さんにお伺いしますわっ! あなたのブラのカップは今現在なんですの!」
「こ、これまでIカップでしたから……た、たぶんJカップにサイズアップ――って、痛いですっ!? なんで殴るんですかぁっ!?」
「不愉快ですわっ! このデカ乳オバケの奇形女は不愉快ですの! Jカップですの! 本当にJカップですの! Jカップとなれば、えー、びー、しー、でぃー、いー、えふ、じー、エイチ、アイ…………な、なんという遥か高み……すべて数えるのに指が十本も必要……オマケにまだ成長してる……むっ無限増殖でもしてまして……こっ殺してよくて……むっ無限増殖を止めるべく、このイヤラシイ根暗淫売をっ!」
「落ち着け織原。嫉妬と憎しみに身を委ねるな」
「ぷぷぷ……ぷっ」
「ゆとりさんは洗脳されておりましてよっ! 沢木さんはデカい乳に悪魔を取り憑かせて栄養補給で育成してやがるサタニストですのっ!」
「織原よ、おまえが驚くのも分かる。俺も驚いた。たぶん春日も驚いている。Jカップはそれだけの破壊力がある。ぶっちゃけ俺は興奮している。すぐにでもむしゃぶりつきたい。体操服でなわとびしてほしい。擬音は「バイーン、バイーン」だ。話を戻すが、沢木の胸に嫉妬するのはよせ。いくら嫉妬してもおまえは変わらず、薄っぺらい胸の奥にあるハートが傷つくだけだぞ」
「ゆとり先輩、変態的な妄想を吐きつつもラストだけはカッコよく決める、変化球のセリフがキモいです」
「そ、そんな滅茶苦茶なことを言われて……あれぇー? も・し・か・し・て、わたしの胸に嫉妬してるんですかぁ~(ニヤニヤ)、ですよねー(嘲笑)、貧乳ですもんね(ぷっw)、洗濯板ですもんね(ぷっくくww)、オリミーさんの胸って(ギヒヒwww)、ほんと羨ましいですよ(ワロスwww)、揺れても痛くなさそうで(蔑み)、下乳が蒸れなさそうで(ゲス笑)、肩こりもなさそうで(うぷぷっwww)、ブラ紐で痛い目に会わなそうで(ドュフwww)、ほんと機能的でいいですよね(ゲヘヘw)、うはww貧乳ぺたんこギガバロスw(プギャーwww)」
「グギギ……なんてド失礼な爆乳ですのって、ゆとりさん。ちょっとお待ちなさい」
「どうした、織原よ?」
「ゆとりさんは、なぜ女性用のブラを持って、試着室に入ろうとしてますの?」
「決まっている。ブラの試着だ」
「へっ……変態ですわっ!」
「いっ今さらですよ、ゆゆっゆとり先輩が、男なのにブラジャーを愛用してるのは」
「はい。ゆとり先輩がブラジャーをつけて快感を覚える変態童貞なのは――あっ、言わなくていいのです。キモい演説は不要なのです。だから、どうぞ試着室にお入り下さい。どうぞ、どうぞ…………入りましたね? では、警備さんを呼びましょう」
「はっはい!」
「お決まりですわ。試着室に商品のブラジャーを持った、変態男が入ったと」
「――みんな、何を騒いでるの?」
背後からの声に振り返ると、清楚で可憐な大和撫子が佇んでいました。
常に変わらぬ無表情フェイスを浮かべた、ゆとり部を代表するスレンダー美少女。
雅な容姿は華族や皇族のお嬢様で思い浮かぶイメージそのままで、細身で小柄なスタイルは完璧の誉れがふさわしく、完成し尽くされた穢れなき風貌からは、匂い立つ高貴なオーラが放たれています。
「沢木さんのツイッター。不穏だったから」
口数少ないカスミン先輩は、後輩のピンチを察して助けに来てくれたみたいです。
あたしは、カスミン先輩に言いました。
