第234話

 エレベーターホールからワンボックスまでのあいだに十戒のような道ができていた。


 銃声がきこえた。


 景色がスローモーションで見えた。


 矢野の左ふとももから噴水みたいに血が噴きだす。


 そこで気づいた。


 うしろから矢野の足が撃ち抜かれたのだ。


 矢野はバランスを崩した。


 走っているかっこうのまま、まえにむかってゆっくり倒れる。巨大な身体が落ちていく。


 私のまえをさえぎっていた遮蔽物がなくなった。矢野のうしろの景色が見える。


 そこには。


 めがねをかけた少年の姿が見えた。


 私はその少年の顔を知っていた。


 理子の彼氏だ。


 天野涼。


 彼がちいさな銃をこちらにむけていた。

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