第216話
ばれたのだ。丹波を狙う連中に。
そして火炎ビンを投げこまれた。
いつか丹波が私に話してくれた事態そのままだった。
人だかりがすでにできていた。
今度はもう迷いこんだ数人なんて数じゃない。わざわざここまで見にきている。そんな人たちの列を割るように消防隊がビルに近づく。
ビルのまんまえには消防車が停まり、放水活動をし火消しにいそしんでいる。水が大量にまかれているのに、空気自体がやたらと熱い。肌のおもてがぴりぴりしてくる。
「誰か残っていませんかー?」
消防隊員がそんなふうにビルにむかって叫んでいるが、その心配はないだろう。もともとあきビルだし、繁華街のはずれでめったに人もよりつかない。
それにこのビルにこっそりともぐりこんで住んでいる唯一の住人だって、今は病院の個人病棟に入院している。
やばい――
その瞬間、私の頭を不安がよぎった。身体のうち側が急激に冷えていくのを感じた。
丹波を狙う誰かがこれをやったのならば、その誰かは本人がここにいないことを知っただろう。
あるいはもともと知っていて警告の意味をこめてこんなことをしたのだろうか。
いつでも殺せる。
これはそんなメッセージなのかもしれない。
凶悪な炎を見て、私はなぜかそう思った。
いずれにしても、今、個人病棟にひとりでいる丹波があぶないことには変わらない。
こうなってしまっては、もう悠長なことなどいっていられない。
私はそう直感した。
きびすを返し、その場を離れる。
ふたたび電車にのり、附属病院に引き返した。
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