「あたしが説明するのです。デパートに来たら、ブラジャーを買いに来た女子小学生を観察中のゆとり先輩と出会って、モドキんさんが……いや、これはやめておきましょう。その後オリミーが小学生用のブラを買いに来たのでからかっていたら、ブラを買いに来たサワキーが店員さんに話しかけられパニックに陥っていたので助けて、サワキーの爆乳に嫉妬したオリミーが暴れて……あっ、ゆとり先輩ですけど、いま試着室でブラの試着をしてるのです」
「わかったわ」
「あっ明らかに、かっ春日さんの説明で分かるはずないと……」
「さすが笠井さんですの……」
「春日さんの説明で十分。ゆとり君は放置で、みんなの用事を済ませましょう」
カスミン先輩が、テキパキと場を仕切ります。
あたしを含めた部員は、それを拒否する理由などないわけで。
「あたしの買い物は終わっているのです」
「なら、春日さんは店員さんを呼び止めてブラジャーの相談に付き添ってあげて。沢木さんはサイズが特殊だから、専門家のアドバイスが大事だと思うの」
「了解なのです。では、サワキー行きますよ」
「はっはい! かっ春日さんもカスミン先輩も、あっありがとうございますっ!」
「礼には及ばないわ。そして織原さんは、私とパッド入りのブラを探しましょう」
「パッド入り!? イヤですの! 偽装なんてッ!」
「偽装じゃなくてバストの形を整えたり下着をズレにくくするため。それにブラは購入時からパッドが入ってるものでしょ?」
「ぐぬぬっ。しかしそれは形を整えるためのパッドで……大きさを求めてパッドを入れるのは、わたくしのプライドが」
「サイズにこだわりのない私もつけ心地の関係でパッド入りの下着を使ってるし、胸がない人はパッドで胸を作ったほうが見た目も装着感もよくなるものよ」
「うむ、笠井の考えに賛同してやろう。ブラジャーは見た目と機能性を両立して初めて完成する。俺も織原のブラジャー選びに参加しよう。もちろんサイズも測定するし、外観のチェックも必要で、場合によってはブラの装着や脱がすのを手伝うこともあるだろう。だが、それは決してエロ目的ではなく、ブラを愛する男子の親切心であって……べぃりゃいにょおぉぉぉぉぉ!」
「なっなんか、試着室の外から、すすっすごい悲鳴が聞こえ……」
「ったく。またあのド変態はセクシャルハラスメントなことをしたのです」
カーテンを閉めきった、試着室の中で。
サワキーをメジャーで測定するあたしは、ため息混じりに呟いてしまうのです。
――ふむふむ、
――――ほぉほぉ、
――――――なんとぉ!?
サワキーのウエストは57cmで、気になるバストは……
ウ ソ な の で す っ!
まっまさか……
でも、このサイズはいくらなんでも。
動悸と冷や汗を抑えながら、結局3回ぐらい測りなおしましたけど。
お店にサイズがなかったので、下着メーカーに特注することになりました。
サワキーのおっぱい、持ち上げたらクソ重かったのです。
余談ですが、カスミン先輩の説得で胸パッドを解禁したオリミー。
あのロリは、翌日学校に極厚パッドを7枚重ねという偽乳のギネス記録にでもチャレンジしてんのかというパッドましましボリューム厚めラーメン二郎もビックリなメガ盛りバストで登校して、クラスメイトから失笑を買いまくって登校拒否になりかけたそうです。
さらにどうでもいいし、誰も興味が無いだろうし、ぶっちゃけ話す価値すらないゴミクズの末路こと、ブラの試着を終えたゆとり先輩ですが、店員さんの通報で駆けつけた警備さんに両脇をがっちりガードされながらブラジャーを購入しました。
「明らかな不審者でも、犯罪ではないので……」
と、言いづらそうに語ったのは、女性下着の販売を続けて二十年の女性店員さん。
まったく、ゆとり先輩は生きてるだけで迷惑なのです。
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