第205話

 公衆電話にたどりついた。


 まずは理子のケータイに電話をする。


 事情と現在地をつたえて電話を切った。ちょうど三十円ぶんなくなった。


 理子はわかったといっていた。


 それから天野くんとも連絡をとって、ふたりでこちらにむかうともいっていた。


 理子はパニックになる私をなだめるようにやさしい言葉でそういってくれた。


 おとなしく待っていなさい。


 そんな指示があった。


 私は丹波に肩を貸したまま、ふたりで電話ボックスにもたれた。目のまえの歩道では私たちに無関心な人たちがいったりきたりと歩いている。夢とうつつのはざまのような日曜夕方の世界に、現実と現実感のギャップの音がうるさく響いた。足音、ロードノイズ、空気のうねり。どれもこれもが私たちに無関心に騒いでいる。


 だが理子に連絡がついて、ほんのすこしだけだが私の気持ちは落ちついた。


 私の肩で丹波は、はあはあと荒い息をしていた。


 風邪をひいている状態で、あの人数と大立ちまわりをしたのだ。アドレナリンが分泌されまくって、もともと高くなっていた体温がさらに跳ねあがったのかもしれない。


 静寂によく似た喧噪のなか、五分ほど待っただろうか。


 私たちのまえに知っている顔が立った。


「あっ」


 私は最初、理子だと思った。


 だが、違った。


 男だ。


 しかし、天野くんでもない。


「丹波ああああっ、宮沢あああああっ」


 その男が叫んだ。


 縦にも横にもおおきい身体。


 つんつん頭の茶髪。


 矢野だった。

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