第204話

「げほっ、げほっ」


 丹波は咳こんだ。


 そういえば前日、丹波は雨のなか何時間も私のことを待っていたのだ。


 そして私と合流したあとも寒いといったり、鼻水をすすったりしていた。


 それはそうだ。これだけ身体が熱を持っているのだ。


 そんな状態でさらにケンカまでした。そんな無茶をして身体がただでいられるわけはない。


 私は丹波の身体を無理やり肩で持ちあげて、カニ歩きでおっかなびっくりらせん階段をしたまでおりた。


 ワンフロアぶんだけで本当によかった。


 だが、よくない事態がすぐそばにある。


 丹波を安全で治療のできる場所につれていかなければいけない。


 どこにつれていけばいい?


 私の家?


 遠すぎる。電車で四駅ぶんなんて無理だ。


 それなら丹波の家にいく?


 それもだめだ。私は場所を知らない。


 肩にかついだ丹波は血とは違う赤で顔を染め、ぐったりと目をつぶっていた。そしてときおり、むせるように咳をする。


 途方に暮れた。


 アーケードを抜けて先ほどの公衆電話にむかえば、あるいはなんとかなるかもしれない。


 セオリーどおり救急車を呼ぶか。理子たちに連絡をとって合流するのもひとつの手だ。


 とにかくこの場はすぐに離れなければいけない。


 ひいこらしながら私は丹波をかつぎ、繁華街を抜けた。


 目のまえの夕焼けが、丹波の顔のように赤かった。

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