第181話

 そのまますこし、ふたりでならんで夜景を見ていた。


 興奮で胸がどきどきと高鳴るというよりも、おだやかな気持ちのほうがなぜか強かった。


 三十分くらいたっただろうか。身体もそろそろ冷えてきた。


 どちらともなく、帰ろうかという流れになった。


 私たちはらせん階段をおりた。


 六階ぶんを一気におりて地上につくと丹波がいう。


「きてくれて、ありがとう」


 私は首を左右に振る。


「ううん。私こそ……」


 そのあとの言葉が少々恥ずかしかった。


「ありがとう」


 これは、いろんな意味をふくめた「ありがとう」だ。


 きっとこのニュアンスは丹波にもつたわっているだろう。やけに恥ずかしそうにしている。


「駅まで送っていこうか」


 この街に住んでいて、帰る方向が私と逆の丹波が提案する。


 私はかぶりを振った。

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