第145話
「そんな毎日がおれは嫌だったな」
昔を思いだすような口調で丹波は続ける。
「だけど、小学校のおれには相談する相手もいないし、たよれるおやじだって死んじまっていなかった。どこかに逃げようとしても、ばあさんの家はアメリカだ。完璧に手詰まり。もっとも、もしアメリカに逃げたとしても事情はあまり変わらなかっただろうしね」
あっちにいったらいったで、今度は日本人のくせにといってアメリカの子どもたちにいじめられると丹波はいう。
たしかに今、おとなたちの世界では目に見えるような露骨な差別はほとんどの場合でタブーとされている。
だがそんなものは、おとなたちのたてまえだ。丹波がモンゴロイドとコーカソイドの混血である以上、子どもの世界ではどこにいってもその国の人間ではないという事実だけが圧倒的にそこにある。
「死のうとさえ思ったよ。ガキながらにさ。けど、どうせ死ぬなら一発かましてやろうって思った。もし、逆らってぼこぼこにされたうえ、そのまま死んじゃってもいいやって思ったら腹がくくれた。どうせ死んじゃう予定なんだし、結果としては変わらないじゃないかってね」
腹をくくるという気持ちはわかったが、そのあたりの発想は、さすがに私にはない。
男だからなのか、ケンカっ早いアイリッシュ系の血の影響なのだろうか。いずれにしても丹波は決意した次の日、さっそくそれを実行に移したらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます