第143話
丹波はその場にどかっと座った。階段に腰をおろす。
私はどうするわけにもいかず、丹波をななめしたに見おろすかたちで階段の手すりにもたれて立った。
長い話が始まった。
丹波の話は自分の子どものころから中学時代、そして一週間まえに転入してくるまでの経緯だった。
「ガキのころのおれはいじめられっ子でさ、毎日クラスのやつらに殴られて蹴られて泣いていた。教科書なんてもらった日からびりびりにやぶかれたし、机は毎日チョークの粉やら泥やらションベンやらをぶちまかれていた。学校に私物なんておいて帰った日には、それこそかならず壊された。悔しかったよ。悔しかったけど、なにもいえなくて、ただ泣き寝いっていた。そんな毎日だった」
驚いた。
丹波もいじめられっ子だったなんて信じられない。だって丹波はあれだけの人数に囲まれても堂々としている男なのだ。
「ケンカなんて、ただの手ぎわだよ。慣れれば誰でもあれくらいはできる」
そんなふうに丹波はいう。
「それにべつに、いじめられていたことも意外なことなんかじゃないよ」
丹波は遠くげた箱の先のほうを見ていった。そこに過去の自分がいるのだろうか。
「ガキっていうのは残酷だからな。ほら、おれはこんな顔で、こんな頭だろ。ハーフだクオーターだなんていっても小学生には、そんなことはわからない。ガキにとってはこんな金髪でこんな顔立ちのやつはただの異質だ。全部まとめて外人だ。いや……」
丹波はじょうだんめかしていいなおした。
「どちらかといえば
その言葉で、はっとした。
じじつ学校で矢野たちからいじめを受けているさいちゅうの私でさえ、丹波の風体を始めて見たときコーカソイドだなんだと思った。悪気はないただのイメージだが、まだまだ未熟な小学生にはそんなことはわからない。もちろんいっているほうだってネガティヴな意味でしかつかっていない。丹波は今、当時のことをじょうだんぽくいっているが、そうとうな苦痛だったはずだ。
いじめられる気持ちは私にはわかる。
「ばあさんの血をうらんだよ」
丹波は、げた箱のほうを見たままいう。
私も反射でそちらを見る。視線の先には誰もいない孤独の空間が見えた。
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