第203話

「約束どおり、初乃に守ってもらえた」


 そういって、ひしゃげて折れた傘を左手の指の先でやさしくなでた。動きがとてもぎこちない。


 この感じは折れているかもしれない。


 傘じゃなく、丹波の腕が。


 そんなふうに思った


「だが」


 丹波はいう。


「ばれちまった。やつらに」


 どうやら自分を狙っているやばい連中の襲撃だと思っているようだった。


「ううん。違うよ」


 私は説明した。


「たぶん、あれはこのまえのリンチの不良。私、あの人たちがやられた復讐ふくしゅうをしようって話しているのを昨日たまたまきいた。それで、そのことを丹波につたえなきゃって思って、ずっと丹波のことを探していたんだ」


「そっか。じゃあ、まだ大丈夫なんだな」


 自信はないけど、たぶん平気だろうと思う。


 私は「うん」とうなずいた。


 丹波は心底安心した顔になる。


「それなら、まだ初乃のそばにいられるのか。よかった」


 そういって私を見つめる。


 私は涙どころか、よだれや鼻水までたれてきた。


 痛々しい姿をした丹波をこれ以上見ていられない。とりあず傷の手あてをしなければいけない。


 クッションはあったといっても、あれだけの大立ちまわりをしたうえに階段を転げ落ちているのだ。


 左腕だっておかしい。見た目の怪我よりもぼろぼろになっているだろうことは、ひと目見てあきらかだった。


「立てる?」


 私は丹波に自分の肩を貸す。丹波のわきに自分の肩をさしこんだ。


 その瞬間、びっくりした。


 尋常じゃない。


 丹波の体温が。

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