第247話
おそらく矢野のとりまきのひとりが呼んできたのだろう。そのせりふで私は頭のなかがまっしろになった。
「気分はどうですか?」
その質問に私は返事ができなかった。ただただぼけっと先生の顔を見るだけだ。
「ちょっと失礼しますね」
そういうと医者の先生はとくにあわてるようすもなく部屋にはいってくる。
病室を進み私のそばにやってきた。目のまえで腰をかがめ、眼球にライトをあてたり、のどを見たり、ひざこぞうを小槌で軽くたたいたりと、ひととおりのことをした。
それらがすべて終わるといった。
「もう大丈夫です。どこにも異常はありません」
私の健康状態に太鼓判を押した。
「今まで意識が戻らなかったのは、極度の緊張からくるストレスだったのでしょう。気絶したのも、そのストレスが原因だったようです」
レントゲンにも血液検査にも異常は見られなかったそうだ。
「記憶障害もないようですし、もうなにも心配はいりません」
そういって言葉をしめるが、私が心配なのは自分の身体なんかじゃない。丹波のことだ。
「丹波がもういないって……もしかして……」
涙が勝手にあふれてきた。
誰も言葉を発しない。
しばらく無言が続いた。
「泣くなよ、宮沢」
いつものバカにしたような口調をわざとつくって矢野がいうが、そのいいかたがあまりにもへたくそすぎて、よけいに涙はあふれてきた。
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