好奇心は吸血鬼をも殺す
はちゃち
序幕「地上最強の吸血鬼」
[1]リネーシャ・シベリシスの追憶
空腹というわけではない。
しかし脳裏にこびりついた
「
返り討ちにされ山のように積み上げられた
「……つまらんな」
満たされないのは食欲ではない。
リネーシャは物心ついた頃から血で血を洗う
しかしどれほどの天才や
そうして地上最強の座を手にしたリネーシャが得たものは、
「
「――くッ、遅かったか……」
肩で息をしていた男はすぐに呼吸を整えると、面と向かい、帯刀している刀に手を添えながらリネーシャへ問いかける。
「念のため聞くが……
「お前だけだ」
男は周囲の亡骸に対し深く
「……それで? お前は、そろそろ私を
リネーシャが過去にその男を見逃してやったことは数え切れない。そして
「俺という
だがリネーシャにとっては
しかし彼の口調は最強の吸血鬼を前にしても
心が折れていない内はまだ強くなれそうだな――とリネーシャは感じるものの、今は期待外れだとばかりに告げる。
「ようやく
男は「だろうな」とため
「話は変わるが――リネーシャ、ちょっと
男が
故にリネーシャの心は
それは男も気がついているはずだ。だが男は構わず言葉を続けた。
「最近『
「
「けど
間髪入れず
「お前は知らんだろうが『
「この前見てきたよ。これまで『
世界の外側には『
そこにはリネーシャの求める闘争はなく、ひたすら害虫を
「だからと言って『他に何もないことの
「そんなことをして何になる」
「『何があるのか』『意味があるのか』は重要じゃない。その過程が楽しいんだ」
リネーシャは「興味ない」とあしらったつもりだったが、男は
「実際、苦労が実を結ぶことは少ない。でも、だからこそ、上手くいった時の達成感は
男が語る『仲間』とやらにリネーシャを引き込もうとしている意図は明快だ。世界最強の戦力を
「くだらん」
「そう、
リネーシャはそういう意味でくだらないと言ったわけではないが、実際のところリネーシャには男の
「……」
理解できない。理解はできないが、少しばかりの
闘争に身を
ならば男の
無論、その知的好奇心が下心のない純粋なものだったならば――だが。
「俺にとっては幸いと言うべきか――この世界は
男は間髪を入れず「それに――」と言葉を続ける。
「世界中の
リネーシャはため息を一つこぼす。
表情で
「……まぁいい。今はその
そして肩をすくめるとリネーシャは
――。
――――。
――――――。
時代は
人の
たかだか100年
あの男もそうだ。
だがすでに
「今からでも遅くはない。
男の
だが彼は、厳かな寝具に横たわりながら、
「いいんだ、リネーシャ。人として生まれたからには、これが
リネーシャが目を伏せると、男は息苦しさを押し殺し、優しく微笑みながら言葉を続ける。
「それに、今とても好奇心がうずいて仕方がないんだ。この世界には明らかに
「……」
「リネーシャ。お前は強い。……だが、
それが男と交わした
そして彼はわずか100
彼は
だが彼の知的好奇心に付き合っている間に罠だったことはなかった。
そして、共に歩んだこの数十年は、不思議と退屈とは感じなかった。
「……」
国を挙げて執り行われる勇者の国葬を遠巻きに見つめながら、リネーシャはがらんどうとなった彼の研究室で
「
気がつけば地上最強の吸血鬼は闘争に
代わりに未知なる
その後、リネーシャは男の研究機関を引き継ぐと知的好奇心の
そればかりか、より効率的に研究を進めるために皇帝の座を手に入れると、金、権力、人脈の全てを
それから……。
勇者が
時はラザネラ
「ねぇリネーシャ、デートしましょ! でぇ、えぇ、とっ!」
その日、リネーシャは新たな論文に目を通していると、勢いよく扉が開かれ、室内にそんな大声が響き渡る。
リネーシャが皇帝の椅子を手に入れた国、レスティア皇国。その第一皇女であるエルミリディナ・レスティアの奇行に、室内の者たちは一瞬驚き、そして「何だいつものことか――」と慣れた様子で平常運転に戻る。
だが当事者のリネーシャだけは、呆れたような表情を浮かべながらエルミリディナの要望を断る。
「この論文を読むことより
しかしデートを断られた程度でエルミリディナは諦めたりしない。
リネーシャに歩み寄ると、手にした紙の束をチラつかせながら勝ち誇った顔を浮かべ再度デートを要望する。
「あらあら、そんなこと言っていいのかしらぁ? 興味深い報告が上がってきてるわよ?」
エルミリディナは勝ち
その報告書には『ヴァルシウル王国の鉱山地帯、その地中深くにて特異性を有する
リネーシャは「氷層――
「人型の
「でしょぉ? あわよくば
そんな短いやり取りでリネーシャは
「
「もう手は打ってあるわぁ! 少数精鋭でいいわよね?」
その日、リネーシャは新たなる未知との
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