第144話

「なんでおれのばあさんはアイルランド人なんだろうって。もしみんなとおなじように日本人だったらよかったなんて思った。クオーターっていっても、そんなに変わらないだろ。こんな些細な違いでいじめられるくらいなら、おれもみんなのようにまっくろな髪の毛で生まれればよかったなんて本気で思った。くだらない妄想だよな、本当に」


 なるほどと思った。


 髪の色や顔つきの違い。内部にもともといた生徒と外部からきた生徒の違い。どちらもどれほど違うのだろうか、すくなくとも私にもわからない。


 だから丹波はあのとき矢野たちのいじめを見て「くだらない」と一蹴したのか。


 あのとき丹波がいったせりふの中身は、いじめの事実だけじゃない。


 私が外部からの生徒だからいじめられているというその原因もふくめてのものだったのだ。もしかしたら丹波は、そのときの私に昔の自分の姿を重ねあわせていたのかもしれない。


 だから丹波は、あのときさらにちょっかいをだそうとした矢野をとめた。


 初日の矢野のパフォーマンスを見て、なんとなくこのクラスの事情やルールを把握していたにもかかわらずだ。


 丹波は不良というより、いじめがゆるせない。そんな人間であるようだ。

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