第202話

「初……乃……」


 丹波はよろよろと身体を起こす。自分の力だけで上体を起こし、らせん階段にぺたんとお尻をつけて座った。


 やはり転げ落ちたわりにはかなり元気がある。


「したのやつがクッションになってくれたから衝撃はそれほどでもなかった。それよりも……」


 丹波は自分の手もとに視線を落とす。きつそうな表情をする。


「壊しちまったな。初乃の傘。ケータイとおなじだ」


 私は鼻の奥が痛くなった。涙腺からは涙があふれる。


「よかった」


 左右にぶんぶん首を振る。


「傘なんて、どうでもいい。それより、ごめん。もっと早く見つけてあげられなくて」


 そんなふうに口をひらくと丹波は右腕だけで、ぎゅっと私を抱きしめた。身体が熱い。


「警察は?」


 私も丹波の身体に手をまわしながらいった。


「あれは、嘘。警察なんてきていない」


 涙で声がかすれてしまった。


「そっか」


 丹波は私の頭をぐしぐしとなでてくれる。


「ありがとな」


 血まみれの丹波は私から離れると、らせん階段の手すりにもたれた。座っていても体勢がきついのだろう。しんどそうな口調でいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る