第134話

 情けない。


 滑稽だ。


 どんな言葉で自分を責めても責め足りない。


「初乃。おれな……」


 丹波がいう。


「あれで守ったつもりでいた。初乃のことを……」


 わけのわからないせりふだ。私はなにも返事をしない。静寂が白い廊下をつつんだ。


「ごめん」


 悔しそうなつぶやき声が、しずかに響いた。


 私はわけがわからなかった。


 というより、ただただあきれていた。


 眉間にしわがよっているのが自分自身でもわかる。きっとそうとうまぬけな顔をしていたのだろう。丹波がいった。


「あいつらがあの日、狙っていたのはおれだったろ。初乃じゃない」


 そういって私の目を見る。


「おれのせいで初乃に迷惑がかかった。やつらは初乃をだしに、おれを呼びだそうとした。おれをボコるために」


 まあ、たしかにそういう感じだった。似たようなことを屋上で矢野もいっていた。その証拠に私がふだん受けているいじめと拉致監禁は明らかに性質が違う。

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