第1幕「未知なる世界」
[1]赤漆の髪色をした少女
『ったく、いつまで寝てんだよ。
『████!! █████████████!!!』
うまく聞き取れなかったが、続けざまに妹が騒ぐ声も聞こえた気がした。
――また
「――ッ!!?!?」
直後、至誠は驚きのあまり思わず目を見開く。
同時に心臓が
鼻先に見知らぬ少女の顔があり、至誠を見下ろしていたからだ。
少女は
顔立ちは
少女の年頃は10代前半、それも小学校の高学年程度の幼さだ。
至誠の視点では、少女の顔が逆さまに映っている。
すなわち
「██████████████████」
少女が口を開く。
しかし日本語ではない。高校で習った英語とも違う。そのため至誠には何を言っているのか皆目分からなかった。
少女は至誠の鼻先から顔を離し、口を閉じる。
返事を期待した
「████████████████」
相変わらず至誠には彼女が何を言っているか分からない。
いや、ここがどこで、なぜ自分が居るのか、その全てが不明だ。
――まずは返事をしないと……。
改めてそう思い、至誠は口を開こうとする。
だが口から言葉が
言葉だけではない。まるで金縛りにかかっているかのように、首から下が動かない。指先すら
思い返すと、目覚めて少女の顔が視界に飛び込んできた際、驚きのあまり飛び上がるほどだったが、体はピクリとも反応してはいなかった。呼吸と、まばたき、眼球運動による視線移動はできる。あとはかすかに口と眉が動かせる程度だ。
ゾワリとした
「████████████████」
再び少女が口を開いた。しかし視線はすでに至誠から外れ、どこか別の場所へと向けられている。
「██████」
少女は至誠以外の誰かに何かを問いかけ、返事が返ってくる。
「█████████████、███████████」
さらに別人と
『██████████』
続けて聞こえてきたのは若い女性の声だ。しかし眼の前の少女ほど若くはなく、20代前後といった印象だ。
それらの声に共通していることは、何を言っているのか全く分からないことと、声の主に心当たりがないことだ。
と同時に、心がざわざわと波立つのを自覚した。至誠はとっさに「落ち着け」と内心で自分に言い聞かせ、深呼吸を
――落ち着け……落ち着け……。落ち着いて、状況の確認と、今できることがないか考えよう。
至誠は
だが
ふと、少女が移動し視界から外れる。
かと思えばすぐに戻ってきた。
少女の腕には本が抱かれている。それも日本では見られないような古く
ただでさえ大きな本が、少女の体格と
しかし少女はその重量感をまったくものともしていないようで、そのまま
直後、周囲になぞの光が現れ
だが至誠が見たのはここまでで、それ以上はたえず増加する
……。
まぶしすぎて、まぶたを開けない。
1分か、2分か。
いや、もっと経過していたかもしれない。
…………。
……。
………………。
しばらくして、ようやくまぶしさが減ってきた。
と同時に、再び少女の言葉が聞こえてきた。
「どうだ? これで言葉は通じているはずだが」
――えっ?
不意に聞こえてきた少女の流暢な日本語に、至誠は思わず目を丸くする。いや、それ以外のリアクションが取れなかったと言った方が正確だろう。
「通じたようで何よりだ」
至誠の表情の動きで
「今は無理に動かない方がいい。現在、君の肉体は
――治療? 事故にあった? それとも何かしらの事件に巻き込まれた?
再びぞわりとした感情が至誠の
しかし立て続けに話を続ける少女のおかげで、至誠の脳裏が恐怖とネガティブで満たされるよりも早く事態が進行する。
「まずは意識レベルを確認しておきたい。この指先を追うことはできるか?」
少女は至誠の目の前で指を立てると、位置を左右へスライドさせる。
至誠は様々な感情を押しとどめ、今は
「眼球運動は自発的にできているな」
しばらく応じていると、少女は
続けて両手の人差し指を立てつつ、少女は一方的に話を進める。
「次にいくつか簡単な質問をする。
「よろしい。では、今の日付は分かるか?」
今度は視線を左へ向け否定の視線を向けると、少女は少しだけはにかんだ。日付
「今いる場所が分かるか?」
何が何やら分からない――そう思い至誠は否定を示す。
「今ここで目を覚ましたことに心当たりは?」
立て続けに否定を示す。
「では記憶はどうだ? 思い出せるか?」
そう問われ思い返そうと試みると、記憶が
一方で、古い記憶にはそのような感覚はない。
至誠は九州で生まれ育った。
父は寡黙な漁師で
そのため少女の問いに肯定と否定どちらで返すか悩んでいると、少女は察し、新たな選択肢を
「記憶が部分的に
その問いにすぐに肯定を返すと、彼女は満足そうにはにかんだ。
「では最後の質問だ。自分の名前は思い出せるか?」
言葉が出ないので名乗ることはできないが、しっかりと覚えている。
少女は一呼吸置き「意識レベルや
「次の確認だ。今から足先に触れる。触られたと感じたタイミングで目を閉じてくれ」
少女は至誠から視線を外し、別の誰かに対して頷く。
直後、誰かに左足に触れられている感覚があったので、目を閉じた。
「どちらの足に触れられているか分かるか? 触れられている側の目だけを閉じてみてくれ」
言われた通り右目を開く。
すると触れられている足が右に変わったので、すぐに閉じる目も入れ替える。
それを何度か繰り返し、同じように腕も触れられたが、問題なく答えられた。
「
と少女は満足したように確認を終える。
――今、手足の触覚が分かるってことは、頸髄損傷ではないっぽい……?
と、素人考えではあるものの、至誠はわずかに安堵できた。
その間に症状は「よし――」と話を進める。
「今確認すべきは以上だ。君について聞きたいことは山ほどあるが、それは口がきけるようになってからにしよう。今は治療が最優先だからな」
少女はさらに至誠へと近づき、前髪を優しくかき分けながら言葉を続ける。
「先にこちらの
――えっ……。
「君は『
――な、なぜ? いったい何が?
そんな疑問は言葉にならず、ただ瞳孔にのみ反映される。
「心当たりがないようだが、それはこちらも同じだ。
それほど
「肉体の
少女はその小さな手を至誠の
と、少女は「あぁそうだ――」とつぶやき、思い出したように名乗る。
「まだ名乗っていなかったな。私はリネーシャだ。リネーシャ・シベリシス。この名前に心当たりは?」
すでに
すると少女――リネーシャは「そうか」と相づちを打ち、長く
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