第1幕「未知なる世界」
[1]加々良至誠の目覚め[A]
彼、
――あれ? ここは……どこだっけ?
まどろんだ脳が生み出すふんわりとした感覚はまるで無重力空間にいるかのような心地よさを覚え、至誠の
『――ったく、いつまで寝てんだよ』
『ちょっと――この
続いて妹の声も耳に届く。
『████!? ████████████!』
『███? ████████』
『███████████! ████████!』
姉と妹がなにやら言い争っているようだ。
――またか……。
至誠がゲンナリとそう感じる理由は、
――今回も
姉と妹の間を取りなすのは骨が折れる。しかしもっと恐ろしいのは母の雷が落ちた時だ。
――少しは仲裁する
などと思っていると、姉と妹の声はどちらも聞こえなくなっていた。
――あれ? もしかして、もう起きないとマズい時間?
とろめく意識の中で、高校生活が始まって以来まだ
なんとか
「█████、██████。██████████████」
「███」
「██」
複数人の声が聞こえてくるものの、いずれもよく聞き取れなかった。
「██████████████████」
再び声が
先ほどよりもはっきりと聞き取れる
しかし相変わらず言語として認識できない。
――日本語じゃ……ない?
そんな
それよりも今は高校に遅刻して
至誠はなんとか眠気に打ち勝ち、重たいまぶたを開ける。
「……。……?」
最初に飛び込んできたのは光だ。しかし自室の見慣れた照明器具ではない。
至誠は
だがそれは一瞬のことで、思考はすぐに現実へと引き戻される。
「――? ――?」
至誠の
その光景に、見覚えも心当たりもないからだ。
――と、ともかく、まずは起きよう。
状況がよく分からないが、きっとまだ寝ぼけているのだろう――と考え、体にむち打ち、上半身を起こそうと試みる。
「……?」
――あれ?
起きようとした。何度も起きようと試みるが、なぜか体が言うことを聞かない。まるで
寝ぼけた思考は
「████████████████」
と同時に、再び聞き取れない声がした。
その
「██████」
直後に聞こえてきたのは別の成人男性のような声だ。
「█████████████、███████████」
さらに別人と
その間にも体を起こそうと
――体は動かない……いや、まばたきはできる。
まるで金縛りのようだと感じつつも、至誠はいまできることを
――眼球は動く。けど首は動かない、か。
わずかな眼球運動のみで見える範囲を探ってみるが、
「……」
再び声を出そうと
しかし、こひゅーと息が
――せいぜい、呼吸の深さを変えるくらいか。
深呼吸ができることに気が付いた至誠は、自分を落ち着かせるために繰り返す。
「――ッ!?」
直後、至誠は驚き思わず息を飲んだ。視界内にいきなり知らない人物が入ってきたからだ。
その間にその人物は口を開く。
「█████████████、███████████████████」
その人物は、
だが相変わらず何を言っているのか理解できない。
日本語ではない。学校で習った英語とも違うようだ。その他の外国語は知らないため結局それが何語なのか
「███████、██、████████████████████」
少女は手を伸ばし至誠の
そして髪を優しくかき分けながら、再び理解できない言語を口にする。
「████████████████████、████、██████████████████████」
何を言っているのか分からない。
だが何か問いかけてきているような
その少女の顔立ちから受ける印象は、小学校の高学年くらいの
その
少女の
加えて彼女の
目を丸くする至誠とは
その表情は
そうこうしているうちに少女は至誠から視線を外し、別の誰かに声をかける。
「████████████。████████」
「███████████████████、████████████████████。███████████████████████」
「████████████」
――意味が、分からない。
それが至誠の
少女の口にする言葉だけではない。目が覚めると見知らぬ場所で、見覚えのない少女に聞いたことのない言葉で話しかけられる。そして、そこに
同時に心が
至誠は
――落ち着け。落ち着いて、今できることがないか、もう一度考えよう。
至誠は
「――っ!?」
その直後、視界の
本だ。それも表紙が古いアンティークな
その本の外観から、非常に重そうだ。少なくとも、欲ある辞書よりは重いはずだ。しかし少女は重量を全く感じさせず、まるで物理的な
そのまま
至誠は
そんな至誠を
いや飛び乗った。
横たわる至誠を
少女の身長は低かった。おそらく120から130㎝くらいで、まさに小学校の高学年くらいだ。
だが
だが最も気になるのは
「███████████」
そして
少女の手のひらとその周囲に図形のような光源が発生していた。謎の光は複雑な
至誠は
……。
まぶたを開くことができない。それほどの光量が続く。
一分か二分か。
いや、もっとだったかもしれない。
…………。
……。
………………。
しばらくして、ようやくまばゆさが
と同時に少女の言葉が聞こえてくる。
「どうだ? これで言葉は通じているはずだ」
――えっ?
