ある日、”商人”が来た時に僕達は近所のおばさんに聞いた。

「ねぇねぇ、おばさん。なんであの商人さんは僕達にあの美味しいお肉と水をくれるの?」

「なんで私達にこんなにも親切にしてくれるの?」

幼子のよくある問いかけだと思ったのだろう。

おばさんは笑顔でこう言った。

「よく理由は分からないけど、この村の人を助けたいんだとさ。きっと天使か神様の子どもなのかもしれないねぇ」

相変わらずはっきりしない、ぼやけた答えを返してくる。

僕達はそんな曖昧な答えを求めているわけではないのだが・・・

「一体いつからあの商人さんはこの村に来てるの?」

「さぁ・・・そればかりはアタシも知らないねぇ・・・アタシが三〇ぐらいの時から来てたか・・・も?」

「それが本当ならあの商人さんって結構なお歳じゃ・・・」

「ん?何か言ったかい?」

おばさんは満面の笑みを幼なじみに向けていた。

その笑顔が良い意味合いを持っていないことは、流石に僕らでも理解できた。

「い、いえ!なんでもないよ!なんでもない!」

焦って弁解する彼女を尻目に僕は”商人”の顔をジッと見ていた。

赤い帽子の影に隠れて目は見えないが、顔の輪郭から若いという印象を受けた。

彼女の言う通り、おばさんの言った事が本当であれば多少なりとも老けているはずだがそんな感じが全くない。

――あの商人は本当に「人」なのだろうか?――

自分の中で、そんな受け入れ難い疑問が新たに生まれた日だった。

それから約1週間後、”商人”はいつも通りに現れて村民達にお肉を配っていた。

「さぁ、僕、これをお食べよ」

そう言って僕に”商人”は赤いお肉を差し出してきた。

「ねぇ、”商人”さん。なんで”商人”さんは僕達を、村の人達に親切にしてくれるの?」

おばさんやお父さん、お母さんに聞いても返事が変わらなかったので思い切って本人に聞くことにした。

「それはここの人達が皆とても貧しい暮らしをしているのを見て「助けたい!」って思ったからさ。こうやって新鮮なお肉と水があれば一週間は十分保つし、何より皆元気になるだろう?だからさ」

相変わらず目が帽子の影に隠れて見えないが、口元が綻んでおり、喜んでいるようにみえた。

「”商人”さんはいつからココへ来てるの?」

これが聞ければこの人の歳が大体分かる。

さぁ、どう答える?

「・・・もう毎度のように来ているからいつからココへ来だしたか忘れちゃったなぁ」

困ったような顔でこのように答えた。

僕はなんとなく、この”商人”は嘘をついているのでは?と思った。

「本当に?」

「ああ、本当に忘れちゃったよ。ここ以外にもいろんな場所を回ってるからね」

その表情を見る限り、本当に忘れているようだった。

本当に?

これだけしっかり毎週来ているのに?

怪しいと思い、更に聞こうとしたが・・・

「ごめんね。君の質問にしっかり答えられなかったお詫びとしてこれをあげるよ」

“商人”は馬車の荷物置き場に入って、さっき貰ったお肉より一際赤みを帯びたお肉を渡してきた。

一目見ただけでもとても質の良いお肉であることが分かる。

大きさもなかなかだ。

「わぁ!良いの!?」

「ああ、是非、家族達や他の人達と一緒に食べてくれ」

今まで見た事がない程に素晴らしいお肉だった。

故に、さっきまでの思考が完全に遮断された。

「ありがとう!」

「どういたしまして。それじゃあ僕はもう出るね」

そう言って馬車の運転席に乗り込んで。

「バイバイ!また来るね~!」

「バイバイ!」

村の入口まで引き返し、去っていった。

「ん?」

僕が“商人”を見送っているとコソコソと何かが”商人”の後ろを、物陰に隠れながら追っていた。

しかし距離があるためその”追跡者”の正体は分からない。

だが大きさを考えれば多分、村の小さな子供なのだろう。

それならどうせ見つかってこっちへ帰ってくるだろうから気にする必要はあるまい。

そう思いながら、僕はさっさと家へ帰った。

その日のご飯はとても豪華な感じになった。

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