真紅のお肉を貰った二日後、僕はとても心配していた。

幼なじみの女の子が忽然として消えてしまったのだ。

幼なじみの親曰く、消えたのは丁度二日前で「ちょっと出掛けてくる」と言って出たのだが暗くなっても帰ってこなかったらしい。

昨日一日かけて村中や周りの雑木林を探したが見つからなかった。

幼なじみの両親は昨日の晩、ずっと泣いていたのを覚えている。

本当に何処へ行ってしまったのだろうか?

彼女は基本的に自分の親や周りの人に迷惑をかけるような子ではないのだが・・・

「おや?これはこれはどうも。何やら浮かない顔で」

彼女が行きそうな場所や帰ってこない理由を考えていると”商人”がいつものように馬車を引いてやってきた。

「何かありましたか?」

「幼なじみの女の子が出掛けるって言って消えちゃったんです。”商人”さんは何か心当たりはありませんか?」

正直、”商人”に聞いても何の情報も得られないだろう。

だが、ダメ元で情報を聞いてみるのも重要な事である。

「ふむ、すみませんが私は存じ上げませんねぇ・・・どんな子なんです?」

「髪は金色で長くて、服装は結構簡素で、笑顔が似合う明るく元気な子なんです」

自分では具体的に伝えたつもりなのだが・・・どうだろうか?

「・・・いえ、知りませんね。でもその感じだと結構行動力のある子みたいですし、森の深い所へ入っていったのではないんでしょうか?」

・・・?

なんだ今の間は?

目がはっきり見えないのでどうも判断できないが、知ってて伏せた感じがする。

「そうですか・・・それじゃあ皆に森の奥も探してみるように提案しておきます。ありがとうございます」

「いえいえ、力になれなくてすみませんねぇ・・・お詫びに、このお肉をあげますね」

そう言って”商人”が僕の前に差し出してきた肉は、昨日よりも赤みが濃い「深紅のお肉」だった。

「凄く赤いですね」

「ええ、昨日下ろしたばかりですからねぇ。ただ、そのまま食べても美味しくないのでこれもお付けします」

馬車の運転席の辺りから小さな麻袋を取り出し、それを僕に渡してきた。

袋の中を見ると塩と胡椒が瓶に詰められた状態で入っていた。

「良いんですか?」

「ええ、どうぞ」

恐らくではあるが笑顔でいるのだろう。

それに自分も笑顔で返した。

疑問を今まで以上に抱きながら。

「それでは、他の皆さんにも配らないといけませんから」

「はい、ありがとうございました!」

深々とお辞儀をすると”商人”も帽子の縁を摘んで会釈で返してくれた。

時間的にも良かったので「深紅のお肉」は昼食で食べた。

味付けがしっかりしていて美味しかった。

ただ肉を口に入れた際、若干苦味に近いものが感じられた。

でも塩・呼称のおかげで殆ど気にならなかった。

その日の夕方、外に涼みに出ると村の入口に見慣れた馬車の後ろ姿があった。

・・・そういえば昨日は謎の影が”商人”を追っていた。

あれは一体なんだったのか。

今でも分からない。

だが例の影は”商人”に気付かれずに尾行ができたのだからなかなかのものである、と個人的には思う。

何か痕跡は残っていないだろうか?

影が見えた入口付近を捜索する。

「・・・ん?」

よく見てみると枯れた木の枝が積み重なった所に何かが落ちていた。

「これは・・・」

それはピンク色の花のワッペンだった。

そしてこれは、幼なじみの女の子がいつも身につけていた物であった。

それがここに落ちてる、さらに消えた時間を考えると・・・

僕は”商人”の馬車の後ろ姿を睨めつけながら、コソコソと追いかける事にした。

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