第215話

「私は丹波の家から必要な荷物を持ってくるから」


「うん、わかった」


 そういいながらスマートフォンを操作し続ける天野くんを歩いて抜かした。エレベーターが到着するのを待つ。


 到着した。


 病棟の一階にある共同トイレから戻ってきたらしい理子がのっていた。


「あっ、理子」


 私はエレベーターのドアのところで理子とすれ違う。


「ごめん。初乃、ちょっと待って」


 そういってから理子はエレベーターホールにいる天野くんに声をかけた。


「涼、帰ろう」


 そして私たちは三人でエレベーターにのって一階にいった。


 そとにでると、すでに真っ暗。


 広い敷地を歩いて病院をでた。


 駅まえでふたりとわかれると、私はふたたび電車にのった。四駅先までいき、丹波の住まいである廃雑居ビルがある繁華街のほうに足をむける。


 そのときからすでに異変には気づいていた。


 電車をおりた瞬間からものものしさを感じたのだ。


 ふだんのようすとなにかが違う。


 駅まえの交差点は人どおりの波がとまり、アーケードからは続々と人が吐きだされてきていた。


 そして極めつきは暗闇の空にむかって伸びる灰色の煙と、消防車のサイレンの音だった。


 まさかと思った。


 いやな予感がしてたまらない。


 私はアーケードをくぐり繁華街を走り抜けた。はずれのそのまたはずれにあるあきビルにむかう。


 予想は的中していた。


 燃えている。


 あきビルが。


 いや。


 丹波の、とっておきの隠れ家が。

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