第118話

 それならば……


 もしかしたら矢野の机をあされば、見つかるかもしれない。私のケータイがひょっこりとでてくるかもしれない。


 もちろんすべて私の予想だから、から振りの可能性もないことはない。だがそれならば、矢野が自分の鞄のなかにでもいれているかもしれないという可能性だって浮上してくるというだけだ。


 詰まっていたはずの手が生き返り、私はわずかな希望を見た気がした。


 それならば、まずは探せるところから探してみよう。


 今ならまだ教室には私ひとりしかいない。確実なチャンスは今しかない。


 そう思って私は勢いよく顔をあげた。


 すると。


 教室はけっこうにぎわっていた。


 人がたくさんいる。


 私が自分の世界にはいっているあいだに、ぞろぞろとみんなが登校してきたようだ。すでに半分くらい席も埋まっている。


 私は正面のまうえにあるかけ時計を見た。


 八時十五分。


 ホームルームが始まる十五分まえだ。


 どうやら私はそうとうな時間、机につっぷして考えこんでいたらしい。


 いちおう視線を奥に振った。


 矢野もすでに登校していて、そのまわりには不良グループもたまっていた。


 どちらにしても、今は無理だ。


 矢野に直接たずねる勇気なんてとうぜんない。ひとまず次のチャンスをうかがうことにした。


 こっそり探すには、どうすればいいのだろうか――


 チャイムが鳴った。


 予鈴のようだ。


 気にせず私は考え続けた。


 ふたたびチャイムが鳴り響く。


 担任がはいってくる。


 ホームルームが始まった。

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