思わず目を丸くする。その反応で言葉が伝わっていることを
「今は無理に動かない方がいい。現在、君の肉体は
――治療? 事故にあった? それとも何かしらの事件に巻き込まれた?
ぞわりとした感情が至誠の脳裏ににじみ出てくる。
少なくとも至誠には心当たりがない。思い出そうとするが記憶が
「まずは、意識レベルを確認しておきたい。この指先を追うことはできるか?」
少女は右手の指先を至誠の前に持ってくると、目の前で左右に位置をスライドさせる。至誠は
しばらく視線を動かすと、少女は「眼球運動は自発的にできているな」と
「次に、いくつか簡単な質問をする。君は視線を使って回答してくれ。
「よろしい。まず念のために確認するが、私の言葉は理解できているな?」
視線を右に向け肯定を示すと、少女の質問はさらに続く。
「今日の日付は分かるか?」
今度は視線を左へ向け否定の視線を向けると、少女は少しだけはにかんだ。日付が分からなかったことに対してではなく、おそらく「肯定」と「否定」を使い分けられている事実に対してのようだ。
「この場所で目を覚ましたことに心当たりはあるか?」
再び否定を示す。
「では記憶はどうだ? 思い出せるか?」
至誠は
父は漁師で
だが記憶は高校二年生の
至誠は視線で否定を示すと「それは記憶が全くないという
「一部の記憶が
肯定を返すと、彼女は満足そうにはにかんだ。
「では最後の質問だ。自分の名前は思い出せるか?」
言葉が出ないので名乗ることはできないが、しっかりと覚えているので右側の指を見つめ肯定を示す。
少女は一呼吸置き「なるほど――意思疎通できているな」と満足げに語り、言葉を続ける。
「次の確認だ。今から足先に触れる。触られたと感じたタイミングで目を閉じてくれ」
まだ残されている右の指先を見つめ肯定を返すと、少女は至誠から視線を外し、別の誰かに対して頷く。
直後、誰かに左足に触れられている感覚があったので、目を閉じた。
「どちらの足に触れられているか分かるか? 左右の内、触れられている方の目だけを閉じてみてくれ」
言われた通り右目を開く。
するとすぐに触れられている足が右に変わったので、すぐに閉じる目も入れ替える。
その後、何回か入れ替わったり両足に触れられたりしたが、問題なくまばたきで答えることができた。
「確認は以上だ。意識レベルに問題ないな。君について聞きたいことは山ほどあるが、それは口がきけるようになってからにしよう。今は治療が最優先だ」
少女はさらに至誠へと近づき、前髪と額に触れながら言葉を続ける。
「先に、こちらの知り得ている状況について軽く説明しておこう。――まず、我々としても君がどこの誰なのか分からない。君は『
――え? なぜ? いったい何が?
そんな疑問は言葉にならず、ただ
「心当たりがないようだな。だがそれはこちらも同じだ。
それほど
「だが肉体の損傷については安心していい。すでに山場は
彼女は優しく語り、その小さな手を至誠の
「あぁそうだ。まだ名乗っていなかったな。私はリネーシャだ。リネーシャ・シベリシス。この名前に心当たりは?」
すでに掲げられた指はなかったが視線で否定を示すと、少女――リネーシャは「そうか」と相づちを打ちながら、長く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます