[2]ラザネラ教会2 騎士長の責務
「現代において魔女と言えば真っ先にマシリティ帝国、ひいてはマギ教が
その場で異論を
「それでは支部教会を預かる司祭として命じます。――
副団長のロロベニカと第3騎士の騎士長を務めるルグキスは「かしこまりました」と命令を受諾しつつ、ロロベニカはさらに言葉を続ける。
「第3騎士隊を重点配置すると言うことは、それだけ『
「状況証拠のみですが、
ミラティク司祭は、4人中3人の実力がそれほど高くなかった、あるいは動けなかった可能性を
「すなわち
怨人には攻撃対象に明確な優先順位がある。植物より虫を、虫より動物を、動物より人類を優先して襲う。そして魔法や鬼道の
すなわち『4人の襲来者』の中で『現在逃亡中の人物』が最も術式の出力が高く、
「さらにはベージェス、バラギア両名の
「しかし、もしそれだけの実力者であれば既にベギンハイトから出ているのではありませんか?」
ロロベニカの問いかけにミラティク司祭は「これは私の直感ですが――」と
「ベージェスが捕らえた獣人は最後まで
なるほど――とロロベニカは納得していたが、第3騎士長のルグキスは別の質問を投げかける。
「それほどの実力者が相手ならば団長が出た方が良いのでは?」
「ベージェスと第1騎士団は教会の守りを固めることを優先させざるを得ません。英傑級とまではいかないものの、獣人とて高い戦闘技能を有していました。彼が意識を取り戻した際に、押さえ込みつつ情報を聞き出せるほどの実力者が現場に必要です」
ルグキスは納得しつつ、さらに別の質問を問いかける。
「ではなぜブリニーゼ歓楽街周辺から捜索するんです? あそこは怨人の襲来地点とはだいぶ離れてますが」
「体力的な
「確かに……客が信徒かどうかなんて大衆向けの店ではいちいち確認しませんからね」
「加えて、逃亡した方向や怨人が襲来した地点からつかず離れず――それでいて混乱があまり伝わっていない立地となれば、ブリニーゼ歓楽街が最も有力です」
「戦力の分散をしないのは賛同します。ですが入れ違いに教会堂が襲われてはマズいのではないですか?」
「それもベージェスを教会にとどめておく理由のひとつですよ」
ルグキスの疑問に答えつつも、ミラティク司祭はロロベニカ副団長に視線を移す。
「
ルグキスの疑問が解消されたところで、ミラティク司祭は現在捕らえている2人の
「さて魔女の処遇について――どのような立場かまだ不明ではありますが――すでにオドの汚染が
担当する主任聖職者をそれぞれ指名し、続いて王国軍側で捕らえている1名について、シルグ司祭補佐へ向き直し告げる。
「シルグ、
シルグは頭が良くいつも
「それは、バラギア氏が捕らえている女性の件――で、お間違えないでしょうか」
「ええ。早急にこちらへ引き渡すように、と」
シルグ助祭の表情に
「彼はベギンハイト家当主の次男でありロゼス王国における三英傑の一人です。……今こじれると色々と
シルグはバラギアのことを生理的に受け付けないようだ。その気持ちはスティアにも分かる。あの
「すでにガルフには
ガルフ・ベギンハイトはバラギアの兄であり、ベギンハイト家の次期当主と目されている長男だ。
「女性を
シルグは納得した様子で「かしこまりました」と答えると、ミラティク司祭は話をいったん区切り全員の顔を見渡す。
「さて、以上が司祭としての方針ですが、他に質問や意見がある者はいますか?」
スティアは会議の行方を見守っていた。自分には発言すべきことが特に思いつかなかったからだ。
ミラティク司祭が会議の出席者を見渡す。そのわずかな時間の中でベージェス団長の視線がスティアの方へ向いているのが分かった。
何かを訴えるような視線に感じたが、その意図が分からないでいると、ミラティク司祭の視線もスティアへ向けられる。
「スティア」
「はっ、はい!」
司祭の口調は少しばかり残念そうな空気を
「スティアからは何かありますか?」
「わ、私ですか……えー、いえ。その」
歯切れが悪いスティアに全員の視線が向いている。スティアはさらに
注目される視線に耐えられなくて口にした返事だったが、ミラティク司祭は少しガッカリしたような表情を浮かべている。
「『第4騎士隊は現在動かせる状況にある』と、判断して問題ありませんか?」
具体的にそう問われ、ハッと気が付く。
「あっ……。……いえ……申し訳ございません。現在の
スティアは胃がキリキリと痛むのを自覚する。
一介の騎士であれば良かった。たとえ
だが騎士長という立場になると部下をしっかりと管理しなくてはならなくなる。
スティアのさらに上司が、こちらの都合など考えず無理難題を押しつけてくるだけならまだやりやすかっただろう。だが――
騎士長という騎士をまとめる立場になった以上は、その地位に
第4騎士団の騎士長を
「それでは第4の中で見習いを卒業した新人は一時的に
スティアの歯切れの悪い説明を受けて、ベージェス団長が代わりに提案する。
第1騎士隊の指揮下に入ると言うことは、実質的に教会で待機するに等しい。
ミラティク司祭が
「捜索班について、第2騎士団から2名ずつ当てることは可能か?」
「可能です。しかし、
「問題ない。では第4騎士隊の見習い達については解散させ、十分な休息を取らせよう」
スティアの失態を、ベージェス団長がすぐに穴埋めをする。第4騎士隊の動ける騎士は第1騎士隊が預かり、残りは解散。それはつまり、一時的とはいえスティアは隊長として指揮するべき部下が一人もいなくなったことを意味する。
「スティア、お前も今日はしっかりと休んでおけ」
加えてベージェス団長はさらに
「っ……。いえ、せめて捜索班に同行します。同行させて下さい」
騎士長としては未熟もいいところだ。だが騎士としても動けないようでは、それこそスティアの騎士としての自信や自負が完全に崩れてしまいそうな恐怖を感じ、何とか同行を願い出る。
「……では、ロロベニカの指揮下に入れ」
ベージェス団長はそう承諾してくれるが、ロロベニカ副団長の顔色がわずかに曇ったのに気がついた。
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