第七話

「いくつかシセイのいた世界の状態について聞きたいが、先に我々の世界について説明しよう」



 至誠が肯定すると、だれも反対を述べるものは現れず、リネーシャがそのまま続けた。



「この世界の大部分は『不浄の地』で覆われている」


「不浄の地、というのは?」


「簡単に言えば、並の生物が生息できない土地のことだ」


「砂漠のような場所……ですか?」


「大気は高濃度のオドが充満し、土地はオドに汚染され枯れ果てている。一見その様は砂漠と似ている。だが不浄の地には怨人えんじん跋扈ばっこしている。そこが最大の相違点だ」


「えんじん……?」


「怨人とは、怨嗟えんさを持つ人あらざる化け物の名称だ。ニホンや、シセイのいた世界には居なかっただろうか?」


「はい、聞いた事がないです」



 人非ざる化け物なのに、『怨』なのかと気になりはしたが、話の腰を折ってしまいそうなので今は置いておく。



「怨人は全ての生物に対し敵対的だ。植物すら根絶させ、一切の意思疎通ができない存在だ。そして私が生まれた三千年前にはすでに存在し、最古の記録では八千年前のものも遺されている。だが解明が進まない謎多き生物だ。いや、生物なのかも不明ではあるがね」



 その話が何に繋がるのか理解できないでいると、リネーシャの話は、先ほどの神話に再び触れる。



「先の神話に登場した『神を殺したとされる敵対者』が持ち込んだ災いだとする伝承もある」



 なるほど――至誠はその言葉で、彼女が何を言わんとしているか察した。



「もし僕がその『暗黒時代人』だった場合、神話の前だから、怨人が居なかった事になる――って事ですか?」


「そうだ。怨人および不浄の地が存在しなかったかを聞きたい」



 聞いた事がない。そう言ってしまえばいいのだが、その化け物がどんな特徴を持っているのか聞いておきたかった。



「その『怨人』ってのは、いったいどんな化け物なんですか?」


「一言で言ってしまえば、人の部位の集合体だ」


「人の、部位?」


「目や鼻、口や耳――四肢や臓器の集合体。だがその不定の形状は、人はおろか動物としての体裁ていさいを保っていない。言うなれば、人を分割して無作為にげつけたような形容だ」



 そう言われても、いまいちピンとこなかった。


 今は形容しがたい化け物であると頭の片隅に記憶し、リネーシャの知りたかったことを答える。



「そのような化け物の話は聞いたことがないです。それから、不浄の地というのも聞いた事ないです。僕のいた世界では地上はほとんど開拓されていて、未開の地となると……深海と宇宙でしょうか」



 その答えは、リネーシャの提唱する説を後押しするものだ。

 しかし、もし異世界説だとしても、至誠の言葉に矛盾は生じない。


 その可能性を改めて噛みしめ、かつ嬉々とした表情をリネーシャは浮かべる。




「地図を」


 リネーシャは視線をテサロへ向け、指示を出す。



 只今ただいま――と承諾すると、テサロは素手を胸元の高さまで掲げた。


 右手の人差し指を向けた先には、至誠が少し前に見ていた額縁があった。

 その事を視界に収め理解するのと同時に、テサロの指先が青白く光がこぼれる。


 直後、ガタガタと額縁が揺れたかと思うと、留め金が外れ宙に浮かぶ。

 そのまま柔らかに加速してこちらに向かってきたかと思うと、円卓を迂回してリネーシャの背後から顔を出す。



 リネーシャがそれを手にすると、乱雑に額縁を外す。


 地図らしきものが描かれた用紙を抜き取ると、机の上に置き至誠の方へ滑らせる。



「これが今の我々の生存可能な領域だ。この地を『神託の地』と呼んでおり、神が死に際に残した最期の聖域――と。神話では言われている」



 正方形の地図の外周にデフォルメされた雲が書かれているのは、その先が不浄の地だと意味があるのだと理解できた。



「この地理について何か思うことは?」



 至誠はその意図をくみ取る。



 すなわちこの世界が「未来の地球」あるいは「パラレルワールド」だった場合、至誠の知る世界地図と符合する地形があるかも知れない。


 すなわち、現状を知る為の大きな手がかりとなり得るわけだ。




 至誠は早く返事することよりも、少しでも情報を集めるべく、地図をのぞき込んだ。




 中央には小島が点在する大きな池、あるいは内海がある。


 そこを基準に四方へ川が幾重にも走っている。


 その池ないし内海の水は、南南西の方角へ抜けている様子だ。


 だがその川は明らかに細い。

 琵琶湖のような印象すら受ける。


 東にも池ないし内海がある。

 しかしこちらは比較的小規模のようだ。


 西端には海らしき描写が入っている。

 それは南西の方へ広がっており、南西端との陸地を分断している。

 西端の陸地から西南端まで陸上のみで行く場合、地図の真南まで迂回する必要があるだろう。


 北や南東には切り立った山々がそびえている。

 強調されて描写されており、標高が高いことがうかがえた。


 北はさらに白く色づけられており、これが氷雪地帯だと考えられた。



 とりあえず北半球である事は間違いないだろうか――と考えたが、そもそも地図の上方向を北に据える地図かが不明だと気付く。



 至誠は自身の知る世界地図を、記憶の奥から引っ張り出す。

 記憶にある地理と、目の前の地図に符合点がないかを探すためだ。


 しばらく地図とにらめっこしてみるが、確信めいた符合点はなかった。



「すみません。僕の知っている世界地図の記憶と比べてみたんですけど、気になるような箇所はなさそうです。もともと細かい地理は詳しくなくて――大まかな全体像なら少しは分かるんですが」



