第235話

「若っ」


 黒スーツのなかのひとりが叫んだ。私はわけがわからなかった。


「うあああああっ」


 床に倒れた矢野が叫ぶ。


「逃げろ、宮沢っ。丹波を連れてっ」


 その言葉の意味を理解するよりも、私の意識は天野くんにむいていた。


「なんで?」


 まったく意味がわからなかった。


 どうして彼が銃を持っているのだろうか。


 そして、どうしてその銃で矢野を撃ったのだろう。


 なにもかもが予想のそとで、理解できない。


「黒幕は、あいつだ」


 床に倒れた矢野がいう。


「あいつが丹波の命を狙っていた」


 よほど痛むのだろう。叫ぶように矢野はいう。すでに床にはおおきな血だまりができていた。


 私は、はっと思いだした。


 いつか丹波がいっていた。


「女づれのにやついた野郎だった。それがまずかった」


 女づれ――


 それは理子のことだったのだ。


 そして、まずかった意外な相手とは天野くんのことだった。

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