第193話

「いつでもたよってきてっていつもいってくれたよね」


 そのせりふで多少の意味が通じたらしい。


「なに? どうした。なにかあったの、初乃」


 ちゃりんとまた音がした。二枚目の十円玉がのみこまれた。私はいった。


「お願い。丹波を見つけなきゃいけないの」


 それから早口でまくしたてるように事情を話した。


 そのあいだにまた数枚の十円玉が電話機にくわれていった。


 半分パニックになりながら一方的に話しをする私の言葉を、理子はちゃんと理解できていたのだろうか。はっきりいってわからない。


 そして私が理子の立場だったらおそらく、この説明を理解なんてできないだろう。それくらに、はちゃめちゃだった。


 だが、会話が途切れると理子はいった。


「わかった」


 思いもかけない言葉に私は目をぱちくりさせた。


 私の本気がつたわったのだろうか。


 ただの軽い口約束が、社交辞令じゃなくなった。


 ふだんは無関心を決めこんでいる理子がなんと、私のお願いにオーケーしてくれたのだ。


「今、涼にお願いしたら、いいっていってくれた。涼もいっしょに探してくれるって。もともとどこにいくかとかも決まってなかったし、大丈夫だからね。涼もいってる。人探しなら人数はおおいほうがいいもんね」


 涙がでそうになった。

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