 そうか――と、リネーシャの表情にはわずかに残念だと浮かんでいた。



 至誠の通っていた高校では地学に力を入れていなかった。

 個人的には非常に興味があった為に独学で勉強はしていたが、受験対策ではなかったために興味の強かった宇宙分野に関してのみだ。

 世界各国の形状よりも、星座についての方が答えられるだろう。



 学生時代の記憶が脳裏を過ぎっている間に、リネーシャは再びテサロに声をかける。



「何か書く物を」


「そうでございますね――」



 テサロが周囲へ目配りを始めた直後、リッチェが口を開く。



「筆記具なら、今ちょうど手元に」



 少しばかりおどおどとした素振りで、リッチェが駆け寄ってきて筆記具を差し出す。

 リネーシャはそれを受け取らず、代わりに目の前に広げていた世界地図を裏返す。そこは無地の紙が広がっていた。



「シセイ、覚えている範囲で構わない。地図を描いてみてもらえるだろうか」



 至誠は何も有力な情報をもたらせなかったが、世界地図を彼女らが見たら違うかもしれない。


 その為に今この場で描いて欲しいと、リネーシャは申し出ている。

 その考えに至誠も賛成だ。


 ただ一つ問題がある。


 至誠は絵心がないことを自覚していた。



「……絵心には自信はないですが、やってみます」



 小さい頃からペン習字を習っていた事もあり、文字ならば自信を持って書ける。


 しかし字が上手いからといって絵が上手いとはいかない。

 友人に文字は超絶下手だが、絵が異様に上手い奴がいたことも鑑みると、全く別の能力だと考えられる。



 だが贅沢は言っていられない。



 腹をくくり、リッチェの両手で差し出されていた筆記具を手に取った。


 それは黒く長い物体で、まるで芯のみで構成された鉛筆のようだ。

 事実、太さは鉛筆とそれほど変わらない。

 しかし直接触れてみても、手が黒く染まることはない。

 その重量感は、鉛筆よりは製図などに使われているイメージのある重めのシャーペンだ。少しばかりずっしりと感じる。


 紙の端に試し書きをしてみると、その感触は2B鉛筆よりも軟らかい。10B鉛筆を借りた事があったが、その時の感覚が最も近いだろう。



 至誠はその筆記具を握る。



 親指と人差し指、中指で持つ所作は、まさに日本における一般的なペンの持ち方だ。

 そんな細かい一挙手一投足にすら、彼女らは注目した視線を向けてくる。その事が妙にむず痒い。



 そんな状況で、まずは日本列島を描く。

 地元の九州から描き始め、本州、四国、北海道と筆を進めていく。


 世界地図を描くことを考慮し小さめに日本列島を描き終えると、大きさを確かめるようにユーラシア大陸のアタリを引き、覚えている範囲で描写していく。


 アフリカ大陸からアメリカ大陸、そしてオーストラリア大陸と描き、細々とした島々を加筆していく。



「んー、……正確性には問題ありますが……」



 締めの言葉と共に、絵心の見られない歪な世界地図が完成する。

 開口一番にそう予防線を張ったのは、単純に目を覆いたくなるほどの歪な出来栄えだったからだ。


 だが周囲は至誠の描いた見窄らしい地図を食い入るように見ていた。







「これ、どこかで見たことあるわね……」



 長い沈黙を破ったのはエルミリディナだった。



「ああ」



 リネーシャがそれに同調する。


 それは至誠の関心を強く引くには十分だった。

 ――もしかしたら、ここがどこだか分かるかも知れない。


 期待を抱きながら静観していると、一呼吸入れてテサロも同調する。



「確かに、私も見覚えがあるような気がします。しかし何だったでしょうか」



 ミグも頷き眉間に皺を寄せている。


 唯一リッチェだけが首を傾げ、心当たりがないと示していた。



 しばらく考え込むように静寂が覆う。





 ふと、リネーシャの脳裏に一つのアーティファクトが過ぎる。




「三九八番――」



 直後に反応したのはエルミリディナで、ミグとテサロがハッとした表情に塗り変わる。


「人喰い壁画」



 完全に思い出した――と言わんばかりに、エルミリディナは言葉を続けながらリネーシャへ振り向く。



「あの壁画の模様と同じじゃないかしら!?」


「確かに似ているな」



 と、声量を落としながら答えるリネーシャは、何かに気付いたように声を上げる。


「あれは喰うのではなく転移させているんだったな」


「ええ。接触発動型のアーティファクトよ」


「もしあの模様が世界の全容を描いた地図ならば、対象が触れた地図の地点へ転移させる現象を発生させるということか?」



 議論に熱気を帯び始めるリネーシャとエルミリディナを横目に、話について行けていないリッチェが小声でテサロに問いかけていた。



「三九八番とはどのような代物ですか?」



 テサロは少し懸念を抱いたような表情を浮かべるが、口を開くよりも早くエルミリディナが声を上げる。



「いいわ! シセイにも聞いて貰いたいし、私が説明するわぁ」



 嬉々として語ろうとするエルミリディナだったが、テサロが水を差すように口を挟む。



「よろしいのですか?」


「ええ」



 テサロは何か懸念を感じている様子だが、それ以上口を挟むことはなかった。



「アーティファクト三九八番、通称『人喰い壁画』。ギジュガルム王国の山奥にある廃城で発見されたアーティファクトね。古城のほとんどが崩落しているのだけれど、ある一画の壁だけが風化の途中で時が止まった様に残っているわ。そこには謎の壁画が描かれていて、これに触れた生物が消失するアーティファクトよぉ」



「大型の転移系のアーティファクト、ということですか?」



 リッチェの疑問に、「中型かしらね」と答えつつ、リネーシャが補足を入れる。



「現在では『触れた者を転移させる』現象だと判明しているが、その壁画の模様が何を意味するかは解明されていなかった。アーティファクトを構成する術式紋様だとするのが最有力の仮説だったが、もしも世界の全貌を写した絵画だとするならば、話が変わってくるだろう」



