第135話

 私はできごとのショックがおおきすぎて、そのあたりを失念していた。あの屋上での一連もいじめの延長のように感じていたのだ。


 丹波はいう。


「だから、あいつらに初乃はおれと関係ないということをつたえた。そうすれば、初乃をさらうことになんの意味もなくなるとやつらが気づくから」


 それがどうやら電話口で丹波がいっていた「関係ない」の中身だったらしい。そういう意味では、丹波の作戦は成功したということだろうか。


「それでやつらがあきらめて帰るだろうと思った。あきらめて初乃のことを解放するだろうと。それにもし解放されずに、やつらだけがその場からいなくなれば、そのころを見計らっておれがたすけにいけばいいわけだし」


 話しだけきけば丹波の思い描いた作戦は、ことごとく成功している。


「だから一時間くらいたったあと初乃のケータイに電話をかけた。ようすを知りたかったし、いいわけもすぐにしたかった。だけど、かからなかった」


 電波が届かないというアナウンスが流れたらしい。それはそうだ。私のスマホは丹波との通話のあと矢野にたたき壊されて、こんな状態になったのだから。


 その結果が今、私の手もとにある液晶にクラックがはいったスマートフォンだ。ここにも時間割の予定表でも貼ればごまかせるのだろうか。


「それであせった。なにかあったんじゃないかと思った。おれの思惑がおおきくはずれて、初乃が大変な目にあわされたんじゃないかと思った。だから、やつらがおれを呼びだした屋上にいった。途中で雨がふってきた。万が一を考えて傘を買った。学校にいった。初乃がずぶ濡れになっていた。遅かったと思った。おれの見とおしが甘いせいで初乃が泣いていた。胸が張り裂けそうになった」


 丹波は悔しそうにいう。


 あのときは夜だったうえに雨だってふっていた。そのなかでわずかに流していた私の涙に気づいていたなんて驚きだった。

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