第3幕「不浄之地」
[1]怨人
近くに誰かがいると
がさごそと服のすれる音、立ち上がる際に地面を踏みしめるわずかな音だけが、至誠の耳についた。
至誠には何がどうなったのか分からなかった。目を覚ますと見知らぬ世界にいて、命の危険にさらされたかと思えば、また知らない場所に立っていている。
あまりにも立て続けに状況が
「こ……ここは? いったい何が……?」
そんなリッチェの声が聞こえてくる。
至誠が振り返ると、充満する
至誠もゆっくりと立ち上がると、リッチェが至誠の存在に気が付いたらしく駆け寄ってくる。
途中、杖先が光を放つようになった。まるで杖からランタンを掲げたような魔法を使い、周囲を照らす。
表情が見て取れるほど近づいてくると、その表情は
すぐ近くで金属の
振り返るとヴァルルーツの
『まずい。これは……』
ミグの
「なんという……なんということを――なんという失態を――」
『テサロ! 落ち着いて!』
「
その様子を見たリッチェがすぐにテサロの
『リッチェは至誠の近くから離れないで! ――テサロ、
ミグが声を荒らげると、テサロは足元に落ちていた
「いったい、何が起こったのでしょうか……?」
ヴァルルーツも困惑した声を上げつつ、周囲に目を向けながら至誠の近くに寄ってくるが、テサロの発動する魔法の気配に視線を奪われる。
「すごい……これほど高度な術式を並列で
誰に対してでもなく小声で
『王子、これでウチの声が聞こえる?』
ミグは何かしたようで、至誠の
「っ!? は、はい。確かに聞こえております」
ミグの声が全員に届くようにしたと教えてくれるが、どのような手段を使ったのかについては説明する時間がないようだ。
『時間がないから最低限の説明をするよ。ウチらは現在、
「なっ!?」
「……えっ」
ヴァルルーツとリッチェから
「な、なぜ世界の外側に我々が――」
理解できない。誰でもいいから説明してくれ――と言いたげな雰囲気がヴァルルーツの言葉には含まれていた。
至誠は改めて周囲を見渡す。
視界はせいぜい数メートルだ。
足下には
しかしそれもこの周囲だけで、数歩も歩けば
視界が悪いが、少なくとも見える範囲に人工物はおろか植物も見当たらない。
今なお、
『こうなった原因は、おそらく
ミグの説明の途中でテサロが「術式の展開を開始します」と報告を挟む。
と同時に、至誠のからだがふんわりと地面を離れる。
『まずはとにかくここから離れ――』
ミグの言葉の途中で、ズン! と地響きにも似た音が耳に届く。
静寂の中に響き渡った音の方に、至誠とリッチェ、ヴァルルーツの3人は視線を向ける。
だがミグとテサロは音源の発生原因が分かっている様子で、ミグは声を荒らげる。
『上から来るよ!!』
ミグの言葉も相まって3人の視線が
暗闇が増した理由は簡単だ。上空にまたたく月光が何かに隠れたためだ。
月が雲に隠れたのかもしれない――などと思う余裕もなく、全員の身体は
入れ替わるように、元いた場所に何かが降ってくる。
それは一瞬のことだったが、リッチェの
――巨大な眼球がある。
だが眼球はソレの一部分でしかなかった。
ズズズ……と身体を地面にこすりつけながら向き直したその肉塊の正面には、巨大な口が1つ。一回り小さな口が2つ付いていた。
直径が50メートルはありそうな肉塊は、身体を伸縮させると、再びこちらに向かって飛び上がってくる。
リッチェの
「バカな……」
ヴァルルーツは
そこの王子である以上、そのヴァルルーツはその化け物どものことは知っていた。
だがこれまで見たことのある個体はせいぜい10メートルの個体が最大で、これほど巨大な個体は見たことがない。
――これが……
至誠は
これがもし、ゲームに出てくる厳ついドラゴンのようなモンスターであれば、ただただ恐ろしい存在だと思えただろう。身の安全さえ
しかし
こちらに飛びかかってきた怨人が至誠たちめがけて再び
だがテサロの飛翔速度には追いつかず、すぐに重力に捕まり
怨人が追いつけないことを理解できたようで、リッチェの悲鳴が止まっていた。だがリッチェの表情は
ヴァルルーツは
テサロは全員の飛行を
と同時、地上の
イカの足のような
だがよくよく見ると細かく
その触手が地上から十本以上出現し、明らかに一行を
しかしテサロは器用に触手の
触手の範囲外へ抜ける際、至誠とヴァルルーツは怨人の
巨大な人の生首が地面から生えているように見えるが、目や口は本来の位置にない。巨大な口が頭頂部にあり、その周囲から触手のような腕が生え、さらに巨大な眼球が冠のように周囲を囲んでいる。
しかし既にこの怨人の手の届かない範囲まで移動している。
だが
テサロの飛行高度はおよそ地上100メートルほどだ。
その一行よりもさらに高く起き上がった化け物は、まるでムカデのような
その全てに老若男女の違いがあり、低くかすれたうなり声や、甲高く耳に付く叫び声をそれぞれの頭部が発し始める。
全ての
テサロがその個体を避けるように
「な、何なんだこいつらは!!! こんな規格外の個体なんて聞いたことがない!!!」
ヴァルルーツの悲鳴に、ミグが苦言をこぼす。
『あの
ミグは
『いったいどの
その声は、考えを整理しつつ自分を落ち着かせるために発せられているようだ。
「くそッ――ッ!」
ヴァルルーツがたまらず
リッチェは恐怖からもう声すら上げることができない様子で、手にした
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