 リッチェは理解できた素振りを見せるが、至誠には何の話かまるで分からなかった。



「えっと、アーティファクトというのは結局、『よく分からない未知のもの』って事ですか? 不思議道具のような?」



 スワヴェルディが口にしていた言葉を思い出しながら至誠は問いかけた。



「そういう解釈でも構わない。道具に留まらず生物系アーティファクトもあるがね」



 オーパーツやロストテクノロジーの類いかとイメージするが、しっくりこない。



「魔法とかとは、違うんですか?」



 至誠にとっては魔法も未知の現象だ。



「魔法や鬼道は技術体系だ。学問の方が近い。それに対しアーティファクトは、この世の理を無視したりねじ曲げて特異な現象を発生させる」



 魔法・鬼道=科学。

 アーティファクト=超常現象や超能力。


 そのように考えることにした。



「なるほど……。なんとなくですが、分かりました」



 釈然としない所もあるが――と思いつつ、今は話を先に進める。



「ちなみにその模様と同じような図柄は他にないんですか?」



 もしも未来の世界なら、他にも同様の存在があって然るべきだろう。



「思い出せる限りはないわね……。ただまぁ、私たちも全てを把握している訳じゃないからねぇ」


「そうだな。詳細は本国に戻り次第改めて精査しよう」



 思ったのですが――と至誠が口を開くと、全員の視線が一手に向けられる。



「もしもその壁画――日本刀もそうですが――異世界説的には、漂流物の可能性があると思うんです」



 日本刀や地図が至誠の知る世界からこの異世界に流れ着いた。それは日本人である自分も例外では無い――そんな意味を成す。


 その言葉でエルミリディナが思い当たる節があるのかリネーシャに向かって声をかける。



「アーティファクトってたいてい不意に発見されるじゃない? それって、どこかから流れてきてるって事かしら」


「……そうだな。その仮説も魅力的だ。アーティファクトの発見頻度と、全くの未知なる能力体系は別世界の代物ならば確かに合点もいきやすい」



 双方の可能性を吟味していこう――とリネーシャが総括すると、一つ聞いてみたいのだけれど――とエルミリディナが間髪入れずに話題を切り替える。



「なんでしょう?」



 人差し指を床に水平に向けながら壁方向へ指しつつ、問いかけてくる。



「一方方向へ移動し続けるとどうなるかは知ってるかしらぁ?」


「一方、方向ですか?」



 それが何を意図する問いかけなのか理解に及ばず、首を傾げる。



「そう。至誠の知る世界では、ほとんど開拓してたんでしょう? 例えば、ずっと東に行き続けたらどうなるかしら?」



 おそらくその問いは、日本人なら小学生でも答えられるだろう。



「そうですね。山とか海とかを考えないのであれば、普通に地球を一周して戻ってくると思います」



「チキュウ――ってのは全域球状説と同じかしらぁ?」


「それはどう言う……説なんですか?」



 疑問に疑問で返した為か、リネーシャが補足を入れてくれる。



「不浄の地を含めたこの世界が球状、あるいは球体をしているとされる説だ。他に有力説として、弧状円筒説がある。こちらは円筒状の世界の上部が盛り上がり弧状になっており、その一部にあるのが神託の地とされる説だ。全域平面説もあるが、地上が円状に広がり盛り上がっている所までは観測できてからは少数派だな」



 かつて天動説と地動説と意見が分かれていたようなものだと至誠は解釈する。



「この世界の事はまだ分かりませんが、僕の居た世界では球状でした。なので球体の地、『地球』と呼んでいました」



「なるほど、地上が球体となっている故に地球か」


「それは証明されていた事象なのかしらぁ?」


「証明――そうですね。そこに疑いの余地はないと思います。僕が生まれたときには当然の常識としてありました。ただ、それをこの場で証明できるかと言われると僕の知識では厳しいですが」



 なるほど――と、リネーシャの呟きと同時に、「陛下――」とテサロが口を挟む。



「もし世界形状について議論なされるのでしたら、リッチェには席を外させますが」



 えっ――と動揺にも似た表情をリッチェは浮かべているが、テサロは一瞥すらせずにリネーシャを見据える。



 わずかに間を置き、リネーシャは「必要ないだろう」と告げる。



「確かにリッチェのセキュリティクリアランスでは本来知るべきではない。だが、ならば最初から連れてくるべきではない。それでも連れてきたのはその将来性を期待しているからだ。同時に、志願した以上は、身の丈に合わないモノを抱える覚悟の上だと解釈している」



「情報の適正管理については、テサロのミグの指導を信用しているわぁ」



 リネーシャとエルミリディナの返答に、「ありがとうございます」とリッチェは頭を下げる。


 至誠には分からない話だった。

 少なくとも水を差すべき雰囲気ではないので静観したが、どうやら本題に戻ってきたようだ。




不躾ぶしつけでなければ、ひとつ聞いてみたいのですがよろしいでしょうか?」



 しかしリネーシャが口を開くよりも先にリッチェがそう続けた。

 テサロは出しゃばらないようにと言いたげな仕草を見せるが、リネーシャはそれを許可する。



「もし今描いた地図と、私たちの世界が同じ大きさの場合、世界の――不浄の地を含めた世界の大きさはどのくらいになるのでしょうか」



 世界の大きさと言われどのように答えるか至誠は少し悩む。



「まず、この世界が地球だという前提ですが――」



 至誠は地球の一周分の距離と直径を知っていた。


 至誠は地学に精通していない。しかし宇宙には強い興味があった。

 そのため天文学方面の知識は人並み以上にあり、かつ地球という惑星の大きさは天文学知識として知っていた。



 ふと、高校卒業後の進路で天文学者を目指すか弁護士を目指すかで悩んでいた記憶がフラッシュバックする。



 だが今は余計な情報は置いておこう。

 そう自分に言い聞かせ、知りうる知識を海馬から引き出す。



「そうですね……地上を一周するなら、確か約四万キロメートル、直径に直すと確か一万二千――ちょっと正確な数値は覚えてないですけど、一万三千キロメートル弱だったはずです」


「『キロメートル』とは長さの単位かね?」


「あっ、はい。その辺りは伝わらない感じですか?」



 自然に会話が出来ている現状で、ついメートル法も伝わるという前提で話してしまった。


 事実、先ほどから年月に関する会話で違和感を覚えるところはない。



「通霊術は互いに共通概念が確立出来れば翻訳され、類似概念でも柔軟に対応してくれる。だが固有名詞や、まったく異なる概念は翻訳されない。一応、抑揚はある程度聞き取れるように調整してくれる優れものではあるが――」



 すなわち彼女らは、メートル法の概念を持っていない――ということだ。


 単位なんてものは曖昧なものだ。

 至誠の知る限りでも、メートル法が国際的に主流になった後でも、アメリカでは頑なにヤードポンド法を使い続けていた。


 未知の世界、その単位法の概念が全く違うのは当然か――至誠はそう納得していると、リネーシャが距離に関する単位について教えてくれる。



「我々が使用している距離単位の基本は『ルク』だ。聞いた事は?」


「いえ、ないです」



 ルクスであれば光量の単位だが、彼女は確かに「ルク」と言っていた。



「そうだな――私の身長がおよそ一ルクだ。ルクを千倍した単位がギルク、千分の一した単位がルミという」



 メートルに対してのミリメートルやキロメートルに近しい概念に感じた。

 千倍単位で単位が更新されるのは同様のようで至誠の理解が捗る。



「一キロメートルがどれほどの長さか、説明は可能か?」



 生まれたときからメートル法の日本で育ったが、いざメートルがどれほどの長さかと問われるとなんと説明したらよいか分からない。



「どう言ったらいいんでしょう――。まず基本となる単位がメートルで、それを千倍したのがキロメートルです。百分の一したのがセンチメートルで、それをさらに十分の一にしたのがミリメートルです。一メートルの漠然とした感じでいいなら……たぶんこのくらいです」



 目測で一メートルほどに手を広げて表現するが、正確さに問題があることは至誠自身に自覚があったため、苦笑いを浮かべる。


 リネーシャはその心情を察すると、テサロに問いかける。



「シセイの身長の記録は?」


「少々お待ちを」



 テサロの目の前にフッと光の面が浮かび上がる。

 それはまるでSF作品に出てくるホログラム的な印象だ。



「一三六五.七七ルクでございます」


「シセイ、君の身長はメートル表記でどの程度の数値か分かるだろうか?」



 なるほど、僕のメートル法における身長が分かっていれば、そこから比率を計算出来るってことか――至誠は関心しつつ言葉を続ける。



「たしか、およそ一七四センチ――メートルだと、一.七四メートルです」


「概算で『一ルク』は『一.二七四メートル』か」



 間髪入れずリネーシャが比率を導き出す。



「理解した。術者、被術者間で確立した共通概念は通霊術で自動的に翻訳される。今後、至誠にはメートル単位で理解できるようになるだろう」



 もっとキリのいい数値であれば計算も楽だろうに――と感じていたが、通霊術という代物は実に便利なの代物らしい。


 これがあれば通訳者は職を失うだろう。

 などと考えていると、リッチェが動揺にも似た感嘆を呟いていた。



「外周がおよそ四〇〇〇〇三一四〇〇キロメートルルクの球体……」



「神託の地は一片が二五〇〇ギルク三一八五キロメートルくらいよね」


「そのくらいだな。正確な測量をしている訳ではないが」


「ラザネラ帝国とマシリティ帝国が滅亡すれば楽に測量も出来るわ。滅ぼしに往きましょうか?」



 冗談だと分かる笑みを織り交ぜながらエルミリディナが投げかける。


 リネーシャが半ば呆れたような口調を漏らしている間、至誠はかつての知識を引っ張り出そうと奮闘する。




 うろ覚えだが、たしか地球の表面積は約五億平方キロメートル。


 そのうち陸地の割合が三割なので、どんぶり勘定で一億五〇〇〇万平方キロメートル。


 この世界が仮に三二〇〇×三二〇〇キロメートルだとして、一〇〇〇万平方キロメートル強。



「……七パーセント?」

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